おまけ:現実世界での戦い
目が覚めた三人は、今、自分たちが“存在”している空間の、隅々を見回した。
ここは、養護施設のベッドの上。
――三人は現実世界に帰ってきたのだ。
つい昨日まで過ごしていた部屋の匂いが、ずいぶんと懐かしく感じる。
窓をおおうカーテンの隙間から、光が射し込んでいた。
「帰ってきたのか……」
マハエがつぶやく。
「どこから……?」
寝ぼけた声のエンドー。
「……思い出したくないね」
ひどく疲れた顔のハルトキ。
三人はとりあえず部屋を出た。
すると――
「あー! シンエイたち、居たー!」
同じ施設の、小学二年生が叫んだ。
「小守くん! 遠藤くん! 吉野くん! どこに居たの!?」
そして、三人に負けないくらい疲れた顔をした、女の先生が駈けてくる。
ずっと三人を探していたのだろう。
「(もしかして、あっちの世界って、リアルタイム?)」
「(知るか! ていうか、ヤバイ状況じゃね!?)」
「(逃げよう!)」
固まって小声で話す三人。
ずんずんと迫る先生。
そして、三人が、ポンッと手を打つ。
「おりゃぁ!」
マハエは、片足で床を踏んだ。
ハルトキは、目を見開いて、先生の動きを止めにかかる。
エンドーは腕を振りかけて―― 停止。
だが――
「……出るわけないな。うん」
マハエ、そして二人の頬を冷たい汗が流れる。
『魔力』をあきらめた三人は、一目散に逃げ出した。
「一晩中、どこほっつき歩いてたの!? 不良どもぉ!!」
いつの間にか合流した他の先生&笑いながら一緒になって、三人を追う子供たち。
ドドドドド…… と、地響きが起こる。
「ゲームの中って言ったら、信じます?」
と、マハエ。
「なぁに言ってんのぉ!!!」
先生たちの怒り、ヒートアップ。
「ぼくたちが追われるのって、筋違いだよね?」
早くもペースダウンしかけの、ハルトキが言う。
さっきまでのこともあり、マハエもエンドーも、すでにヘトヘトだ。だが、止まったら説教部屋行きは、まぬがれない。
「よし。制作者をぶん殴りに行こう」
エンドーが拳を固める。
「居場所がわかればな」
残念そうなマハエ。
やはり、あれは夢ではなかったのだなー。と三人は溜め息をついた。
――そしてとうとう、目の前に立ちはだかった、通称『クマ男』こと、園長先生。
噂では昔、アフリカで、暴れライオンを素手で捕獲するという仕事をしていたらしい。
あくまで噂だ。だが、そのクマのような外見を見ると、それも本当なのだろう。と思えてくる。
「大丈夫! おれたちは、あれよりも恐ろしいモンスターどもと戦ったんだ!」
そう言うマハエの声は、震えている。
「そうだ! 負けるはずがない!」
エンドーが、真っ先に園長に突っ込んだ。
「さらばエンドー!」
『クマ男』に突進するエンドーに、ハルトキが残酷な言葉を放つ。
エンドー除き、二人は急ブレーキをかけた。
「ええええぇぇ!!? チームワークはぁーーー!!!?」
涙を流すエンドーに向かって、腕で大きなバツマークをつくる二人。
そして、両側へ散開する。
だが、暴れライオンは、その二人よりもはるかに速い。
そして、それを素手で捕獲するという園長は――
ゴッ!
その場に閃光がはしった。
―沈―