表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

酸っぱい葡萄

作者: 籠の中の鷲

 なんとなく、小学生の頃に道徳か国語かで読んだアレを思い出して、書きました。

 いや、もうさ……いい加減に冷静になりなよ、狐君。


 仮に、仮にだよ、君があと少し跳べて、あと少し前足が長くて、この房を叩き落すことに成功したとしよう。

 そんなに何度も何度もジャンプして、こんな葡萄の一房がその労力ののワリに合うのかい?


 危険を冒して木に登ったとしよう。

 そんなリスクにこの果実は見合うのかい?


 ああ、もっと冷静になりたまえ。


 考えても見たまえ。否、その前によく目を凝らしてこの果実の房を見てみるがいい。

 なんて小さく、やせ細ったことか。なんて軽そうな実だろうか?

 君の鼻先が届かない、枝を枝垂れさせることも適わない、そんな栄養の行き届いていない果実が、美味いわけがないだろう?

 ほれ、よく見てみろ。鳥すらも啄ばんでないぞ。

 酸っぱいに決まっている!

 そんなにまでして食いたいか?


 止めろ! 時間の無駄だ! 体力の無駄だ! さっさとアッチに行け! 非効率的だと気づかんのか!?


 ほれ、そこ見てみろ。そこの木の根元だ。昨日に落ちたリンゴが、地面にぶつかって潰れたところから腐り始めているが、まだ半分は食えるぞ!

 ほれ、そこの石をひっくり返してみろ。大きなミミズが出てくるはずだ。

 ほれ、そこの池の辺に行ってみな。蛙がたくさんいるだろうに。

 そこの道端の野苺、そろそろ食い頃じゃないのか?


 手の届く範囲で、美味しいものなんて沢山あるんだ。葡萄になんざ拘らずとも良いじゃないか?


 おや、もう跳ぶのをやめて、こちらをジッと見つめているぞ。



「きっとあの葡萄は酸っぱいんだ」と彼は呟き、去った。



 おいおい、誰だよ? 彼を非難するのは止めてくれ。

 彼は、無駄な努力を回避したのだ。無謀を回避したのだ。最後にじっと観察して真実に気づいて去ったのだ。次なる獲物の為の体力を温存したのだ。効率的に立ち振る舞ったのだ。


 彼は賢明な判断をしたのだ。


 きっと今頃、新たに美味しいものを見つけたはずさ。

 諦めたらそこで、試合終了ですよ。


 誰かがたまに私にそんなことを言いますが、私は決まってこう返します。


 諦めたそのとき、次の戦いの準備が始められるのさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ