10:勇者の力 それから意思
目を覚ましたおれは―― 目を開けたおれたちは『灰白の世界』にいた。
灰白色の世界の中で、直径六メートルほどの、謎の文字が刻まれた石の円盤を囲むように、おれ、エンドー、ヨッくん。
何かのゲームの『賢者の間』を思い出す。
「ここはどこだ? みんな無事か!?」
「ぼくは…… 死んだのかな?」
「おい、ヨッくん! マハエ! どうなってるんだ!?」
おれたちの声が何重にも反響する。
ここはどこなんだ!?
[――人間たちよ……]
心に響く声とともに、円の中心に青白い光が現れた。
「誰だ……」
女のような、優しさを感じる声だ。
耳から聞こえるのではなく、直接頭の中に吹き込まれるような……。
[――あなたたちは世界を救えますか?]
……は?
[――世界を、救ってくれますか?]
「…………」
「…………」
「…………」
なにを言うんだ? 誰なんだ? おれたちになにをどうしろと?
突然のことにおれは混乱した。
そうだろ? いきなり名のりもせず、世界を救えるか? だ。
説明してもらわないと答えられるはずがない。
[――救ってくれますか?]
その声は、なおもおれたちに問い続ける。
おれたちはどうすればいいんだ?
少しの沈黙。
さまざまな考えがめぐる。
答えるべきなのか?
……なにを?
「救おう」
まっさきにエンドーが答えた。
エンドーお前……、この問いの意味がわかって――
「ぼくも、救おう」
こんどはヨッくん。
「…………」
わからない。この二人はなにを考えているんだ?
長い間ともに暮らしてきたおれでも、二人の、この心理は理解できない。
この問いの意味……。おれにはわからない。
「…………」
“世界を救ってくれますか?”
だが、なぜか、本能的な何かがおれの心を動かす。
今、おれの前に、道は一本しかないのだ。
おれはため息をついて頭をかいた。
……まったく、おれの周りは変人ばかりだな。
でもおれは――
「救おう……」
――こいつらとおれは、断ち切れない鎖でつながっているんだ。
「救ってやるよ!」
おれが言うと、とたんに光が増大し『灰白の世界』を青白い光で埋めつくした。
[――ありがとう……]
矢のようにうち上げられた光が、三つに分かれ、おれたちの胸に突き刺さった。
「…………」
これは力の塊?
不思議な感覚だ。体中を何かがかけめぐり、苦痛を消し去る。
[――その力は、あなたたちの助けとなります。しかし、けっして、死を打ち消すものではありません。あなたたちの力を信じます。どうか、わたしの過ちを――]
「マハエさん! 吉野さん! 遠藤さん!」
薄れゆく光の中で、案内人の呼ぶ声が聞こえた。現実に引き戻すように、その声に引っ張られる。
おれたちは生きている!
世界を包む光が消えたとき、おれたちはさっきの噴水前に立っていた。
モンスターどもが、驚いた表情で復活したおれたちを見る。
すごいパワーだ。
モンスターの集団を前にしても恐怖を感じない。
おまけに体の傷も完全に癒えている。
「グゥー…… ガァウ!」
武器を片手に飛びかかるモンスターの一。
おれは本能のままに新しい感覚―― 力を集中させた。
「うらぁっ!」
地面を踏みしめ、溜めた力を一気に放つ!
ゴゴオオォォォッ!!!
おれの足元から強い衝撃波が放たれ、地面を広がり、周りのモンスターをなぎ倒す!
「今だ!」
おれは叫んで、倒れたモンスターを踏みつけ、集団の外を目指す。
「グオオオァァウ!!!」
駄目だ、数が多い! 後方のモンスターを倒すほどに力は及んでいなかった。
「ぼくに任せろ!」
ヨッくんの眼が銀色に光った。
キィーーーン……
力が超音波のように空気を振動させた。
その波は前方のモンスター集団をつき抜ける
時が止まったような気がした。
だが、止まったのはおれたちではない。
ヨッくんの力に貫かれた前方のモンスターが、金縛りにあったように動きを止めたのだ。
おれたちは、動かなくなったモンスター集団の中を、縫うように駆け抜ける。
後ろから動けるモンスターが追ってくる。
逃げ切ってやる!
っと、その前に……。
おれは、近くで停止している、オオカミの持っている『ナギナタ』を、その手から奪った。
こん棒じゃ、重すぎて疲れるからな。
全力で走って、追手たちと数十メートルほど距離が開いたが、とても逃げ切る体力はない。
これじゃ、すぐに追いつかれる!
そのとき、エンドーが急ブレーキをかけて、振り返った。
「どうした!? 早く!」
おれの呼びかけにエンドーは反応せず、呼吸をととのえている。
モンスターが迫る。
停止していたモンスターも動き出した。
もう20メートル前方まで――
「最後はおれに任せとけ」
エンドーが腕を前に構え、低くうなった。力を集中させているのだ。
そして、前方に力を飛ばすように、腕を横に振った。
カッ!と強い光。
そして――
ドゴオォォン!!!
まるで地雷を踏んだように、追手の先頭から大爆発が起こった。
普通の爆弾の爆発とは違う、強い力が破裂したような爆発だ。
すげぇ……。
白い爆風は広範囲に広がり、ほとんどのモンスターを巻き込んだ。
ォォォォォ……
爆音が止んだ。
「なんて威力だ……」
おれはあ然とする。
ヨッくんもその威力に驚いている。発動させたエンドー自身も。
案内人が恐れるように言う。
「あなたたち…… いったい……」
おれたちの身に起こったことを、案内人は知らないのだろう。
「グルルル……」
半分ほどモンスターが吹き飛んだものの、すべてが滅されたわけではなかった。
被害をまぬがれたモンスターや、巻き込まれてもダメージが少なかったモンスター。
だが、どいつも再び襲ってこない。おれたちの力を警戒しているのだ。
あれがプログラムのままのモンスターだったら、どうだろう?
力を恐れるだろうか?
死を恐れるだろうか?
単純につくられたプログラムは、命令どおりに動くだろう。
しかし、セルヴォたちは死にたくないという自分の意思を持っている。
案内人の話―― プログラムとセルヴォの違い。
案内人には悪いが、やはりまったく別なものなのだ。
不要な戦いはしない。
先へ進もう。
あのゾンビ野郎をぶっ飛ばす!




