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第99話・映画 GIRL(ガール)の感想

 ネタバレあり。これから見たい人は読まないでください。ネタバレでも構わないという人だけスクロールしてください。それと無駄に長いので適当に休みながらお読みください。



しつこいようですが、ネタバレ注意です!


 ↓ ↓ ↓



 ↓ ↓ ↓




 配給会社が宣伝する映画のイメージ画像は、顔を半分だけのぞかしている美少女。ブロンドにブルーアイ。左上にはポワントを履いたつま先を両手で握りしめているレオタード姿の少女。同一人物ですね。そして宣伝文がコレです。


 ↓ ↓ ↓

 バレリーナになる。この夢は何があっても諦めない。

 ↑ ↑ ↑


 ……とあります。

 このチラシを見れば、誰でもバレエ映画だと思ってしまう。今回は題名詐欺映画ではないが、映像イメージ詐欺映画でした。

 バレエシーンは確実に出てそれは当たり前。そうでないと私は観ないです。踊るシーンもありました。しかし、バレエ映画ではないので、踊るシーンも、心理的に追い詰められていく主人公のララを象徴するべく、映像加工している。

 彼女はトランスジェンダーといって男性の身体ではあるが、女性の心を持っている性同一障害者でした。話がすすむにつれて、彼女の踊るシーンは、ラスト近くはカメラワークがわざと二重に滲んでみえるように細工されていく。それが私のいう映像加工。主人公役もきちんとしたバレエ学校の在籍者と聞いている。加工せず、ありのままで踊ってるところを見せてほしい。でも監督としてはそうはいかないのだろう。

 バレエ学校が舞台ではありますものの、トランスジェンダーの苦しみがメインになっていますので、エッセイでも回り道をしてこちらにも触れておきます。まず「トランスジェンダー」 の言語ですが、日本では現時点では性同一障害というほうがわかりやすいかと思います。しかし、「障害」 という言葉にひっかかりがあり、英語読みのトランスジェンダーとするべきという人もいます。少数派のことをマイノリティーといいますが、過去はともかく個性の一つとして認めましょうという傾向が広まっていきつつあります。確かに「病気」「障害」 ではないのは事実。当該者にとっては自然なことなのに「病気」 や「障害」 扱いをされるのは不本意だと理解はできる。

 主人公のように男性の身体を持ちながら女性の心、というのがトランスジェンダー。

 彼は、いえ、彼女の名前はララ。

 もうちょっとトランスジェンダーの話をさせてください。トランスジェンダーという単語に対し、私のように女性の身体であり、女性の心を持っている、もしくは男性の身体を持ち男性の心を持っていると思っている大多数の人間が、シスジェンダーと称されています。その上、この二つのほかにも呼称を使うべきと主張をしている人もいます。分類すらわが国ではまだ決まっていません。表現する言語自体、錯綜して流動的です。例えば、ノンバイナリーといって男性でも女性でもない人、エイジェンダーといって性別自体がない人、ジェイダーフルイドといって男性時には女性と流動的になる人とあります。似ているけれど微妙に違うらしいです。総括として第三の性、Xジェンダーという言語もできました。今後もこの類の用語が増えるのではないかな……現在は性差別を解消しつつある段階ですね。LGBTという言語もわが国でも定着しつつあります。LGBTの定義は、東京レインボープライドによると、

① Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、

② Gay(ゲイ、男性同性愛者)、

③ Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、

④ Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語です。セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。

 ララは ④ のトランスジェンダーというわけです。最初は男性として育てられたらしくビクトールだったかな……まだやんちゃ盛りの幼い弟がその名前で呼ぶと「やめて」 というシーンがあります。怒るのではなく、はっと手をとめてそれから窘める……日常の一コマのシーンですが、この間の取り方にララの葛藤が読み取れます。本作の監督はララの過去の苦悩をそれとなく観客に知らしめるのが秀逸です。

 ララはクラシックバレエに夢中でバレエ学校の理解を得て女性として入学する。同時に理解のある父親と一緒に女性の身体になるべく手術の準備のための通院をしている状況です。話はここから始まる。

 トランスジェンダーの苦悩をわかりやすく描く映画として、本作は一級品です。しかしです。しかしですよ。このエッセイを書く私はバレエ好き。私が監督ならば、違う話にします。だってララは最初は男の子として育てられたのです。だから、最初は男の子としてバレエレッスンを受けていたはずだと思うのです。

 で。

 幼少時のバレエレッスンの内容は男女とも一緒です。でも、だんだんと、お辞儀の仕方や手ぶりに、性差を感じるでしょう。レッスン前後のお着替えは、小さいときは男女一緒の部屋で着替えていたと思う。女の子が女の子であるということに通常は違和感を持たないはず。でもララは当初から持っていたはずです。バレエが大好きになってのめりこんでいく過程でその違和感は大きく育つ。私はこのあたりをバーレッスンに時間を割いたバレエ映画にするなあ……でも本作の監督はララの最後の選択、男性器の切断……が一番撮りたかったのではないか。観客にララはこんなに追い詰められていたと知らしめるために。

 家族や先生にトランスジェンダーだと打ち明け、バレエレッスンに女の子として受ける。男の子用のシャツとタイツだけのレッスン着から、かみを伸ばしてシニョンヘアにし、レオタードを着る。ピンクのバレエシューズもはいてレッスンに臨む。どんなに晴れがましい気分だっただろう。女の子、長じてプロのバレリーナになって踊り続けたいと思うララを父親は認めて応援する。本当の女性となるべく手術も予定する。周囲の反応はどうだったでしょう。バレエスクールはもしかして、途中で変わったかもしれません。

 ララに基礎を教えたバレエの先生の理解は得られたらしく、技術的にはバレエ学校に入学できるまでになる。ララは完全な女性としてのバレリーナになりたい。しかし、女性に必要なポワントレッスンは受けていなかった。(著者注:ポワントはトウシューズと同じです。正式な発音はポイントらしいですが意味が通じていればどれも間違いではないです。)最初の面接でバレエ学校の先生はララに「トウシューズの経験がないので大変かもしれない」 と告知されるシーンがあります。この場面で私はまだ履かせてもらえなかったのは、それまでは男の子扱いされていたせいかという違和感と納得感を同時に感じました。果たしてララはポワントレッスンに苦労する。足を血まみれにさせながら踊る。

 ここでバレエを知らぬ人向けに、ポワントで血まみれになる状況がどんなものかを書いてみます。ポワントは、バレエタイツ、その上につま先を保護するクッション(トウクッションといいます)、それからポワントを履く。つま先をまっすぐにたてるのは、ポワントのつま先部分が固いからです。硬い部分はメーカーによって違いますがボール紙のようなものを重ねたり、プラスチックであったりします。それらを固定するのりの配合や縫製方法はそれぞれの企業秘密らしいです。体重をつま先にのせるのであそこは木や金属が入っていると思われがちですが、それだとダンサーがけがをします。底部分もきれいにしなって、甲もある程度出せるようにしますが、それをダンサーがさらに加工してひも付けや長持ちするようにニスなどを入れたりします。

 ララがレッスンのあとポワントを脱いだら血だらけの足の指がクローズアップされる。とても痛そうです。ポワントを履いたレッスン後、時には、ポワントのかたい部分と足の指がこすれたり、足の指同志がこすれてまめができます。さらにその状態を続けるとまめが破れて出血します。実際に大変痛いです。痛みに気を取られ踊りにまで細心の注意が払えません。ララの講師が、その状態を知っているはずなのに、「さあ。踊るのよ。あなたは踊りたいのでしょ」 と続けさせる。ララは痛みに耐えて踊る。この子、精神的に苦しい時でも微笑するのよね。いじめにあっていたときも微笑。見ていて痛々しい。この講師はあんまり良い講師じゃないなあと思ってみていました。たぶんララの足をさわったり、ポワントのチェックもしていないのじゃないかな。

 そのうえ、ララに対して周囲の女生徒たちから、大丈夫、と聞く人が皆無。激しいレッスンでもポワントを脱いだら血だらけになるとは限りません。映画ですので視覚効果もあって、ああいう表現になったのかと思いますが、少なくともララはポワントのはき方の基礎からちゃんと教えてもらっていない。

 私の時は小学生の時にレッスンの時にはいていましたが、マメがつぶれて、透明な液がでる。そのうえにカットバンを貼って踊る。マメが敗れると出血する。発表会前は毎日ポワントを履いて踊るのでマメの上にマメができて、普通のマメ破れと違って非常に痛くて、皆で痛さをこらえつつ、足のマメをみせあいっこしたのを覚えています。ララはそういう経験はなかったでしょう。みなで励ましあう経験もなかったのではないか。

 一応バレエ学校の同級生たちはララが男性の体ではあるが、心は女性であるというのを受け入れている。だから着替える場所も一緒です。しかしララが普通にレオタードを着用するとどうしても男性器のふくらみが出てしまう。胸はブラジャーをつけていてもなんとかなる。バレリーナは胸は表か裏か判明すればいいという傾向があるので、胸ナシでも大丈夫。でも男性器は違う。そこにあることは誰でも知っているし、隠せない。そのため、ララはレッスン前後に粘着テープで性器を小さくつぶすようにして肛門部にまで伸ばして貼り付けている。はがすときは相当痛いらしく顔をしかめている。更衣室では服を脱いだらすでにレオタードを着用している。絶対に裸になって一緒に着替えない。その上、レッスン後にはシャワーも浴びない。

 周囲はそんなララに違和感を感じる。親切ごかしに無理やりにシャワーに誘ったりする。ララもこれまた気が弱いので背中を見せながらシャワーを浴びる。気が強かったら、「あたしゃ女だけどおちんちんはまだとってないからごめんよ」 といいながら堂々と好きなバレエを踊るであろう。開き直って堂々とシャワーを浴びるであろう。いじめるなよ、とタンカを切るか、方向転換して男性ばかりのバレエ団、トロカデロなどをめざすぞと誓ったりする。開放的にふるまう方が、いじめにあわなかったと思うがララはそういう性格ではない。で、やっぱりいじめられる。

 生徒の誕生日パーティーに招待されたララは、周囲から「あそこはどうなっているの、見せて」 と言われる。パーティーの主役からも「私の誕生日だし見せてよ」 と圧力をかける。弱々しい微笑を浮かべて「やめて」 というララ。するとその場にいた全員から、「更衣室にいる私たちのハダカを見ているのだから、あなたのも見せるべきでしょ」 と言われる。

 その場にいる全員が目を輝かせてララの下腹部を見つめる。ああ、かわいそうなララ! あんなに涙ぐましい努力をして性器を目立たせないようにしていたのに。

 もともとバレエは男女の性差を感じさせる振付やポーズがある。それを男性的な肢体を持つララがポワントを履いて一生懸命踊って講師に「いいぞ」 と言われる。周囲の女生徒たちはケッと思う。

「無理に女性になろうとしてがんばっちゃって講師に褒められてどうも気にくわないヤツ」 ……となったのだろう。ララは気が弱いので押し問答の末、開き直れずとうとうスカートを持ちあげて見せてしまう。目を輝かせて見つめる人々。

 好奇心を満たされた人々は「ありがとう」 とはいう。しかしララの心は壊れてしまった。今までの努力が全部無駄であったこと、どんなにがんばっても根本的に元々女性であった人々の仲間にはなれないということ……ララは公演直前なのに家に逃げ帰る。心配する父親とケンカもする。そのあと、公演の観客として仲間が舞台にあがって踊るのを見る。あの中に何も考えずにバレエを踊りたかった……涙を流しながら公演を観るララ。

 本物の女性になりたいララと生まれたときから女性として過ごしてきた仲間とは、あまりにも心理的な距離が広すぎた。ララはあそこを見せてと言われた瞬間、自分の立ち位置を理解したのだと思う。

 そして突っ走ってしまう。次にすべきことは何か。あのやり方しかない。そう。男性器を取る手術をする。その予定はあった、しかしその手術も男性器を無理にガムテープで張り付けてまたはがすということを繰り返したために炎症をおこしたので数年先に延期になった。ならば、自分でなんとかしよう……、映画はララがその選択をするところでクライマックスを迎える。ジョキン……! 

 ララの良き理解者であり、望みをかなえてあげていたつもりの父親は救急車の中で泣きながらララの手を握る。ララはとんでもない親不孝者だが、男性器を切り取るに至る哀しい心理を思えば一方的に責めることはできない。幸い命は助かった。精神的にも落ち着きを取り戻したのだろう。映画ラスト、髪をバッサリ切ったララが女性として颯爽と歩くシーンで終了。あの様子ではバレエもバッサリとやめたのだろう。持っているバッグも小さいしあれではポワントも入らない。あーもったいない。

 ↓ ↓ ↓

 バレリーナになる。この夢は何があっても諦めない。

 ↑ ↑ ↑

 映画の宣伝文句がコレなのに、ラストのあの終わり方はどうよ? と責めてしまいそうになる私。ララちゃん、今度は自分で稼いで大人バレエをやりなよね……。

 元々クラシックバレエはどうしても男女の性差を感じるものです。男性の踊り、女性の踊りとはっきりと分かれてます。身体の線を見せて踊るのが当たり前なのでダンサーの性別もすぐにわかる。未来のバレエがどうなっているかは不明ですが、少なくとも現在ではそうですね。二十年後ぐらいにこの映画を観る機会があれば、感想も良い方に変わっていればいいかなあと思います。それでは終わります。


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