05:三人の勇者
「おかしいぞ……」
墓地の中を通る道。そこを抜けたら町に着く―― はずだったのだが……。
ヨッくんも左右を見回す。
「あのおばさんはどこだろ?」
「…………」
おばさんだけじゃない。さっき墓地の向こう側から見えていたはずの町がそこにはなかった。
そこにあるのはまた、長い一本道。
案内人〜に相談だ〜。
「案内人、どう思う?」
「さあ、わたしにもわかりません。ていうか、本当に町が見えたんですか?」
疑わしく訊き返す案内人に、おれは怒った声で言う。
「本当だよ。たしかに、でかい町が見えた!」
蜃気楼―― てことはないよな? この世界で。
「マップデータのどこを見ても、そんな町はありません」
「バグかな?」
ヨッくんも考えている。こいつもあの町を見たのだろう。
「……もしかして、あれと関わりが……?」
案内人がつぶやく。
どうかしたのかと訊くと、
「あ、いえ、なんでも……」
ごまかすような言葉を返された。
「まあ、ここまでぼう大なプログラム世界なんだし、バグがあって当然でしょ」
ヨッくんは平然そうに言っているが、よく考えたら、そのバグでもどれなくなるかもしれないじゃないか?
あっ、不安要素がまた一つ増えた……。
ここに閉じ込められるのだけは勘弁してくれ。
「吉野さんの言うとおり、ただのバグでしょうね。心配はいりませんよ」
いや、だからそれが心配なんだって……。
おれは皮肉を込めて言う。
「超高性能でもわからないのか?」
「超高性能だから、です。失敗をしない人工知能というのは完璧ではありません」
そして、それをフォローするヨッくん。
「なるほど。人間に近いほど性能がいいわけね。」
「そうです! さすが吉野さん」
む、なんかこいつら、かなりウマが合ってるな。おれだけが孤立しているではないか。
「うーむ……」
胸にもやもやを残しながらおれたちは進んだ。
十分後――
無駄に長い一本道を無駄に体力を使って行き着いた場所は、小さな町だった。
「もしかして、見えたのはこの町ですか?」
おれはさっき見えた光景を思い出す。
「いんや、もっと大きかったぞ」
「うん、こんな手抜きの目立つ町ではなかった」
と言ったのは、何気なく毒舌なヨッくん。
「ふむ…… 謎ですね」
『手抜き』の部分には触れないんだ……。
実際、この町の広さは、あの村の四倍くらい。
赤や、茶色い屋根の家が適当に並べられている。
でも、『町』と言うだけあって、道路のデザインは、黒い石畳のようだ。道路以外の地面は、黄緑色の芝生。そこかしこに街路樹も設置してある。
ちゃんと作ってあれば、本気で住んでみたい町なんだけどなぁ。
人間関係はうまくいきそうにないけどね……。
おれは目の上に手をかざして、人間―― キャラ観察を始める。
「やっぱキャラが多いなぁ」
散歩をしている人、家の窓から外を眺めている人、きゃっきゃ言いながら鬼ごっこをしている子供たち。無論、全員が無表情で。(やっぱり住みたくねぇ……)
木陰で読書している人、畑でクワを振り下ろす人――
「いんやぁ〜 体を動かすのは気持ちいいっぺ〜」
…………妙ななまり語でマキ割りをしているエンドー。
「うら〜っ!」
エンドーの尻にとび蹴りをかます。
ったく…… どいつもこいつも……。
[二人目の仲間。『遠藤京助』を見つけた。]
エンドーは、すぐに起き上がって、マキ割りを再開する。
コーン…… コーン…… コーン……
気持ちよさそうにナタでマキを割り続ける。(なにくわぬ顔で)
気付いてない、なんてことはないよな?
次ははっきりと声をかけてやろう。
「おーい、エンど―― ぐほぁっ!」
エンドーが後ろに投げたマキがおれのひたいを直撃した。
ふ…… 復讐か……? これ以上コブつくってどうするよ?
「おん? おぉ〜 ヨッくんにマハ………… エじゃなぁかぁ〜。こぉな田舎町までよぉ来たのぉ〜」
さらになまりを加えてしゃべるエンドー。
こいつ…… おれの顔見て笑いやがった。(今のおれ、どんな顔になってんだ?)
仕方ない。思う存分マキ割りをやらせてやろう。
「行くぞ、ヨッくん。目指せ魔城だ!」
「おー」
「ま〜て〜よ〜! まじめにするからぁ〜!」
その場を立ち去ろうとすると、おれの背中に思いきりしがみつく――
ええい! こなきジジイか!
――エンドーを振り落とす。
「いてーなー、こんにゃろー」
文句を言うやせっぽちのこの男が、遠藤京助、通称エンドー。
はっきり言って口が悪い。(おれよりも)
おれたち三人を並べたら、ちょうど大中小の大きさだ。大がヨッくん、中がエンドー、そして……。
「……さあ! これで三人そろったわけで、次は魔城を目指すんだよな?」
「まてや、マハエ」
気合を入れて歩き出したおれを、エンドーが止めた。
なまり語は完全に消えたようだ。
「さっき、マキ割りを手伝ってたところの人に聞いたんだけどよ。よく当たるって評判の占い師がいるらしい。で、案内人が言っていた『魔城』のことを、そいつに教えてもらえってことじゃねーの?」
エンドーの情報に、おれはうなずく。
「なるほど、たしかにそうだな」
おれたちの中で一番のRPG経験者のエンドーが言うんだ。そのへんの勘は鋭いはず。
ヨッくんがエンドーに質問する。
「その占い師がいる場所、知ってるの?」
「徒歩五分」
即答するエンドー。
近っ!
「ついてこーい」
さっきまで無駄に長い一本道を歩かせやがったくせに……。
先導するエンドーに後について、占い師が住むという場所へ町を進んだ。
単調な行動しかしないここの住民たちに対して、おれたちはかなり目立つのだろうな。
三人仲間がそろって、おれはハイな気分になっていた。
占い師の家は町の中にあるものだと思っていたが、エンドーは森の中へ入った。
おれとヨッくんもそれに従うが、なにやらモンスターが出てきそうな森だ。
武器はない。もし遭遇したら全力疾走だ。
……それにしても……。
「んふふふ……」
にやけるおれを見て、ヨッくんが引く。
「なに? 気持ち悪いな」
「なんでもない」
とは言ったが、おれが笑っているのは、エンドーの服装だ。
エンドーも、やはりジャケットを着ていて、基本は貧乏村人と変わらない。
おれと同じようなデザインの真っ黒なジャケットに真っ赤な長ズボン。
ふ…… 貧しい家育ち(設定上)はおれだけではなかったのだ! こうなると、ヨッくんの服装は一人だけ浮いてくる。
おれはヨッくんのジャケットを見た。
「ねえ、そのふわふわ取れば?」
「やだ」
エンドーは黙っておれとヨッくんを導く。徒歩五分なら、もう少しで着くだろう。
この先に何が待ちかまえているのか。
この先にどんな強敵がいるのか。
おれたちはまだ、この時点ではその気配に気付いていなかった。この先に待ち受ける強敵の気配に……。