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苦手な方はご注意ください。

童話ショート

知床のポックル

作者: 雪 よしの

寒くて目を覚ますと、お母クマさんがいませんでした。


ヒグマのポックルは、今年、2月に生まれたばかりの小熊です。

妹のクルルと一緒に、巣穴でお母さんと一緒に3匹で籠ってました。


「おかあさん、どこへ行ったのかな?」

「さあ、きっとすぐ帰ってくるから、心配しないんじゃないの」

妹のクルルのほうがしっかりしてます。


大きな体のお母さんが、冬の寒さから二匹を抱いて守ってくてれました。

巣穴は、笹の葉や、枯葉などで柔らかく、寒さを防ぐようなってましたが、

3月末の知床は、まだ冬景色です。お母さんのいない巣穴は寒いです。

ちょっと体の小さめなクルルが、震えだしました。

ポックルもお腹の虫が グーグーなってます。


「僕、お母さん、探してくるね。」

「待って、ポックル。私も行く」

「クルルは、留守番。きっと近くにいるから。」


そういって、ポックルは巣穴を飛び出しました。

もちろん、お母さんを探すためですが、

巣穴からわずかに見える外の世界に 出てみたかった気持ちもあったのです。

ところが、巣穴を出て雪の上を歩くうち、ポックルは足を踏み外し、崖から

転げ落ちてしまいました。


「うわ、びっくりした。でも巣穴の天井に頭をぶつけるより痛くない」

雪がクッションの役割をしてくれてからですが。

ポックルは元気一杯です。ただ、どこを見渡しても、お母さんの姿が見えません。

それどころか、自分のいた巣穴は、今いる場所よりずっと上の方にあるのがわかりました。


「君、だれ?」

雪の上に座り込んでるポックルに、エゾシカの子供が声をかけてきました。

「僕、ポックル。お母さんを探してるんだ。お腹もすいたし」

「う~ん。僕らの仲間じゃないのはわかる。姿がちがうし。

そうだ、族長にポックルのお母さんの事を聞いてみよう。

族長は、物知りだから、きっと知ってる」


ポックルは、喜んでエゾシカの族長の所へ 一緒に行きました。

「やれやれ、これだから子供というものは、目が離せない。

いいかい、皆もよく聞くんだ。これからの季節、こういう小熊を見かけたら

すぐ仲間に知らせる事。母熊がすぐそばにいるって事だからね。

冬の終わりの熊は、容赦ない。当然だが、小熊にも安易に近づかない事」


族長は、そう群れの仲間に伝えると、立ち去ろうとしましたが

「まって、族長さん。僕のお母さんは、どこにいるか知らない?」

「幸いな事に知らんな。死にたくなければ、さっさと自分の巣穴に戻りなさい。

ウロチョロされると、こっちが迷惑だ」


族長はお尻の白い毛を逆立て、警戒のサインを出しながら、森の奥へ入って行きました。

ポックルに声をかけてきた小鹿も 仲間と一緒にいなくなったようです。


(そうか、巣穴に帰るのがいいのか。僕、お腹すいて死にそうだ。)

ポックルは、巣穴に帰ろうとして、自分が、落ちて来た場所にすらわからなくなりました。

迷子になったようです。”お母さん お母さん”と呼びましたが、大声はでませんでした。

雪は柔らかく、歩くたびに埋まるので、ポックルは足を取られて

なかなか先に進めないでます。

手についた雪をなめると、ノドの渇きがおさまり、お腹も膨れたきがしたので、

ポックルは、雪を食べました。でも、体が冷えて寒くなってしまい、

余計、動けなくなりました。


「へ、ガキのくせに雪なんか食うからだよ。迷子熊か。小熊の時は

小さくて可愛いな。それにおいしそうだ。

いいか、ここで一晩過ごすんだよ。そうしたら、俺が食べてあげるから」

そうポックルに話しかけ、キタキツネは、舌なめずりをしました。


「え?食べるって僕を?えさって?お母さんからもらうミルクじゃないの?」

ポックルは、お母さんのミルク以外は食べた事がありません。

「ははは、乳離れもまだか。それは本当においしそうだ。

ガチガチに凍る前に、食べたいところだ」


ポックルはキタキツネの話が、さっぱり分かりません。

「ほら、あそこ見なよ。大鷲の連中が、死んだ鹿を食べてる。

あーあ、少しだけ 俺の分も残しておいてくれないかな」


知床の冬は寒さは厳しく雪も深い。飢えや寒さで命を落とす動物も

多いのです。

「鹿って、さっきの族長さんの仲間だ。え?鹿さん、体をつつかれて、肉をはがされて・・・」

ポックルは唖然としました。

大鷲がいなくなるころには、鹿の皮と角しか残っていませんでした。

それでも、骨や皮についた、小さな肉片をカラスがつついてます。


「少しはおこぼれ、いただけるかな」

キツネは 鹿の残骸から少しづつおいしそうに、肉を食べだした所、

さっきの大鷲とは別の鳥が来ました。オジロワシです。

キツネは追い払われ、またポックルの所に戻ってきました。


やれやれ、おいしかったのに、とキツネは残念そうです。

ポックルは、キツネの口の周りについた血を見て、またびっくりです。


「あの鹿さん、どうなるの?おうちに帰れる?」

「まあ、神様の所に帰るってことだな」

「族長の所には?」

「族長?ああ、鹿のボスの所ね。そりゃ無理に決まってるだろ。

死んじまったんだしさ。」


ポックルは、はやく巣穴に帰るべきでした。

キタキツネと話しているうちに、夕暮れになり、ポックルは凍え死にそうです。

「僕、眠くなってきちゃった。巣穴にもどらなきゃいけないのに、クルルがまってるのに」

「うんうん、眠い時は寝るに限るね。俺がそばにいるから。寝てていいよ」

キツネの計略です。眠らせて、ポックルを凍死させようとする魂胆。


ところが、さっきの大鷲がもどってきて、ポックルを見つけると急降下。

その大きな爪で、ポックルをガシっとつかみました。

ポックルはウツラウツラしてるところ、突然の痛みに、”ギャー”と叫びました。

キツネは、大鷲が飛び立つ寸前に、ポックルの足をかんでつかみました。

これも痛く、ポックルは、まだ”ギャー”と叫びました。


大鷲はポックルを雪の上に落としてしまい、たいそう怒ってキツネを攻撃してます。

キツネは、そうそうに降参、逃げて行きました。

またポックルを捕まえようと、爪を下したところ、横から殴られて そのまま動かなく

なりました。


「やれやれ、危なかった。ポックル。ほんとにこの子は。どうして巣穴を出たんだい。」

「お母さん、お母さん、お腹すいた。」ポックルはもう虫の息です。

お母さんクマは、ポックルのキツネにかまれた傷をなめて、ミルクを上げました

それだけで、ポックルは少し元気になりました。


「私もお腹が空いてね。ミルクの出も悪くなってきたから、お前達が寝るのを見計らって

土に埋めておいた鮭を掘り返してみたんだよ。凍ってたから食べる事が出来てね。

お前たちにも少し と思って。 私がもっと早くかえってあげればよかったね」

お母さん熊は、申し訳なさそうに。ポックルを背中にのせます。

ポックルは落ちないように抱きつき、

「ねえ、お母さん、あのキツネさん、僕にいろいろ教えてくれたの。それに鹿の族長

さんにも。」


母熊は、木の間に隠れてるキツネを睨みつけました。

「フン、まあ、キツネがどんな魂胆かはわかるけど、とりあえず、お前を

大鷲から取り返した事は、感謝するよ。

お礼は、あの大鷲一羽で充分さ。鹿の族長さんね。わかった。なるべく鹿は

襲わないようにするよ。もともと、わたしらは、肉より草の実や魚が好物なんだしね」


知床には、少しですが、春が近づいているようです。

母熊の歩く側の凍った小川から、かすかに水音が聞こえます。


「今の時期が、一番つらいね。鮭も植物もない。さあ早く巣穴に帰らないと。

クルルが寒い思いをしてる」









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― 新着の感想 ―
[良い点]  北海道らしい童話でした。  また。  なろうでは童話らしくない童話? が多いなか、本編は童話の王道をいく童話だと嬉しくなりました。  北海道の厳しい自然で生きている動物たちは大変そうです…
[良い点] 知床の大自然のなかで、もしかしたらこのようなドラマがあるかもしれませんね。 ポックルの小冒険、ハラハラで微笑ましいものでした。 やはりお母さん熊は偉大ですね。 小熊たち、偉大なお母さん熊か…
2018/06/09 21:09 退会済み
管理
[良い点] 北海道の自然の雰囲気や、厳しさが伝わってくるようでした。アイヌっぽい名称や、起承転結も分かりやすく、かわいく読めました。 [一言] 北海道に一昨日行ったばかりで、 すごく雰囲気をイメージす…
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