第94話・パ・ド・ドゥ (Pas de deux) の話・前編
今回は無謀にもパ・ド・ドゥの話を書いてみます。なぜ無謀という形容詞がつくのかといえば、私にはパ・ド・ドゥの舞台経験がないからです。観るのとやるのと全然違うのはどの舞踊でもそうですがバレエでは特に骨の髄まで実感できます。それでも、パ・ド・ドゥはクラシックバレエの華となるあこがれの踊りです。長くエッセイを書き続け、そろそろパ・ド・ドゥの話も書きたいなということでやってみます。
パ・ド・ドゥというのはフランス語でPas de deux と書きます。パ、はステップ。ドウは二人の意味、フランス語で一、二、三、は、アン、ドウ、トロワ、ですので、この二にあたるのが「ドゥ」 になるわけです。真ん中のドは接続詞ですね。つまり「二人のステップ」 というわけです。
そしてパ・ド・ドゥはバレエの全幕ものでは最大の見せ場、クライマックスシーンに登場します。この場合は時間も長いので特にグラン・パ・ド・ドゥといいます。グランもフランス語で「大きい」 という意味ですね。主催者側、出演者側とも、大変に気を張って演じる場面です。公演の目玉になりますので、失敗が許されない踊りです。
本来ならば主役級の限られた人だけがレッスンできるものでしょう。しかし近年の大人バレエはなんでもありです。私のようなヘロヘロでも(お金を出せば)教えてくれるところがあります……というわけでパ・ド・ドゥエッセイ開始です。前編はプロがやるパ・ド・ドゥ話ではなく、「大人バレエにおけるパ・ド・ドゥ話」 でいきます。以上前置き。
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バレエといえば、バレエ独特の衣裳、チュチュを連想する人も多いでしょう。チュチュを着て踊るという願望は、発表会などで簡単にかないます。
ポワント(トウシューズ)を履いて踊ることも簡単です。ポワントを仮に履けなくても、ポワントレッスンありのオープンクラスに行けば誰でもはいて踊れます。ただしまったくの初心者の場合、けがをする可能性大ですが。
その次に男性と組んで踊りたい。つまりパ・ド・ドゥをしたい……というのがあると思います。
チュチュやポワントに対するハードルは意外と低い。しかしパ・ド・ドゥ。レッスン中でこれができるのは少数です。本格的なところでは、幼少時からバレエをやり、少なくともポワントでヴァリエーションが数種踊れることが条件になります。それ故に大人バレエではパ・ド・ドゥレッスンをしてくれるところは希少です。どうしても相手役(男性舞踊手)が必要ですし、かといって素人と組んでパ・ド・ドゥレッスンをするのは男性側の怪我の可能性が増すということで、めったにやらない。大人バレエでもアドバンス(上級)クラスの生徒に限って受講可とするところも多いです。
子供からやっているならば、早い子で小学生五年生ぐらいでやります。発表会で役をもらってやるパターンになりますが、週に一度や二度のレッスンぐらいでパ・ド・ドゥはやれない。最低でも週に五六回は通う子かつ本気出さないとできないと思います。そして生徒の親が相手役に対する礼金の支払い能力があることも必須です。ポワントが履きこなせることは当たり前でこれらがそろわないと踊らせてもらえません。お教室によっては沽券にかかわる問題ですので、パ・ド・ドゥは先生の見込みがあり、かつ経済力がある保護者がついている生徒だけがやれるという感じになるかと思います。パ・ド・ドゥをやれる子はそれだけで恵まれているということです。
でも先ほども書いたように、近年大人バレエではなんでもありです。話がそれますが私は過去、ポワントではなく普通のバレエシューズでのパ・ド・ドゥもどこぞの発表会で観たことがあります。ポワントがないのは一目瞭然で目立ちますが基礎ができていた人なので、そんなに違和感はありませんでした。逆にこれだけ踊れるならポワントでもいけるはずなのに、単純に持ってくるのを忘れた人かも、と思ったぐらいです。
別の大人バレエ発表会では、ポワントは一応履いてはいるものの、つま先でたたずに、バレエシューズのようにしている人もいました。私はそういうのもアリだと思っています。発表会はチャレンジです。そして大人バレエの発表会で、パ・ド・ドゥをやる、ちゃんとポワントを履いて踊るのは一種の究極のぜいたくだな、と私は思います。ぜいたくとは誤解を招く言い方ですが、そこまで踊るためには膨大な時間と努力と情熱が必要なのがわかるからです。
パ・ド・ドゥをやるにあたり女性側は男性舞踊手に礼金は支払います。見返りに舞台上の数分間だが、その舞台と王子さまとライトは自分のものになる。群舞でやるのも、達成感と楽しい思い出は得られますが、男性と二人だけで組んで踊るというのは大人バレエとしては、究極な思い出作りだと思います。男性とのリードもしくは踊りの相性があえば素晴らしい思い出になります。
大人バレエのパ・ド・ドゥに関しては、最低限ポワントが履けないとダメとおっしゃる先生も多いかと思いますが、私がみたバレエシューズのパ・ド・ドゥでも、違和感ありませんでした。さすがに回転はシングルもしくはダブル(一、二回転)でしかなかったけれど、振り付けが大人バレエ向けに一部簡略化されてはいても、気になりませんでした。
何よりもパ・ド・ドゥを踊りたい、という熱意を感じられ、同じ大人バレエ生徒の私としては「いい環境でレッスンされているな、大人バレエでもパ・ド・ドゥを指導できる良い先生とご縁があったな」 と感じました。
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今度は私が初めてパ・ド・ドゥレッスンに参加させてもらった話をしてみましょう。大人バレエが隆盛になって心からよかったことと思うことに、(お金さえ払えば)ヴァリエーションもパ・ド・ドゥも好きなように受講可能なことがあります。そこはパ・ド・ドゥでもバレエシューズOKだったことで選びました。理由は私はいまだにポワントジプシーをしていて、短時間ならOKだが、長時間はくと足が痛くなる。巻き爪もある……だからいざとなればバレエシューズに履き替えてそのままレッスンを続けようと思ったのです。
ところが、踊ろうとすると男性の先生兼踊り手が「NO」 という。あなたポワント持ってるじゃないの、ポワント履きなさいとおっしゃる。いや、自信ない……体重があるし……ポワントはバーでしかしなかったのに、先生としては「さあこれからの段階で、なぜ君は、わざわざバレエシューズに履き替えてパ・ド・ドゥレッスンに臨むのか」 が、不可解だったようです。
バレエシューズでもどうぞ~と言った受付の人と先生の人の意見が違うなんて~……でも踊るのは先生なので先生のおっしゃることはわかる。説明の上OKもらいましたが、プロならば論外です。
そこからが大変だった。そこの大人バレエのパ・ド・ドゥレッスンは毎週必ず続けている人ばかり、大人バレエといえども、先生と顔見知りであり、踊りのクセを知られていることは大きい。先週の続きだったのですが、初回参加であった私は当然振り付けがわからない。一番最後にしてもらったのですが、覚えきれなくて棒立ち、すると先生も教えようがなく棒立ちという最悪の事態になりました。ここで私はパ・ド・ドゥは一人ではできない、振り付けを覚えないと超絶迷惑をかけると骨身にしみました。いや、気まずかったですよ。その先生は外国人なので余計です。懇切丁寧ではなく、流すようにされ、キミ、振り付けわかんないならそこでみてくださいね、で終わりました。振り付け、本当に覚えないとどんなに寛容なパ・ド・ドゥレッスンでも迷惑がかかりますよ。何よりも受講料がもったいない。先生にも失礼です。
私は簡単に手をそえて回転の練習、アラベスクをしながらまわしてくれるとだけ思っていてまさかガチでワンフレーズ通して踊らせられると思ってなかった。そこのお教室のリサーチ不足でもありました。そこは大人バレエで楽しく踊ろうねタイプであっても、振り付け覚えてね、ちゃんと覚えてこないとボク日本語わからないし相手しないよタイプのところだった……。私にはどだい無理な話で一度だけの受講で諦めました。
次は、ええ……すみません、性懲りもなく、本当にパ・ド・ドゥ初心者対象のバレエクラスを見つけてやってみました。よかった、ここなら初めてらしき人も結構いる。ここも遠方だけど通おう! そして私でも踊れるようになろう。舞台ではビジュアル的にもかなりの問題があり迷惑がかかるが、レッスンならばリフト以外、なんでもありだろう、がんばろう、と思いました。
ここでいうリフトという単語が出ましたが、文字通り踊りながら男性舞踊手に抱き上げられるものです。パ・ド・ドゥの華ですね。クライマックスの振り付けですが、女性側の体重が重いと相手に負担をかけます。五十キロそこそこの体重でもブタと言われる世界です。
プロなら息をあわせて踊れるので仮に五十キロ超でもリフトしてくれる男性に負担をかけずに踊れるらしい。それどころか男性側のリードがうまいと思わせてあげることができるらしい。大人バレエではそこまではなかなか。プロ同士でも少しの体重の変化でもリフトした際に「さっき、何か食べて(飲んで)きたな」 とわかるそうで、見た目ずっしり系の私はリフトは絶対に遠慮すべきでしょう。
で、次に行ったところの話に戻します。先生は男性で現役プロですので、最低限、自分がけがをしないようにというよりも、先生に怪我のないようにと生徒側が気を使う。これは初めての感情だった。申し訳ないというか、なんというか。私は小学生時代は下手で先生から相手にされてなかったので、余計にそう思いました。そんな私がパ・ド・ドゥやりたいって無謀もいいところでしょう。クラスに通うだけあって常連の皆さんはほっそりとしている。
私は「初めてです」 とあいさつしました。誰でも「初めて」 は、あるので、先生が優しいようにと心から願いました。そこでは最初からポワントは必ず履くようにとHPに書かれていますのでちゃんと履いて臨みました。
バー(壁に取り付けられた横棒を片手、もしくは両手でもってやるレッスンのこと) は普通にあり、センター(バーから離れてレッスン場中央に出てやるレッスンのこと) からパ・ド・ドゥレッスンになります。大人バレエ向けなのでもちろんリフトなし。先生の前にたってピルエット、シングル、できるならばダブルで、そのあと、アラベスクの状態で腰に手を添えてもらう。それからプロムナードといって一周させていただきハイポーズ。短いけれど、初心者にはそれでいい。しかし男性がつくと難易度が増す……ように感じました。でもポワントを履いていれば、腰に手を添えてもらえるので普通に回転できる。私の腰じゃ先生の気分はろくろ回しですが……少しでも気を抜くとポワントが抜けてしまう(足を下ろしてしまう)ので私の今後の重大な課題となりました。
プロレッスンの見学とは違うセリフが大人バレエでは飛び交う。というのは私のようにポワントを履きなれていない人もいるから。慣れている人と慣れていない人の差が歴然としてある。先生は大勢のパ・ド・ドゥ希望の軍団に、数人しかいないので汗だくです。
「そこっ、しっかり立つ」
「どっちへ行くの?」
「視線こっち」
「軸まっすぐ」
「ぼくの足を蹴らないで」
私も基礎がだめですので、さんざん言われました。特にアラベスクで腰に手を添えて回るときに軸がずれそうになり、思わず先生に寄りかかってしまいました。先生はさっと手をひかれ私から離れました。私はポワント状態が維持できず、かかとを落としてしまいました。プロなら罵声が飛び、役を下ろされてしまうシーンです。しかし大人バレエの私は怒られないかわりに丁寧な口調でお願いされる。
「ぼくに寄りかかるのだけは、やめてください」
大人バレエのパ・ド・ドゥはありえぬ事態が起こり、皆で爆笑、失笑が続く。楽しかったけど先生は毎度疲れるだろうな。そのかわりどんなダンサーとでもパ・ド・ドゥは踊れるだろうな。私は次回は体重を落としてから来ようと思いましたです。
パ・ド・ドゥ話はまだ続きます。次は技術関係話です。




