12:絶叫!警戒!疑問?
『イカダ』の広さは、三人乗っても少しスペースが残るくらい。
しかし、それはやはりイカダ。丸太をヒモで組んで、真ん中に、ぼろぼろの布でできた帆が立てられている。
沈みそうだなぁー。
おれは縮こまって、マストにしがみつく。(持っているナギナタが邪魔だ)
「出発ー」
元気がいいのはエンドーだけ。
さっきまで、めんどくさそうな顔をしていたのに……。
ヨッくんが短剣で、イカダを岸につなぎ止めているロープを切断した。
ゆっくりと流されるイカダ。
その速度はしだいに速くなり……。
「おおぉおおおぉぉあああぁあぁぁぁ……!!!」
絶叫するおれ。
「うほほほほほほほほほほほほ!!!」
喜ぶエンドー。
「守りたまえ救いたまえ導きたまえ……」
神に祈るヨッくん。
死ぬ……。
イカダは、しばらく暴走したように流されたあと、徐々に速度を落としていった。
流れの遅い場所に到達したようだ。
おれはしがみついていたマストから手を離して、おそるおそる立ち上がった。
「助かった……」
脱力するおれ。
「もう終わりか?」
残念そうなエンドー。
「神よ……。感謝します」
神に礼を言うヨッくん。
おれはエンドーに訊く。
「なんで、そんなに楽しめるんだよ?」
エンドーは首をひねって答えた。
「なんでって、安全に進めるようにプログラムされてんだろ? このイカダ」
それを聞いたおれは、さらに脱力。
本気でそう思っているこいつは幸せ者だ……。このゲームをつくった制作者だぞ? そこまでおれたちのことを考えているわけないだろ。
エンドーに説明するのもめんどうなので、とりあえずため息をついておいた。
おれたちの乗ったイカダは、流れの穏やかな川を、ロープで引っ張られるように、まっすぐ下流へ進む。
両側は森らしく、木が生い茂っている。(森の中を流れる川だ)
テレビのアマゾン川を思い出して、とっさに警戒モード。
もしも、巨大なヘビが出てきたら……。
いかなる危機にもすばやく対処できるよう、つねに神経をとぎすませておく――
「いやー、気持ちいいし、空気がおいしー!」
「なにを言っているんだい、エンドーくん。実際に森の中にいるわけじゃないんだよ」
「ふ……。現実主義だな、ヨッくんは。いい大人になれねーよ?」
――のは、おれだけのようだ……。
十五分ほど経過したとき、案内人が告げた。
「もうすぐ魔城に着きますよ」
おれたちはイカダが進んでいく、下流へ目をやる。
先のほうに島のようなものが小さく見える。そこに魔城がある、と、案内人は言う。
よく見ると、この川は先で二股に分かれるようだ。そして、その中心にそびえる崖。
あそこに魔城の入り口が?
「あそこはもう、乗っ取られているでしょう……。もしかしたら、見張りがいるかもしれません」
「見張りに見つかったら厄介だな。デンテールに知られてしまう」
エンドーが『デンテール』の部分を強調して言った。
学習したな。
さて、見張りがいたらどうする? ここからじゃ遠すぎて見えるわけがない。確認できるまで近づいたら、こちらの存在も気付かれてしまう。
「……よし、ここはぼくが」
ヨッくんがイカダの先端に立った。
キィーーーン……。
あのときの、空気が振動する鋭い音。
『魔力』を使っているようだ。
でも、なにを? ヨッくんの力の、別の使い方ってやつか?
しばらく魔城のほうへ眼を光らせた後、疲れたと言うように、目を押さえておれたちに向いた。
「どこにも見張りはいない。このまま進むと、洞窟があるから、そこから入るんだろう」
自信を持って言うヨッくんに、案内人の驚いた声。
「見えるんですか!? 吉野さん!」
「うん。これがこの力の別の使い道。いろんなものが見えるよ」
いろいろなもの……?
おれやエンドーの力にも、別の使い道があるのだろうか?
四階建ての建物ほどの高さの崖。
ヨッくんが言ったとおり、その崖の下に洞窟があった。それに見張りも確認できない。
洞窟―― 魔城の入り口は、すんなりとおれたちの侵入を許してくれた。
暗い洞窟に入ったイカダは、奥の岸まで流れると、コトン……、と音をたてて停止した。
おれはイカダから降りると、こわばった腰をひねった。
「うー……。やっと着いたなぁ」
エンドーとヨッくんも、降りて伸びをしている。
どこへ行くのかと、闇に目を凝らすと、石の階段を見つけた。
おれたちは足元に気をつけながら、慎重に一段一段のぼっていった。
らせん状になった狭い階段を、誰も声を出さず、できるだけ音を消して上へ進む。
耳を澄ませながら―― 上から岩が転がってきても、すぐに下へ逃げれるように。
アドベンチャー映画の影響か、ついつい危険な想像をしてしまう。
だが、この世界ではその可能性は高い。
今転がってくる。あと一段踏んだら転がってくる……。
「…………」
「…………」
「…………」
思い過ごしか。
外の光が見えた。
おれたちの顔に、自然と笑みが浮かぶ。
緑の広場――
「はあっ……」
息苦しい階段をやっと抜け、外の空気を胸一杯に吸い込む。
いちいち寿命が縮む!
しっかし、魔城だから、もっとトラップがあるものかと思ったが……。
そこは草原のように、緑の草がぎっしり生えた広場。
眺めのいい高台だ。森と、その中を、まっすぐに伸びる川。イカダで下ってきた川だ。ここはあの崖の上なのだろう。
「この土地、買いだね」
ヨッくんがおっさんみたいな発言をする。
住みたいのか? この世界に?
おれは鼻を鳴らし、反対側を見た。
白いレンガの壁が、横にまっすぐ広がっている。
すでにエンドーが、鉄の扉がある門の付近を探索している。(この絶景に見向きもしないとは……)
おれはヨッくんの腕を引いて門の前へ。
立て看板に【魔城 正門】と書いてある。
なんとご親切な……。
「何かあったか?」
訊くと、エンドーは門の鉄扉を見ながら腕を組んだ。
「ここ以外に侵入口はないようだ」
……いや、ここ以外、どこから入ろうと思ったんだ?
そう言うと、
「あのなぁ。正門から中に入っていいのは、住人か、客か、引越し屋だけだ」
常識だろ! と言わんばかりの態度。
おれたちは、住人でも客でも引越し屋でもないってわけね。侵入者だから。
でも、ここからしか入れないのは事実。
市販のゲームでは、主人公が敵の住処に、正門から堂々と侵入するっけ?
とか考えていると、エンドーが鉄扉に手をかけていた。
「ちょっ―― エンド――」
手を伸ばして、エンドーを止めようとしたが遅かった……、が……。
ガチャン……。
[カギがかかっている。]
カクッ、と勢いでコケかけるおれとヨッくん。
「なんだー。カギかかってんのなー」
エンドーが腰に手を当てて、舌打ちをする。
いきなり開けようとするな! もうちょっと警戒心を持て!
こいつを独りで行動させるのは危険だな。一緒に行動するのも危険だが……。
その様子を見た案内人は。
「おかしいですね……。簡単に開くようになっているはずですが……」
それはそれで制作者に文句を言いたくなるよ。
「まあいい。こういうときはだな」
エンドーが拳をコキコキッっと鳴らす。
お、あの技を使う気か?
鳴らした拳を持ち上げ……、開き……、口のところでメガホンのように構える。
「ちわ〜! 宅配屋でっす〜! 開けてくださ〜い!」
「開くかアホ!!!」
おれとヨッくんのダブルツッコミがさく裂!
客でも引越し屋でもなく、宅配屋さん!?
そんなことで開くわけが――
ギギギギギギ…… ゴトン……。
……開いた。
「ほら見ろ。ちゃんと開けてくれた」
あっけにとられるおれたちの横で、エンドーが得意げに言う。
でも、エンドーの言葉で開いたと言うよりは、おれたちを招き入れるために開いたような……。出迎えもいないし……。
それに、なんか変だぞ。
扉の向こうの空間が波打ったように見えたのは、おれだけか?




