16:高く高く―― 跳べ!
背後からの爆風に押され、おれは受身を取りながら前に転がった。
後ろで炎が起こり、大量の煙がうねっているのは、見なくてもわかる。
少し遅れれば、自分もそれに巻き込まれていたのだから。
「いやー、何とか生きてたねぇ」
おれは服をはらいながら立ち上がると、改めて後ろを見た。
それにしても、ひどいことするよなぁ。ゾンビ野郎。
建物もガイコツ軍隊も、すべてが粉々だ。
さて、そんな中、見事に生還したおれに「無事だったかマハエ!」とか「怪我はないかマハエ!」などと、本来誰かが駆け寄ってきてくれてもよさそうなものだが……。
誰もいないではないか。
そこは草も木も生えていない荒野のような場所。
ヨッくんとエンドーは脱出できただろうか?
一瞬不安になったが、すぐにその思いを捨てた。
くたばったわけがない。
おれたちは昔から運だけはいいのだ。
おれも運がよかったと、つくづく思う。
正確には危機的状況下で、運のスキルがハネ上がるというべきか。
爆発の数十秒前――
トロッコに見捨てられ、ガイコツに囲まれたおれは、魔力を使ってその場をしのいでいた。
ガイコツは、衝撃波には特別弱いらしく、オークには転倒させるのが精一杯だった威力でも、容易にバラバラにできた。
しかし、そいつらはすぐに再生してしまう。
おれは逃げながら脱出方法を考えた。
足から衝撃波を放つわけだ。それを利用できないか?
放つ衝撃波をもっと圧縮できないものか……?
力を極限まで圧縮できれば……。
イメージするんだ。力を分散させず、一点に集中する。
骨に追われながらふと上を見上げた。
五メートルほど上に、ここに入ってきたときの孔が見えた。
一か八か。二度ジャンプしてから、魔力を振り絞って、着地と同時に足元の一点に叩き込んだ。
高く跳ぶイメージで――
圧縮された衝撃が地面を蹴るときに感じられた。
おれの体は軽くなったように浮き上がり、天井の孔を抜けた。
脚力だけではとうてい及ばない高さの孔まで、魔力の反動を利用して高く跳び上がることに成功した。
危ないところだった。
あんな状況でもアイデアは思いつくものだな。
それに、あの技を攻撃面に利用すれば……。
――よし、ヨッくんとエンドーは城へ向かっているだろう。急いで合流しなきゃな。
その荒地に生は感じられない。
歩いても歩いても、木もないし、草も生えていない。生えていても小さいのがちょこんとだけだ。
サボテンも生えてはいないが、気分はウエスタンだ。
暑く感じるのは周りの雰囲気のせいであろうが、BGMでも演奏してくれれば少しは気がまぎれる。
しかし、肝心の案内人は他二人のもとへ行っているのだろう。さっぱり応答がない。
まあ、それが二人が生きているという証拠なのだろう。
しかし……。この孤独感はなんだ?
ふっ……、涙も枯れてらぁ……。
数十分歩いてようやく城の入り口らしい場所が見えてきた。
ひっそりとしていて小さい。おそらく裏口だろう。
二人は同じ道は通っていないだろうから、たぶん正面から侵入する、もしくはしたのか。
ここまで来れば、草もいくらかは生えていて、木もいくつかある。
で、案の定、裏口には見張りがいる。
おれはホフク前進で木の裏に隠れた。
一体だけだが、いかにも強そうなモンスターだ。
おれよりもはるかに…… “はるかに”デカく、プロレスラー顔負けの筋肉を持ち、顔の真ん中にある一つの目が、用心深く左右を見回している。
できれば賢く入りたいな。
戦闘というのは賢くないやり方であって、できればこちらに被害がなく、かつ静かに、侵入がバレないように。
高さ三メートルほどの障壁が城を囲んでいる。
この程度の高さなら、さっきと同じ方法で楽に跳び越えられるが、あれを使うと大砲のような大きな音が発生してしまう。これも賢いやり方ではない。
賢い者は、敵と接触することなく、見つからないように侵入するのだ。
そして、それを可能にするのが、コレだ。
おれは足元にあった石ころを拾い上げた。
それをできるだけ遠くに―― 投げる!
ガサッガサッ…… と、石ころが草の生えた地面を転がる。
よし! 名づけて『小石ころころ番人さよなら作戦』!
番人たる者、少しの異変も見逃さない。その習性を利用し、遠くで音をたてて番人をおびき出す。そして無防備になった入り口かららくらく侵入するのだ。
さあ、さっさとその汚いケツをどけやがれ!
[番人は鼻をほじっている。]
気付けよコラ。
ずっこけて木に頭を打ってしまった。
「ムん? ダレかいるノカ?」
おれじゃなくて石ころに気付けぇーーー!!!
おれは大人しく姿を見せた。
「ム……? モくテキはナンだ? コゾウ」
巨大な眼でにらみつけられ、うまく逃げ出せそうにない。
「えっと……。あの……。些細な用事なのですが……」
ここはうまく切り抜けるんだ。
何て言えばごまかせるだろうか? そう、説得力とリアリティがあり、何気ない言い訳を……。
「ちょこっと魔王様に消えてもらおうかと――」
「…………」
「…………」
――逃走っ!
おれは防壁へ走った。
ハイジャンプして壁の向こう側へ――
リアリティあったんだけどなぁ。
ま、賢くはなかったが侵入成功か。