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男性の舌は8割マザコン


 えぐれ、溶解した地面の一角。ほぼ無傷の地面とはうらはらに、所々服が焦げ多少の火傷を負う生徒達の姿がそこにはあった。

 ウォルターは辺りを見渡す。すぐそばにいたニールに詰め寄り、声をかける。


「被害状況は?」


「どの程度やられたかはまだわからないけど、少なくとも死者はいないみたいだね。

 生徒全員分の魔力は探知出来てるから」


 それを聞いてウォルターは胸を撫で下ろした。

 守ると言ったにも関わらず、守れませんでしたじゃ話にならない。


 ドラゴンの咆哮ブレスは第一層の水球の壁を爆散させたのち、第二層の水球の壁もすぐさま帰化させた。

 しかし、第三層の水球の壁は術者である水属性の生徒たちが距離的に近いため、魔法の威力(この場合耐久力)が高かった。

 そのためすぐには蒸発させることは叶わず、咆哮ブレスの力は弱まる。

 そして最後の防壁アース・ウォール。

 硬度は鉄以上、魔力量も豊富に含むため多少の攻撃ではびくともしない。

 しかし、土と火は相性が悪い。

 火は土を溶かすためだ。

 それを踏まえ、アース・ウォールにちょっとした工夫を凝らした。

 水魔法による強化、つまり鋼鉄の硬さを持った泥へと変容させた。

 これにより火への耐久力と柔軟性を取り入れた。

 結果、本来の10分の1程度にまで威力を抑えられた咆哮ブレスは、アース・ウォールを突破することは出来なかった。

 余波により火傷や擦過傷などはもたらしたが。


(虚をつけるかもしれないと魔法の弾幕を展開したが、どうやら目くらましにもなっていないか……)


 ウォルターは思考を走らせる。


 空中で厳かに佇むドラゴンは、未だ動く気配を見せない。

 空中は大量の水蒸気が視界を覆い、地上100Mメートル辺りの空気もすでに電気分解により薄くなっているはずだ。


 ならば姿を見せるのは時間の問題。今の内に次の策を講じるべきだ。

 ウォルターは負傷している者を含めた全ての生徒に指令を出す。


「土属性の生徒及び水属性の生徒は後退、それに伴い火属性の生徒並びに他属性の生徒は前進し、隊列を作れ!」


 その際に、負傷者は水属性による回復魔法で応急処置を行う。初級しか使えないため止血や痛みどめ程度の効果しかないが、ないよりマシだろう。

 時間にしてわずか数分。

 だが、その数分が生死を分けるのもまた事実。

 張り巡る緊張感に息が詰まる。

 しかし、ここが正念場だ。

 っと、上空から轟くような雄叫びが辺りを木霊こだまする。

 それに伴いドラゴンが急降下。

 未だ視界を遮っていた霧を蹴散らし、ウォルターたちに接近しようと牙を、爪を尖らせる。


「来るぞ! 他属性の諸君、身体強化で迎えうて!

 火属性は前方に火球を一斉連続掃射!」


 ウォルターの指示の下、魔法が繰り出される。

 火球はもはや弾幕と言っていいほど上空を覆う。

 それはまさに“火の壁”。

 圧倒的物量の魔法は、例え初級であろうとも脅威となるに他ならない。


 だがしかし、


 幾百の“それ”を前にしても、ドラゴンはひるまない。狼狽うろたえない。恐れない。

 物ともせず弾幕をくぐり抜けるとドラゴンは眼前にまで迫り来る。

 それに対し反応が遅れたウォルターは内心焦りを見せた。


「───っ!」


 しかし、杞憂に終わる。

 鉄と鉄が打ち付け合うような甲高い金属音に目をやると、他属性の生徒が剣でドラゴンの爪を数人がかりで受け止めているところだった。


「惚けてる場合じゃねぇぞ委員長!

 くっ、押される……⁉︎」



 その声で意識を目の前に戻し、すぐさまその場から後退する。

 拮抗状態もわずか数秒程度。

 一瞬にして5、6人の生徒が薙ぎ払われた。

 大地に地震と見間違うほどの衝撃と共に降り立ったドラゴン。

 両腕も地面に降ろし、四足で大地に体を預けていた。

 改めて、その大きさに感嘆を漏らす。


(やはり実物は大きいな……)


 そんな考えもつかの間、ドラゴンによる第二撃が来る。


「左方前方にアースウォール展開!

 雷属性、水属性の生徒はアロー系魔法を展開し、ドラゴンの皮膜に集中攻撃!」


 第二撃の尻尾による薙ぎ払いはアースウォールで防ぎ、そして弓矢状の魔法、アローでドラゴンの旋回力を削ぐ。


 つもりだった。


 左方より聞こえた鉄のひしゃげる音が耳に届くまでは。

 メキィッ、とまるで木片のようにアースウォールを粉砕した尻尾は、側にいた生徒数名を巻き込みながら停止した。


(くっ、あの位置は風属性の生徒たちがいた場所か!)


 ウォルターはしかし焦りを見せない。

 自分の動揺がこの場において何を意味するのかを知っているからだ。


「……ニール、被害は?」


 情報を収集していたニールに被害状況を尋ねる。

 この状況下で冷静にいられるのは自分を除いてニールだけだろう。


「正直かなりマズいね。

 重傷は5人。全員風属性の生徒で命に別状はないけど、初級の回復魔法じゃ悪化させないのが精一杯ってとこ」


 その生徒たちは陣の最後尾に後退させといたけど、と補足ばかりに付け足して来る。


「そうか」


 ウォルターは短く返事を切った。

 目の前では雷属性と水属性の生徒の魔法と、他属性の身体強化による剣戟けんげきによりドラゴンは怯んでいるのか、こちら側に攻撃を仕掛ける気配はない。


 しかし、今の状況は非常にマズい。


 重傷者に加えそれを治療する者、さらに純粋に魔力切れで動けない者と戦力が落ちている。


 このままでは全滅の可能性も有りうる。

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