21:終わりだ!
こいつを倒すには、思い切り強烈な一撃を与えるしかない。
魔力を手に入れてからの驚異的な回復力のおかげで、痛みはすぐに治まった。
倒れたままの状態で考える。
やはり、チームワークは欠かせない。
攻撃のチャンスは限られている。できるだけ一撃に力をこめなければ……。
「ふん。ガッカリしたぞ……。こんなものなのか」
今までデンテールは、予想外の出来事を楽しんでいたのだろう。
デンテールがおれたちに背を向けた。
「少しは暇つぶしになると思ったが――」
「……マハエ、エンドー」
ヨッくんの小声に反応し、見ると、指を動かしておれたちに集まるように指示している。
おれとエンドーは、デンテールが見ていないことを確認し(デンテールは独りで何やら喋り続けている)、ホフク前進でヨッくんのもとへ。
「あいつに攻撃を食らわす方法が一つだけある」
「どうやって……?」
「まず、攻撃役はエンドーではなく、マハエに任せる。そして――」
ヨッくんの作戦を聞いて、意気込むおれたち。
「――そしてこの力で、おれはプログラムを支配し、この世界を作り出した」
ちょうど、デンテールの話も終わったようだ。
なんか重要な過去話をしていたような気がするが、まあいい。
立ち上がったおれたちにデンテールが気付いた。
「ほう、そうでなくてはな」
「いい? ミスは絶対に許されない」
「わかってる」
おれがやるべきことをやる。
任された攻撃役だ。とびきりきつい一発をお見舞してやる!
「行くぞ!」
エンドーの掛け声で、二人はデンテールの左右へ移動した。
「何か良い方法でも思いついたか?」
デンテールが突然移動した二人に気をとられる。
よし!
さっきと同じように、足に魔力を溜めながらデンテールへ突進する。
いや、さっきと同じではない。今度は両足だ!
両足に力を溜めながら走るのは、かなり集中力が必要だ。けど、敵の攻撃を避けることは考えない。
「なんだ。無駄だと言っているだろう」
デンテールが右手を持ち上げる。
「三方から攻める作戦か? くだらん」
何もなかった空間に、氷の壁が形成される――
だが、そうもさせない!
絶妙なタイミングで、エンドーが放った魔力の球。それが形成途中の壁の中に潜り込んだ。
外側からは破壊できない壁でも、内側からならそれも容易だ。
「まさか……!?」
今更気付いても遅いぜ、デンテール!!
おれは左足に凝縮した力を、床を踏むと同時に放った。
ガシャアァァンッ!!!
目の前で爆破された氷の壁。破片を真正面で受けながら、ジャンプで加速したおれの右足がデンテールを捉える。
デンテールが攻撃を避けようと体を動かす―― 本人は動かしたつもりだろう。だがすでにヨッくんの力で、その体は自由を失っている。
おれとエンドーで気をそらせておいて、確実に相手を動けなくする。それも作戦の一部だが、一番重要なのが――
おれの攻撃だぁ!
通常のとび蹴りの十倍強力な蹴り。右足が標的の胴にめり込んだ瞬間。右足のほうに溜めていた力を放つ!
『とび蹴り』プラス『衝撃』。それは、予想以上の威力でデンテールを吹っ飛ばした。
ズグゥンッ!!!
壁、天井、床が揺れた。
「ハハ…… どうだ、とんでもなく予想外だったろ」
壁にめり込んだデンテールに、話しかける。
返事はない。
しっかし、壁にめり込むほどの威力とは……。
魔力もほとんど使い切ってしまった。エンドーとヨッくんもそうだろう。
「ざまーみろ……。 ははは……」
気抜けた笑いがこみ上げる。
「ハハハハハ」
――ガララ……
「ハハ…………」
「…………」
……嫌な予感。
「く…… ふふふふふ……」
デンテール復活。
まさか…… なぜ……? 壁にめり込むほどの威力――
そこでおれは気付いた。
野郎! わざと壁をもろい素材に変えてやがったのか! 壁をクッションにして衝撃をやわらげたんだ!
「今のは…… 効いたぞ……。なるほど、見事な連係プレーだ」
「…………」
おれたちは言葉が出ない。
全員、魔力は使い切ってしまった。回復するまでに殺されない可能性は―― ほぼゼロだろう。
せっかく、追いつめたというのに、一瞬で追いつめられてしまった。
「――だが、そこまでだ。もはや、抵抗する力も残っていないのだろう?」
「くそっ……」
俺たちの配置は、さっきのまま、デンテールを囲むように右にエンドー、左にヨッくん。そして正面におれ。離れすぎていて作戦会議をすることもできない。
魔力は使えないし、武器も消滅した。どうすればいい? どうすれば……。
「考える間も、死への覚悟も与えてやらん」
何か良い方法は――
おれは辺りを見回した。希望など微塵もないのかもしれない。これは最後の悪あがき――
おれの視界に、気になるものが入り込んだ。
――ん? あれは……
「――死ね」
デンテールが右手をあげた。
「デンテール!」
ヨッくんの叫び声。デンテールはそちら側へ気をとられた。
おれはすばやく壁際へ移動すると、壁に刺さっている『氷室の長剣』を引き抜いた。
「エンドー! 今だ!」
再びヨッくんが叫び、エンドーがデンテールの気をそらすように、おれを完全に視界から消し去るように、走り出した。
おれは剣を構え直し、一気に間合いを詰めた。
「何だというのだ。悪あがきか? ふふふふ……」
「――ああ、そうさ。最後の悪あがきだ!」
ザスッ!
「――――!!」
お前には後悔する間も、嘆く間も与えてやんねぇ!
「き、貴様……」
胴の中心を貫通した長剣。
デンテールの拳に殴り飛ばされたが、痛くはなかった。
おれたちの、勝ちだ!
「くっ…… ふふふふふ……。この程度で倒せたと思うな……!」
デンテールは長剣を引き抜こうとする。だが、剣に手が触れた瞬間、動きが止まった。
不思議そうな顔で自分の傷口を見る。剣が刺さった傷口から、ドロドロとした透明な液体があふれ出てきた。
「……まさか…… プログラムの暴走か……!?」
あふれ出る液体は、デンテールを溶かすように―― いや、デンテールの体が液体化しているようだ。
「ぐああああああっ!!!」
バシャァ!
デンテールは散った。
――消滅した。
おれたちは呆然と、液体と化した“大ボス”を眺めていた。
……何だったんだ? 今のは……。
デンテールが最後に笑った瞬間、今度こそ死んだと思った。やつは抵抗しようとしていたのだ。
おれたちは本当に、神と戦っていた。最期のあれがなければ、神に勝てるはずもなかった。
――いや本当の神が、おれたちに味方してくれたのか?
「……ゲーム、クリアーだ」
おれたちは、今度こそ、心の底から笑い合った。
誰一人死ぬことなく、おれたちはこの、欠陥だらけのクソゲームをクリアーした。
「お見事です。皆さん!」
突然出てきた案内人に、エンドーが文句を言う。
「案内人さんよぉ、お前、おれらが血を流して戦っている最中、一体なに――」
「制作者も、あなたがたに感謝しています。今回の件で、セルヴォのデータも、より詳しいものがそろいました。」
「……まさか、続編をつくるつもりじゃないだろうな?」
今、もっとも恐れていることを、訊いてみる。
「それはあり得ませんね。テストプレーでこのようなことがあれば、さすがに……」
「それはよかった」
――心から安心した瞬間だった。
「はやく、もとの世界にもどしてよ」
ヨッくんがあくびをしながら言った。
「はい。ただ今、準備中です。少々お待ちくださいね」
――だが、これは――
「準備完了です」
――おれたちの戦いの、ほんの序章にすぎなかった。
「転送、開始します」
けど、今は―― ほんの少しの休息を――
『プログラム終了』
第一部、終了。
第二部へ続く。
なお、第二部からは都合により、文法を一新して書く予定ですが、あしからず。
そして、『おまけ話』も一つどうぞ。




