17:疾走!ひたすらに!
一つ目の番人は、防壁を凄まじい怪力で破壊し、おれを追ってくる。
ドゴン! ドゴン! と、足音がだんだんと追いついてくる。
なに城を壊してんだよ!
そこまでして追うように命令されているのか!?
丸太の見張やぐらが複数並ぶ広場に出た。
その上で、見張りのモンスターがおれに気付き、騒ぎ始める。
あまり敵に見つかりたくないのだが、やつがおれを追ってくるかぎり、止まることも目立たない道を探すこともできない。
壁を突き破るほどの猪突猛進ぶりだ。
やぐらの下をくぐると、やぐらは破壊され、上のモンスターが落下。
その後のいくつもの低い防壁を、抜け穴を探しながら通過しても、番人はそれさえも破壊し、しつようにおれを追跡する。
途中の見回りのブタやオオカミにもかまわず、走り続ける。
動物園か、ここは。
あわれ、見回りはおれを追う番人に倒されていく。
もうおれを捕らえることしか頭にないようだ。
おれ一人ではどうにもならん!
ヨッくんとエンドーはどこにいるんだ!?
建物内への入り口を見つけ駆け込んでも、やはり足音は追ってくる。
石壁の廊下を、逃げ口を探しながら、全速力に更に拍車をかける。
だが、松明が並ぶ廊下の壁に、ドアやは一つもなく、行ける道を行くしかない。
「シトメろぉ!」
前から複数のオオカミ―― 『ドッグ(エンドー命名)』が、横一列に並んで、ナギナタを前に突き出し突っ込んでくる。
くっ! 次から次へと――
おれはそれを、魔力で跳び越えて逃げ続ける。
番人に踏みつけられるドッグの悲鳴を、曲がり角でさえぎり、まっすぐ。
と、そこでヨッくんとエンドーが向こうの曲がり角から現れた。
「おお! ヨッくん! エンドー!」
よし、これで三対一だ――
二人が現れた角を、追うようにもう一体の一つ目モンスターが。
そっちもデスカー!!?
おれたちは廊下の真ん中で向かい合ってブレーキをかける。
「元気かい?」
ヨッくんがおれに問う。
「鬼ごっこできるぐらいね」
で、進路も退路も鬼に挟まれたわけだ。
「ああ、マハエさん! よかった!」
ほっとしたような案内人の声。しかし状況はちっともほっとできない。
「ここだ!」
エンドーが叫ぶ。
首を横に向けると、大きな鉄扉の存在に気付いた。
「だめだ! ロックされてる!」
エンドーが上のかんぬきを見上げて舌打ちする。
だが、横を見ると、もう一つの小さな入り口があった。
そのドアから鉄扉の向こう側へ侵入。
そこには、高い塔へ渡るための跳ね橋が降りていた。その下は目が眩むほど深い巨大な穴。
おれは塔を見上げた。
「ボスはあそこか」
そして、デンテールもいるのだろう。
ゲームクリアーは目前だ!
ドグン!
後ろの鉄扉から、それを破壊しようと殴りつける音が響く。
「もたもたしていられないね。行こう!」
ヨッくんが跳ね橋の横にあるレバーを操作した。
おれたちは徐々に上に傾いていく跳ね橋の上を駆け抜ける。
「跳べぇ!」
限界まで走った足に最後の無理を言って、橋の開いた隙間を跳び越えた。
ドグワァン!
そのとき、後ろで鉄扉が破られたが、おれたちはすでに安全域。
だが、驚くほどしつこい二体のモンスターは、上昇する跳ね橋に飛びついてきた。
「しつけぇんだよ! 往生しろ!」
エンドーの力が二つの球体となって、それぞれの顔面で炸裂! 低い叫びを発しながら、二体は穴の底へ落下した。
――ガコン……
九十度の壁となった跳ね橋に寄りかかって、おれたちは同時に座り込んだ。
「ああ…… もうこれ以上無理させないでくれ……」
エンドーが唸った。
おれもこれ以上にきついのはもうゴメンだ。
「いよいよボスか……」
塔入り口の、これまた大きな鉄扉を隅々まで眺めた。
敵が出てこないか? せめて今だけは休憩タイムにしてくれ。
「どうだいマハエ。一度死んだ気分は?」
おれの隣のヨッくんが、前を向いたまま訊く。
あの爆発のことか。
「いい気分だぜ〜。なんかスッキリした」
下を向いて苦笑するおれたち三人。案内人が少し怒った声で、ヨッくんとエンドーに言った。
「知っていたんですか? マハエさんが生きてるって」
「ぼくたちが知っていたのは、マハエ(こいつ)が簡単に死ぬわけがないってことだけだよ」
「そうそう。前に施設のみんなと海へ行ったらさ。こいつ、浮き輪で波にさらわれて行方不明になったんだぜ。あのときは、もう全員があきらめてたね」
エンドーがおれの心の傷を叩く。
「……ふん。あれはおれを夢の世界へ導いた海の野郎が悪い」
敵の本拠地のど真ん中だというのに、おれたちはしばらくの間、談笑していた。
なぜこんな気分になれるのか、自分でもわからない。ただ、もしかしたら、心のどこかではすべてをあきらめていたのかもしれない。
生きて帰れないのではないか?
もう運は尽きたのではないか?
……馬鹿らしい。