09:明らかな絶望もピンチという?
セルヴォがセルヴォを殺す……。
いったい何のために?
「まさかセルヴォの力がここまで強大とは、予測していませんでした……」
聞こえるのは、人型セルヴォの悲鳴と、モンスターセルヴォの咆哮。
案内人が独り言のように呟く。
「殺せないプログラムをセルヴォ化させ、殺す……。なぜ?」
おれも声をひそめる。
「とにかく、どうにかしないとな……」
気付けば周りは静かになっていた。この辺の住民は全滅したようだ。
「どうしよ?」
ヨッくんがおれに訊く。
知らん! と言いたいところだが、今はそんな無責任なことを言っている場合ではない。
「んー……」
でもわからない。
様子をうかがっていたエンドーが口を挟む。
「おい、あれ見ろ」
そちらへ目をやる。モンスターが町の中心へ向かっている。
「なにかあるのかもしれねーぞ」
エンドーが今にも、モンスターについて行きそうだ。
その前におれが言っておく。
「行ってみるか」
建物に隠れながら、モンスターに見つからないように静かに移動する。
そのとき、何かに足を掴まれた。
人だ。頭から血を流した男が、何かをうったえようとしている。
「大丈夫。心配ない」
男にそう言うと、手を離して静かになった。
やはりセルヴォは……。
町の中心の噴水前に、モンスターが大勢整列している。
そして、噴水の噴出口に立ってそれを見下ろす影。
あれは…… えーっと……。
はみ出している記憶を引っ張り出していると、影がしゃべった。
「ふん、住民プログラムなんて中途半端なものを改造しても、何の意味もない」
あいつには見覚えがある。
「面白くない。ったく……」
あれがこのモンスターを率いているのか。
「案内人」
声を殺して案内人を呼ぶ。
「はい」
「あいつは……。あいつはあのとき、墓場にいたゾンビじゃないか」
そうだ。あの特徴的な顔を忘れるはずがない。不良に混ざって現れ、すぐに消えた、あのときのゾンビだ。
……案内人?
「……ンテール……」
案内人の言葉は、おれたちにははっきり聞こえなかった。
「どうする?」
三人で相談。
「どうするって、おれたちはアレと戦うべきなのか?」
エンドーの声が微妙にふるえている。
「無理。死ぬ」
バトルに乗り気だったヨッくんが完全拒否。
当然だ。あの数のモンスターを相手に勝てるわけがない。(不良にすら勝てなかったし)
ん? 不良?
「案内人、あのときの不良集団のときみたいに、全部デリートしてくれよ」
「…………」
反 応 ナ シ !
「逃げたほうがいいと思うぞ」
と言うエンドーに賛成!
モンスターどもはおれたちの存在に気付いていないだろう。とりあえずこの場を脱し、案内人も含めて相談だ。
しかし、おれたちはよほどツイていないのか……。
「ん? 臭うぞ……。誰だ? ネズミを引きずり出せ!」
ゾンビがモンスターに指示を出した。
鼻の利くゾンビさんだこと……。
固まったおれは二人に質問する。
「誰か屁こいたか?」
首を振る二人。
「昨日食ったギョウザのせいかも……」
エンドーが口を押さえる。
ニンニクめ〜。
おれたちはあっけなく、モンスター集団の輪の中へ引きずり出された。
噴水に立って嬉しそうにおれたちを見下すゾンビ。
「ふふふ…… ターゲット捕獲」
アニメチックな顔だが、妙な威圧感がある。
おれたちは喋れなかった。
「墓地では危険を感じたので退避させてもらったが、こんどは逃がさないぞ」
危険を感じた……? 案内人にデリートされることがわかっていたのか……?
何者なんだ? このゾンビ野郎。
「なんで……、住民たちを殺した?」
ようやく口を開いたのはエンドー。
その疑問は今はどうでもいいだろ。と言いたいが、実際気にならないと言えば嘘になる。
「役に立たないからだ。それに邪魔だからな。ふふふふふ……」
なるほど。こいつは本当の悪キャラというわけだ。
ゾンビは顔をニヤつかせたまま続ける。
「単純すぎる住民プログラムなんか改造しても、何のメリットもないことがわかった。それにくらべ、最初から戦闘命令を組み込まれたモンスターは、改造すれば十分に役に立つ」
そうか、このモンスターどももプログラムだったやつらか。ということは、このゾンビがプログラムのセルヴォ化を引き起こしていると……。
ゾンビは気味悪く笑った。
「単純すぎるプログラムは、改造してやっても、たいして知能を得ることはできない」
利用価値がないから殺す……。
あの占い師を殺したのも、こいつか。
そう考えると、怒りが湧き上がってきた。
少なくとも占い師は、殺されまいと武器を持って抵抗した。つまり、死にたくなかったと。
べつに他人のために怒るなんて、おれはしない。
ただ、こいつの邪悪な心が許せないんだ。
でも、(ヨッくんじゃないが)ゲームらしくなってきたじゃないか。
皮肉なもんだ。
最後にゾンビは、おれたちをにらみ、言った。
「お前たちを倒し、おれは完全となる」
さっきから、このゾンビ野郎の一言一言は謎が多い。
「どういうことなんだ?」
この状況に慣れたのか、ただ単に切り替えが早いだけなのか、エンドーが積極的に質問する。
「知らなくてもいいことだ。おれは忙しいんでな」
そして指を突きつけ――
「消えろ」
モンスターたちがいっせいに飛びかかってきた。
おれは重い武器を構え、
防ぐ 防ぐ 防ぐ……。
「ぐおお……!」
反撃できない……! やべっ!
受ける 受ける 受け……。
『マハエ HP:0』
『ヨシノ HP:0』
『エンドーHP:0』
くっ…… そぉ……。
自分の倒れる音も聞こえなかった。
すべて終わった……。
「ふふふ…… もろいな、もろすぎるぞ。こうも簡単に終わるとは……」
「…………」
「…………」
「…………」
「ザコはザコか。捨てておけ」
ゾンビはモンスターに指示を出し、消えた。
おれの意識は闇に吸い込まれるように――