第87話・閑話休題・最初のプリエでポキッと音が鳴る現象について
大人バレエレッスンの開始直後、子供だけのバレエレッスンでは聞くことのない音があります。題名でもうおわかりかと思いますが……大人バレエでさあプリエ……と、ゆったりとした音楽とともに、どなたかのおひざから、ポキ……コキン……と音が聞こえるときがあります。バキンと結構大きな音も……そして皆で苦笑、照れ笑い、忍び笑いが続いて聞こえてくる……それが骨ポキ? 現象……。
骨もしくは関節が鳴る音と言われていますが、関節自体は音は鳴らない。骨も違う。靭帯でもない。そういうのがぶつかりあっても音は鳴らぬ。また私たち人間はコオロギではない。異性をおびき寄せるために鳴らしているわけではない。今回はその話。恒例の長ったらしい前書きからはじめます。
私が独身の頃に通っていたお教室は週末の夜でした。残業しないように、昼頃から仕事の段取りを計画して就業時間に終わるようにする。無事というか緊急事態がなければ大喜びでロッカーに走って着替えて自宅と反対側行の電車に乗ってお教室へGO。ババッと素早くレオタードに着替えをすませ、レッスン室に滑り込む。そしてバーをつかんで息を整えて優雅に背筋を伸ばしてプリエ……ああ、神様、今週もバレエレッスンの開始時間に間に合いました。しかし神様は、ちょっと意地悪です……普段デスクワークをしている人はすぐにわかるようになさるのね。バキン、ベキ、パシッという音を鳴らしめてほかの人にも聞こえるようにするなんて、ひどいではないでしょうか……。
先生はこういう時は決して聞こえるふりをしたり、笑ったりはされませんでしたね。駅構内のオフィスビルにあったレッスン場とはいえ、皆必死の思いで時間を作ってレッスンに来ているのをわかっておられたと思います。たまにこうしてバレエができる喜びを理解してくださったと思う。
さて、この音、なぜ鳴るのでしょうか?
一体何の音? コレは関節内の液体が鳴っているらしいです。
少し前に、音の原因が解明され話題になったのでご存知の方もいらっしゃるでしょう。私もおもしろいと思ったのでここで忘備録替りに書いておきます。つまり今回はウィキはじめ医者が解説しているサイトをバレエ向けに換骨奪胎しました。また私は医療従事者といえどもすみっコぐらし。整形外科分野の専門家ではないので、不適切な書き方があればご指摘ください。お願いします。
以上前置きおわり。
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このバキという音は前述のように骨ポキ、関節が鳴っているといわれていますが、正確にはクラック音と言います。骨が引っ張られて関節内に満たされている「滑液 が激しく泡立って鳴る現象」 であります。別名でキャビテーションといいます。コーラや炭酸水のボトルを振ってから開けるとシューッと音がしますがアレと同じ理屈です。
もう一度書きます。骨と骨をつなぎ、より複雑な動きができるように関節というものがあります。膝や肩、腕、骨と骨の間にそれぞれ骨をつなぐ役目をするものです。よりなめらかな動きができるように、関節内には滑液という液体が満たされています。
音はそこから出ます。普段使わぬ部分を折り曲げた拍子に音が鳴る。運動不足だとわかっちゃうけど、害はそのぐらい。つまり単なる生理的な現象だということです。この理屈はつい最近まで不明でMRIで実験してやっとわかったらしいです。単純な理屈ではありますが、まさか小さな関節腔内でコーラみたいな瞬間的泡立ち現象が起こっていたとは誰も思ってはいなかったということです。
◎バキバキという連続は何の音?
これも同じ理屈ですが背骨など連なっているところで鳴ります。いわゆる背骨の矯正といわれるモノでバキバキっとならす技術がある。「ズレてる」といわれるところをバキッ!「もどった」という話だが、正しい位置に戻ったのではなく、普段使わぬ方向に骨が引っ張られて関節腔内の滑液が泡立っているということです。背骨などつながっているそれぞれの骨と骨の間に小さいとはいえやはり滑液はあります。順番にキャビテーションを起こしてバキ、バキ、バキと鳴るというわけです。
このキャビテーション現象、これには長所、短所があります。
◎◎◎◎ まず、長所から
① 通常は動かさないところを動かすことによって、関節周囲の組織の癒着を解除する。泡立つことによって一時的に関節腔の内部が少しだが大きくなる。
② この時、関節のストレッチ効果により、感覚の受容器が興奮して強力な神経刺激を脳に伝えることになります。気持ちよく感じるわけです。一種の癒し、人によっては爽快感を味わうということです。
滑液はなぜ泡立つのか。再度しつこく書きますが普段動かすことのない骨と骨が引っ張られ、関節内の滑液が音をたてる。これはめちゃくちゃ子供向けに表現するとすれば、コーラやクリスマスのノンアルコールシャンパンでふたを開けたら「ポン」 という現象と同じです。アニメでは骸骨が笑顔でダンスをするときに、骨と骨をこすり合わせて音を出して踊るというのを見たことがありますが、実際は骨同志がぶつかって音を出しているのではない。つまり「骨同士が引っ張られてるんだから、ぶつかっているわけではない」ということです。もし接骨院やマッサージの人がこれは「骨の動いた音」 だよ、と説明したら不勉強です。
◎◎◎◎ 次に短所。
一度鳴ったところは、同じ個所で鳴りません。気化したガスが滑液中に融解されるのに二十分かかるからです。これは指や頚をポキッと鳴らした後しばらく鳴らない理由になります。このクラック音をキャビテーションを起こすと表現する人もいます。同じことです。クラック音自体は、「神経刺激のために一時的に痛みやコリを麻痺させる働き」 があります。ですが、長い目で見るとやめた方がいいらしいです。理由は以下のとおり。
1、軟骨が損傷する可能性があること
軟骨そのものには痛みを感じる神経はないが、滑液に気泡を発生させる際にできる衝撃波により、繰り返し期間が長いほど軟骨の表面を細かく侵食、破壊している可能性があります。しかし平成三十年現在では確定はされていません。
2、関節が不安定になる可能性があること
不必要にバキバキすることによって、関節を支えている靱帯や筋肉が必要以上にストレッチされ続け、関節の支えが弱くなる。よって弱くなった関節には、骨の増殖、変形(生体防衛反応)が起こる可能性が大きくあります。「指鳴らすと太くなる」というのはこの理由からきています。ただし私自身は下記の理由で、一部にはあてはまらないと思っています。理由はフラメンコダンサーの存在です。フラメンコの技術の一つに「ピトス」 という指鳴らしがあります。手足を動かす際にリズムを刻むようなときに、アクセントの一つとして使います。私は下手でこれがまったくできませんが、私の先生が連続してばちばちばちばちと鳴らしたまま、踊れる人でした。しかし腕や手の関節が細いままでしたので、人によるのかもしれません。ピトスはクラック音のことと同じはずですが、プロのダンサーでクラック音を幼少時から常習としていると関節も太くならぬということかもしれません。クラック音は最近になってやっと解明したものなので、これからも研究の余地があると思う。
3、神経のアンバランス
自らの運動によって鳴らす(クラッキング)関節の範囲は筋肉の位置によって限られています。ただしそれは通常は頻回に鳴らす必要はない。全く刺激されない時と刺激される時ので神経的なアンバランスを起こします。過度のバキバキは不要ではないかということです。
整体などで、クラック音が鳴った ⇒ 骨や関節が正常な位置になった。ストレッチできた、と思うのはちょっとずれていることになります。爽快感は確かにありますね。首などを無理にクラック音をさせられて後日問題になったケースもありますのでこの辺りは気を付けた方いいかと思います。
なお、無理なストレッチでピキという鋭い音がした場合は、クラック音ではありません。筋肉の断裂です。これは数日間、ひどい場合は数カ月痛みがでます。私は何度かやっちゃいました。治し方はその部分だけしばらく使わぬようにするしかありません。またクラック音とまったく違いますので、混同されぬように気を付けてください。
◎◎◎ まとめ ◎◎◎
クラック音は関節腔内の滑液がキャビテーションを起こすことによって聞こえます。音が鳴ることによって痛みを感じたりすることはありません。普段から使わない場所を使うとこうなる。つまり運動不足がほかの人にもわかってしまうということですね。ちなみにプロクラスではこの音は聞こえたことはありません。バレエは本当は毎日しないといけないってことですね。
ただし月に数度の大人バレエレッスンでも鳴りにくいようにすることはできます。それは早めにレッスン場に行って念入りなストレッチをすることです。私はそうしています。大人バレエのみなさん、いろいろと忙しいがバレエレッスン、お互いがんばりましょうね。
膝の痛みなど今回まったく別の話になるので書きませんでしたが、私は膝を痛めたこともあるのでまた別項で書こうかと思います。バレエとは違う話ですがここまで読んでいただきありがとうございました。




