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19:ノックアウト

 デンテールは不敵に笑っていた。

 おれの愚弄ぐろうの言葉にも微塵も動じない。まあ、当然だろうけど……。


 “氷室”は再びおれに襲い掛かってきた。

 一人ずつ潰していくつもりらしい。

 ものすごい勢いで拳が近づく。

 だがおれは動かない。大丈夫だ。避ける必要はない。


 ゴォォ……


 顔面直前で停止した氷室の拳。顔を吹き抜ける風が、直撃していた場合の悲惨さを物語っている。

 おれはヨッくんに目を向けた。

 ヨッくんは眼を銀色に光らせながらうなずく。

「ナ〜イス、ハル君〜」

 おれは動こうと足掻く氷室の腹に、ピタリと足をつけた。

 あの大ジャンプ時の威力を攻撃に利用する!


「何をしている、氷室!」


 デンテールが上から怒鳴る。

 ムダさ。こいつは動けない!

「りゃあぁっ!!!」

 おれは手加減なしに“衝撃”を撃ち込んだ。


「――――っ!!!」


 氷室はその威力で吹っ飛び、攻撃したおれも衝撃で後ろへ転がった。

 だが、しっかりと見てやった。

 デンテールの驚いた表情を!


 さて、氷室はこれでノックアウトか―― と思ったが甘かった。


 ヒュンッ!


 何かが空を切ってこっちへ飛んでくる。


「マハエ!」

 駆け出すヨッくんの叫び声も遅かった。

 氷室の投げた長剣が音の速さで空気を貫き、おれへ迫る。

 当然、座り込んだ状態でそれに対処できるほど、おれはアクションスターではない。立った状態でも避けることは無理だろうけど。

 長剣がおれの頭を貫くのに0,5秒もかからない。


 ――はずだった。


 長剣は、おれの頭すれすれを通り抜け、後ろの壁に突き刺さった。

「…………」

 外した……? あぶね……。


 氷室はすでに立ち上がっていた。

 おれもビビリながらも立ち上がる。


 苦痛の表情で腹を押さえる氷室。与えたダメージは大きかったようだ。

 もっとだ。これくらいじゃ勝てない。

 やっかいなのは氷室のあの素早い攻撃。動体視力など養っていないおれにとって、これを回避するのは至難の業だ。

 となると、やはりチームワークは不可欠だ。


 デンテールは、さっきよりも真面目におれたちの戦いを見始めた。

 おれたちの戦術に興味を示したようだ。

 だがそれは、おれたちの手の内をやつに見せることにもなる。


「ヨッくん。フォロー頼む」


 おれはそれだけ言って、ナギナタを構えると、氷室へ突進した。

 とりあえず、こいつはおれが倒す! デンテールのやつにすべての技を見せるわけにはいかない!

「りゃあぁ!」

 ナギナタを一振り。しかし氷室はそれを軽くかわす。でも、それも計算のうち!

 そのまま踏み込んだ足で衝撃波を放つ!


 ズズゥン……


 狙い通り、床を広がった波は、氷室を転倒させた。

 突然足をすくわれ驚く氷室に、すかさずナギナタを振りかざす。


 しかし、次に足をすくわれたのは、おれのほうだった。

 さすがは最終ボスとして作られただけのことはある。その戦闘能力に容赦はない。

 仰向けの状態の氷室に足払いをかけられ、今度はおれが転倒。

 逆に起き上がった氷室にナギナタを奪われ、形勢は逆転。


 ヨッくんが駆け寄って剣を振り下ろす。

 だが氷室はそれをたやすくガード。そしてヨッくんに蹴りをかます。

 しかし―― ヨッくんには当たらない。氷室のすばやい連続技を、それに負けないスピードでかわしている。

 これもヨッくんの力の一つか。

 だが、それも長く続きそうにない。最初は完璧にかわしていたが、さすがに連続攻撃はキツいらしい。直撃は免れているものの、すでにギリギリ状態だ。何度か攻撃がかすり始めた。

 助太刀をしようと、エンドーが腕を構えて敵を狙っている。

「まて、エンドー! まだ使うな!」

 デンテールにすべてを見せるわけにはいかない! エンドーは唯一強力な戦力だ。ここでダウンされても困る。

 せっかく、ヨッくんがおとりになっているんだ。

 氷室は攻撃を当てようと、そちらのほうに集中している。

 つまり、背後は隙だらけだ。

 見ると、ナギナタは投げ捨てられていた。

 さっさと攻撃しないと、ヨッくんがカワイソウだしな。


 おれはナギナタをそっと拾うと、氷室を狙って構えた。

 デンテールは見ている。だが、氷室にそれを知らせることはないだろう。デンテール(やつ)は楽しんでいる!

 できるだけ足音を立てず、できるだけ助走をつけて。


 バキッ!


 おれが走り出すのと、ヨッくんに氷室の攻撃がヒットするのはほぼ同時だった。

 宙を舞うヨッくん。一瞬、おれと目が合い、微笑んだ。


 これがトドメだ!


 ヨッくんが床に落下。そしておれのナギナタは、確実に後ろ姿の氷室をとらえていた。

 ナギナタは見事、ターゲットの胴体を貫いた。


「…………?」


 ……不思議な感覚だった。


 たしかに、ナギナタは、氷室を貫いたはず。

 それなのに、全く手ごたえというものがなかった。

 目の前にいる敵が、まるでそこに存在しないかのように……。


 存在しなかった?

 いや、たしかにあの時、ヨッくんを攻撃していたのは氷室だった。実体のある敵だった。

 少なくともあの時までは――

 くそっ! どこですり替わった!?

 目の前の“氷室”を形成していた何か。それは霧のように空気に流され、消滅した。


 分身……? 幻術……?


 本体はどこに!?

 ふと、背中に不気味な気配を感じた。これが“殺気”というものだろうか?

 背中をとられた……!!


 ――終わった。氷室はこの一撃で決めるだろう。


 くそっ! 体が動かない!

 おれはここでゲームオーバー…… か。


「――マハエ!」


 エンドーの叫び声で、おれは閉じかけた目を見開いた。


「前へ跳べ!!」


 氷室の攻撃に、明らかな隙が生じていた。

 おれは足から力を放ち、思い切り前方へ避難した。


 ――爆発が起こったのは、直後だった。

 いくつかの“魔力の球”が、氷室を取り囲むように配置され、そして一度に爆発。

 氷室の悲鳴も、その爆音にかき消されたいた。


「――いっつ……」

 床に衝突したおれは、すぐにエンドーに目を遣った。

 倒れる氷室の向こうで、力を使ったエンドーは険しい顔をしていた。

 その表情から、エンドーの心中を読み取る。


『なるようになれ〜』


「…………」

 おれは沈黙した。


『氷室 HP:0』



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