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俺のターン! ドロー! モンスターカード!モンスターカード! モッ……ンスターカードォォオ!

 ウォルターはまず戦力を6つに分けた。

 それぞれが得意とする属性ごとに割り振り、個人の力ではなく集団としての力を利用しようと考えていた。

 個では火力不足は否めない。しかし、同属性での魔法なら火力は互いに干渉し、大幅に膨れ上がる。

 点では無理でも面ならば、例えドラゴンにも対抗しうる力を発揮する。そう画策していたのである。


 6つの戦力はそれぞれ、火属性、水属性、雷属性、土属性、風属性、あとの一つはその他の主に強化やサポート関連が得意な者たちである。

 生徒数は全員で74名。

 それぞれ火属性が16名、水属性が12名、雷属性が10名、土属性が13名、風属性が9名、その他の属性が14名とほぼ均一に別れた。

 その6つの戦力の内、雷属性、風属性、その他の属性を持つ者をウォルターを中心に扇状に配置し、その前方に火属性、水属性、土属性が得意な者たちを一列に並べて配置する。


 これは陣の一つ『レギオ』に近しい陣形であり、前方の三部隊が場面に応じて入れ替わることにより隙を与えず攻めと守りを行える。

 また、後方に扇状に配置した三部隊がそれぞれの短所のサポートをこなす。


 名付けるとするならば『蒼穹の狩人フェイルノート』と言ったところか。


「雷属性の諸君、早速行動を開始してくれ」


 ウォルターがそう言うと、雷属性の生徒が訓練施設を薄く覆う半透明の雨避け用結界に雷属性の魔力を流していく。

 雷属性の魔法は展開が早く、特性である『伝達』により魔法の効果範囲が広い。

 そのためすぐに結界は雷属性の魔力で覆われた。

 これには理由があり、一つは微弱電磁波を纏うことにより生物、この場合はドラゴンが電磁波を嫌がりここから離れる可能性を考慮したためである。


 もう一つは結界が雷属性の魔力で覆われたことにより、結界の内外の約50Mメートルの範囲であれば雷属性は自由に魔法を行使出来ることだ。

 これは雷属性の特性が伝達だからこそ出来る方法で、他の属性ではこうも上手くいかない。


(まぁこれはあることをしたいがために生じた副次的効果に過ぎないが……)


 ふとウォルターは視線を感じ振り向く。


「君はやはり素晴らしいね。

 あの短時間でここまで考えていたのかい?」


 後方の三部隊の一角、その他の戦略から軽口が聞こえたかと思うとニールが姿を現した。


 ウォルターはその姿を確かめると口を開く。


「まだ何もやってはいないさ。やるとしたらこれからだ」


「まぁそう言わないでよ。実際君は大した奴だ。

 わずか4、5分余りでこれだけの人数を先導し、士気を上げているんだから。

 ここからの采配も期待してるよ……っと、どうやら時間切れか」


 ニールが言い終わると同時に辺りを木霊こだまする猛獣のようなけたたましい雄叫び。

 まだ姿は見えていないにも関わらず、その怒号はこの場にいる者に威圧感と恐怖心を与える。


 ウォルターはバッと右手を挙げる。

 その合図を受け雷属性の魔法が、結界の張られた上空300Mメートル付近で展開された。


 これはウォルターが本来やりたかったことではあるが、これが効果を為すかは実のところわからない。

 上手くいけばいい程度の策である。

 なので期待はしていない。


 ドラゴンの雄叫びが近づくに連れ、緊張感をかもし出し、まるで場にとめどない動揺を誘おうとしてるかのよう。

 張り詰める空気が重量感を纏い、今にものしかかりそうになるのを心に鞭打つことで耐え凌ぐ。

 ドラゴンの雄叫びが聞こえなくなった瞬間、ウォルターは上空で翼をはためかせるような風切り音を捉えた。


「ど、ドラゴンだぁぁ‼︎」


 一人の生徒による声により、その場にいる者はみなこうべを上げた。



 ───『圧巻』その一言に尽きる。



 空中で静止したその姿は、太陽の光を浴びて神々しいほどに鱗を煌めかせる。

 その大きく逞しい翼は、すべてを包み込むように勇大に感じる。

 太く力強い腕と脚部は、まるで造形美とでもいいたくなるほど洗練されている。

 人間には決して存在しないその尻尾は、鋭利に靡き、何者であれ凪払わんとするだろう。

 鋭く、強靭なその牙は、まさに強者の証しばかりだと主張する。


 その姿に圧倒された。気圧された。呑まれた。たじろいだ。畏怖した。


 そして何より、───心を奪われた。


 ウォルター=ハーディスの生きてきた17年という歳月の中で、これほどまでに壮大で美しいものは見たことがなかった。

 それは他の者たちも同様だった。

 ロイドもニールも、他の生徒たちもみな敵の前であるにも関わらずほうけたようにドラゴンを見つめるばかり。

 その美しさはまるで麻薬。

 美しさ故の背徳的な気持ちと、逆鱗という危なげさが、甘美な飴と鞭のように思考を蕩けさせる。


 だからこそ、とウォルターは思う。


 この戦いに勝たなければならない。

 それは使命感から来るものでも、責任感から来るものでもない。


 純粋に、自分の“戦略と戦術”という力を試してみたかったのだ。


 ドラゴンという、伝説上の生物に。

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