04:墓地の中心で絶叫するのは
ヨッくんにハメられて不良の相手をまかされたおれ。
ヨッくんはおれの後ろで、案内人と一緒になって、かっさいを送っている。
あの馬鹿を殴るのは後だ。
すばやく頭の中で計画を練った。
戦闘になった場合はどうする? 現在、敵は武器を持っていない。つまり素手VS素手だ。しかし、ナイフを持っている可能性もある。つまりその場合、接近戦は不利。ということは――
おれは目の前の焚き火に目をやった。
「えーっと……」
……よし! これでいこう、完璧だ!
二人の不良をにらみ、そして――
「熱によって温められた空気は、軽くなり、上へとのぼっていきます」
おれは焚き火を指差して、ゆっくり上に上げる素振りをする。
「これを『上昇気流』といい、それに合わせて周りの空気も移動します。つまり、この空気の動きというのが『風』というわけなんですね」
よし! ばっちり言ってやった!
…………なにを……?
「だから何だってんだ!? あぁ!?」
「いえ、ですから……」
「てめぇ、おれたちを馬鹿にしてんのか!? あぁ!?」
「けっしてそんな……」
「ふざけやがってよぉ!」
「えっと……」
あれ? 逆効果だった?
「はぁ……」
誰だ? 今ため息をついたのは! ……ヨッくんと案内人だ。
不良A(仮)が指笛を吹いた。
すると、草むらや木の陰から、ぞろぞろと同じ格好をした不良の仲間が集まってくるではないか!
おれは、後ろでこそこそと逃げようとするヨッくんの首を引っつかんで、横に並ばせた。
集まった不良は総勢九人。
左から不良、不良、不良、不良、不良、不良、ゾンビ、不良、不良――
――て、オイコラマテヤ。
「右から二番目ぇ! そのとなりにいるのはなんじゃぁーーー!!?」
おれはつい叫んだ。
「は? えっ―― ぐああぁっ!!!」
ゾンビが、右から二番目(不良G)に噛み付いた。
血を流し、崩れ落ちる不良G。
「な!? どうした!?」
両隣の不良がGを支える。
Gがおれたちをにらむ。
「てめぇらぁ…… よくも……」
「なぜぼくら!?」
「おいおい! 今のは明らかにそこのゾン―― って、いねぇし!?」
さっきまでたしかにいた、マンガチックな、茶色の面白い顔をしたゾンビのような生物はいない。
「あららら……。いや、ですからそれはおれたちじゃな――」
「問答無用だ!!!」
<しばらくお待ちください>
「…………危うくゲームオーバーになるとこだ。せっかくおれが風のしくみをわかりやすく説明してやったのに……」
おれはコブだらけになった頭と、アザだらけになった顔をおさえながら、墓地から撤収した。
「まったく、最近の若者は喧嘩っ早い」
ヨッくんがとなりで、頬にちょこんとだけ付いたかすり傷をこすっている。
「……なぜ、キミはそれだけしか傷を負っていないんだい?」
「さあ?」
理由は簡単。こいつの戦いの90%以上が『おれを盾に使う』だったからだ。
しかもおれの後ろで、おれの声を真似て(似てないが)やつらを挑発するし。
ごまかすように笑うヨッくん。
「ま、なんにしても多勢に無勢だったな」
「お前がおれを盾にしなければ、おれはここまでダメージを受けることはなかった」
思い切り殴りたいが、今のおれにそんな力は残っていない。
「情けないですね…… これじゃ、魔王にも勝てませんよ?」
案内人があからさまな溜め息と一緒に言った。
怒鳴る気力もないが、やはりむかつく。
「じゃ、お前がなんとかしろ!」
おれの言葉に、案内人はあっさりと言う。
「仕方ないですねぇ。ちょっと待っててください」
……え? なんとかできるの?
「…………」
「うわっ!」
墓地のほうで不良の叫び声。
更に――
「な…… なんだこれは……!? うわあぁ!?」
「ひえぇぇ……」
「ぎゃあああああぁぁぁ!!!」
(振り向いちゃダメだ。振り向いちゃダメだ)
おれたちは墓地に背を向けて、そう心の中で繰り返していた。けっして振り返ってはいけないと思ったからだ。
「うお!? うお!? うおおおおぉぉぉぉ!!?」
「うわあああぁぁぁぁ!!!」
やつらは何を見ているのか。とにかくおれたちはそれを見たくなかった。
しばらくの絶叫の後、ギュオーン! という空間がねじれるような大きな音を最後に、墓地は静寂を取りもどした。
「…………」
「…………」
「お待たせしました」
明るい声でもどってきた案内人に、さっそく―― おそるおそる訊いてみる。
「お前、何をした?」
「とくに恐ろしいことはしていませんが?」
「さっきの絶叫を聞いて恐ろしくないという言葉は信用できない」
まあ、でもそんなことを考えていてもどうにもならないから、とりあえず案内人を信じて振り向いた。
「…………」
誰もいない。
あんなにいた不良どもが、まるで砂になったかのように姿を消した。
もう一度はっきり訊く。
「お前、何をした?」
「ワールドの一部をクリーンアップしたんです。その範囲のキャラクター、又はそれ以外のプログラムをデリートし、初期化しました」
よくわからないが、問題解決か。
でも、さっきのやつら、かなり人間ぽかったな。なんだったんだ?
「追っ払ってくれたかい?」
さっきのおばさんが駆け寄ってきた。
おれは思わず、傷だらけの顔を隠し、後の対応をヨッくんにまかせた。
「バッチリですよ。もうどこかへ消えました」
本当の意味でな……。
「そうかい。ありがとうね。なにもお礼できないけど、ゴメンね」
お礼くらいしましょうよ。おれ、死にかけたんですよ。なんてことは言えない。
「それじゃあね」
おばさんは墓地を通る道から、奥に見える町へ入っていった。
そのとき、空間が微妙にゆれたように見えたが、気のせいだろう。
「ドンマイ、マハエ」
ヨッくんがおれの肩をバシバシ叩くが、誰のせいでこうなったと思ってるんだ?
「さあ、あなたたちも同じ道へ行ってください。それと、話すこともありますので」
「…………」
なんか、ここ通るのやだな……。
「行こう行こう」
ヨッくんはおれにかまわずさっさと進む。
おれは気を取り直すヒマもなく……。