隠された真実①
────2021年・・・
突如飛来した隕石群…
その隕石群は世界各地に飛来し、様々な被害──暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火などが各地で発生──をもたらし、更に追い打ちをかけるかの如く『異獣』と後に呼ばれる怪物達が出現したのだ。
異獣とは突然変異を起こした獣の事をさしていた。野良に放たれた獣達、折りに入れられている獣達、野生に生息していた獣達──獣には分類されないが鳥類も含まれる──の事を総称して呼んでいた。
異獣が上記だけの存在──姿形だけが変わっただけ──ならば然程、問題視はしなかっただろう・・・。だが奴等は違った──。
──喰うのだ、人間を。
食料として、そして何より傷を癒す為の糧として・・・。
隕石が落下し異獣が出現してから数年の月日が経った──。
隕石の落下で影響が出たのは獣達だけではなかった少なからず人体にも影響があり、最も影響を受けた者達。つまり『覚醒』した者達──『覚醒者』とも呼ばれる存在──が現れていた。そして異獣に対抗し得る唯一の存在でもあった覚醒者達による異獣討伐作戦が決行された。
討伐戦は熾烈を極めたが終息の一途を辿る。
最後の異獣から世界の脅威を拭い去った英雄達がいた。その者達は異獣に対し最も有効な『召装具』を纏った女性を中心とした5人編成部隊『リヴォルト』と名乗り、その名は語り継がれていった──。
───(時は過ぎ、2198年)───
最後の異獣を倒してから180年近くが過ぎ、先の戦いを『終末戦』と呼び、戦いの爪跡は年月を重ねると共に復興していった。復興と共に世界は大きく分けて4つの同盟国──アジアを中心とした大亜細亜同盟、アメリカ合衆国を中心とした合衆統治国USA、ヨーロッパ諸国を中心としたEUE、ロシアを中心とした共和皇国モスクワ──に様変わりしていった。
終末戦後、覚醒した者や覚醒予兆のある者を軍とは違う新たな組織を編成することが各同盟国による『世界統制国際連盟(World control League of Nations)』通称:『CLWN』で定められた新組織『Diving Superior Brave(ディヴァイング スペリオール ブレーヴ)』。通称:『DISRVE』である。
CLWNによって新たに組織が編成される一番大きな要因としては、異獣の脅威に対抗できる唯一の手段であり初動の速さを求める為だった。
もし仮に軍による統括にした場合、諸々の手続き等で初動が遅れる可能性があり被害が拡大する恐れがある為である。それに覚醒した者は必ず兵器を身に付ける為、新たな組織編成が必要となったのである。
ただし兵器と言っても武装を纏う者もいれば、炎や水といった物質を操れる異能を発揮する者など様々であった為に、それらをまとめて召装具と呼称していた。
これらの召装具を纏う理由は未だ解明されておらず、180年近く研究者達の頭を悩ませている。
なぜ長年研究が進まないのか、その理由は至ってシンプルだった。
召装具の『核』となる物質が心臓にあり、取り出すことが困難な上に、覚醒者の死後には核が体内から消滅してしまう為だった。
戦後当初、某国では人体実験が行われていたとの説もあったが、これが事実なのか、当時の記録は現在に至っても確認はとられてはいない・・・
──風御学園──
大亜細亜同盟内に10校存在する覚醒者専用校の一校であり、学園ではいつ起こるかもしれない脅威に対しての知識、経験などを高め為に設立された学園だった。
この他に桐谷学園、龍間攻専學校が旧日本国内には存在している。
覚醒者専用とはいっても学生に変わりはない為、学業の中には通常教科も含まれてはいるものの、卒業後の進路はDISRVEへの正式配属が義務化されていた。
この平穏な日々に脱力感を抱いていた人物が一人・・・
笠神唯は退屈だった。
毎日の宿舎から学園までの道のりが、淡々とすすむ授業が、カリキュラム通りに行われる訓練が、何もかもが退屈だった…。
平和な日常が嫌いな訳ではない。平和で結構。ただやはり物足りない、身体から湧き出る何かを日々抑えられてる…そんな感覚さえ覚えていた。
「─い──う───ろ?──」
唯は後ろの席からボソボソと耳打ちしてくる声が聞こえた事に気が付いたが、授業中とゆうこともありよくは聞き取れなかった。勿論、話してきた相手もそれを承知の上で話し掛けてきているのだが…
「わりぃ隆士、聞こえなかった。なんだった?」
唯は正面を向きつつ背もたれに身体を預け耳を傾けながら小声で返事をすると、後ろの声の主である隆士は先程より若干声量を上げて話し掛けてきた。
ただ、あくまでも授業中なので周囲には聞こえない程度ではあったが、聞き耳をたてている唯にははっきりと聞こえる声量だった。
「唯は今日なんだろ?召装分析。」
そう問い掛けてきたのは幼馴染の麓山隆士だった。外見は赤く少し長く伸ばされた髪が印象に残る。細い体躯でありながら筋肉が引き締まっており、運動神経は学年でも目立っていたが、学力の面でも『ある意味』目立っていた。性格は誰にでも馴染めるタイプでクラス内外からの人気もあった。
そんな麓山から話題に上がった召装分析とは、覚醒の兆候がある生徒を対象に3ヶ月に一度定期的に行われる検査だった。
分析といっても簡単な問診と血液検査で結果はその場で伝えられる。その他にも気になることがあれば質問も受け付けているがそれの回答は後日報告を受けるようになっていた。
因みに、この召装分析を受けることで未覚醒者が覚醒する為に必要なカリキュラムが決定するのである。実際、卒業までに覚醒しなかった生徒の実例が無いだけに、この分析も無駄ではないとゆうことになる。
「あぁ、そうだよ。いい加減面倒になってきたよ・・・」
唯はため息を微かに吐き天井を見上げた。唯はこの学園に通って1年と9ヶ月が経とうとしていた。
──いや、今日がその9ヶ月目なのだが。
今までの分析結果はあまり芳しくはなかった。
学園での召装分析には3人の担当者が請け負っており、高梁主任、愛澤助手、喜多見助手で組織された学園内にある唯一の研究機関の研究者達である。
唯の召装分析を担当している高梁主任曰く…
「──笠神くんは、いつ覚醒してもおかしくはない数値が出ているのだけどねぇ~、のんびり屋さんなのかな?アハハハハハハ──」
楽観的に笑われて終わった前回の分析時を思い出した唯は混み上がる感情を抑えながらも腹を立てていた。さすがに入学してから6回の受診で毎回同じことを言われ続けている唯には拷問以外のなにものでもなかった。
そんな想いに更けていると授業終了のチャイムが響いた。
放課後となり、部活に向かう者もいれば、『BASIC-α(ベーシックアルファ)』──学園から支給されている端末。授業や、課題等に使われる。──に授業の要点をまとめる者や、帰り支度をしている者、雑談を楽しんでいる者などがいる中で、唯は面倒ではあったが分析室に向かおうと席を立った。
するとタイミングを合わせたかの様にクラスメートの女子から呼ばれた為、その女子の机に向かっていく。
「どうした、華那?なにかあったのか?」
唯の問いかけに困った様子で答えた。
「か、笠神くん、ごめんね・・・あのね・・わ、私、訓練施設の近くで、あの…・・・『カドラ』──学園から支給されている連絡用端末『Call Device Trust(コール デバイス トラスト)』通称:カドラ。生徒間の連絡手段として用いられ傍受対策も施されている端末。──を落としてきちゃったみたいで・・・そ、その、も、も、もし良かったら一緒に探してもらえたら・・あ、で、でも今日って分析の日だったよね・・・ご、ごめんね。わ、私その・・」
潤んだ瞳で今にも泣き出しそうにおどおどしている彼女は十条茉那。黒髪のロングストレート─裏腿にまで届く長さ─を常に両肩付近で結わいている為に幼く見えるのだが、前髪からは眼鏡越しに片目だけ覗かせているので周囲には暗い印象を与えているようだった。
だが一部の男子からは何故だか人気があったのは唯には理解ができなかった。細身の身体でありながら似つかわしくない豊満な胸の持ち主だった。だが周囲にそれを感じさせない位に着痩せしてしまうタイプだった為、夏の水泳授業は猛烈に注目を浴びていたのはとても記憶に残る光景だった。
「そうだなぁ、分析はあるけど、まだ俺の順番まで時間はあるし探すなら手伝うぞ。」
「えっ・・い、いいの?あ、ありがとう。で、でもだいたいの場所は・・その・・・わかる・・から、そんなに時間はかからないと思う・・の。で、でも、ご、ごめんね・・・」
おどおどしている幼馴染の頭をぽんっと優しく撫でる。唯からすれば自然な流れからくる行動でしかなかったが、クラスメート達からはからかい混じりの声が発せられていたので努めて無視をした。
ただ、十条の顔が少しばかり赤みを帯びている様な気もするが、唯はそのまま十条を連れて教室を出ていった。