第85話・あるプロ向けレッスン見学の思い出話
バレエレッスンがそんなに好きならば、◎◎の◎◎先生のところへ行ってごらんと言われたことがありました。場所は海外。高齢の先生ですし、人生はいつどうなるか誰にもわからない。私は十数万円かけて一人で実際に行ってみました。家族にはここまで来たらバレエ病という病気だよってあきれらました。いいわよ病気でも! バレエ好きだもん! だから治す気はないわ! ……私はお金稼ぐの下手だけど、どうか見逃してくれたまえ……旅費もホテル代もなるべく安くあげるよう努力する。
今回はその時のお話です。
そこも表向きは誰でも参加OKのオープンの形式をとっています。が、実際はプロフェッショナルクラスです。しかし生徒全員がプロではありませんでした。バーについただけで、プロ、アマの区別ぐらいはつく。お目当ての先生……会話に自信があれば「日本から来たんです~」 と自己紹介がてら話しかけるところですが恐れ多すぎる。その先生は男性で長年ソリストと指導をやっているという自信が顔に現れている。通訳つれて会話OKだったらいろいろと聞きまくりたいところです。だってプロを教えるプロですよ。その年齢までずーっとバレエの教えをやっていたら、いろいろと思うことがあるに違いない。
私もせっかくここまで来たならば、がんばろう~と参加しました。海外の方がバレエ人口が多く、体型や年齢層もばらばらなのは心強いところ。そういう方々は心底バレエが好きそう。
生徒のうち、プロは半分弱ぐらい。見覚えのある顔も。私はバーは下手ながらもついていけましたが、センターは複雑すぎてすぐにリタイア。口で振付をすませるタイプの先生で、お試しで踊るのもなしで音楽をつけて踊らせるタイプ。もちろんプロは先に立って踊る。アマはそれを見ながらついていく。プロすごい。全力でビシと踊りに行く。オープンだからと手を抜く人は誰もいない。一曲ごとに完璧目指して全力で踊る。皆真剣です。センターのアレグロから私は途中からついていくのをあきらめて後ろに控えて見学させてもらいました。
ここで特筆したいのは、私のようにプロのレッスン風景を見にきたという人が数人いたこと。私みたいな人、いるんだ。私も一緒に後ろに控えてガン見です。腕組みをしている人も。時折頷かれていて、バレエ批評家さんぽく見えます。
もちろんアマであるものの、プロと同じようにレッスンに参加されている人もいます。大人バレエでも危なげなくついていける人いますね。多分毎日レッスンしているのだろうなあ。海外は男性よりも女性が強いので、年配のアマの女性が前に出てきたプロの男性に向かってどきなさい、と言ったシーンにはのけぞるほど驚きました。遠慮しないってのは強い。アマの進路を邪魔したとはいえ、プロの人に「ごめんなさい」 って言わせるなんて日本じゃ考えられないです……。
またプロのレッスン見学ではなくバレエピアニストのやり方を見に来たのか、ピアニストの真後ろにたって見ている人もいました。そうそう、その先生はバレエピアニストにはダメ出しばかりしていました。最初の前奏で即「No」という。二度めも「No」。厳しいです。音が少ない、もっと早くなど。早口なうえに語学面で不備があって全部理解はしていないのですが、その選択した曲のどこが悪いかもちゃんと言っておられました。ピアニストは若い女性でしたが、真剣な顔で何度もチャレンジされていました。この先生の感性にあった曲を即興で弾けるようになったら、この人はどこのバレエ団でもバレエピアニストとして通用するのではないだろうか。
アマチュアに対しては基本注意なしでした。プロの人だけ、名前が呼ばれ衆人環視の中でポーズや短い振付をさせていました。基本重視は言わずもがなでしたが、ある人にはピルエットの前フリである四番のプリエを何度もやらせていました。
「No」
「No,No!」
プロで名が通った人でもこんなにしつこく直されるんだなとちょっとした感動でした。その先生に名前を覚えられたら一人前なのだろうとも思いました。
若手ダンサーには特に厳しく、お前がこの位置から飛ぶのだったら、ここまで飛ぶべきだと何度もやらせていました。目立つ容姿の若い男性に対して特に厳しかった。プロだろう身のこなしですが、いかにもダンスールノーブル、対王女向けの人。つまり見るからに王子様役。飛ぶ位置は高く余裕があるのに、なんというか迫力がない。ふわふわ系優しい王子様にぴったりな感じ。踊り自体は悪くないし立つだけでファンがつきそうな甘い容姿。先生はその人には何度もやり直しさせていました。お手本役を指名した別の男性プロに対しても「ほれ、お前はここからだ。こいつの前に手本を見せてやれ」 と飛ぶ位置指定です。ジャンプ前の踏切指定。踏み切る手の位置、手振りというのかそれも重力にかなり影響するらしい。プラス見た目にも美しくあらねばなりません。
こういうのはなかなか見れないです。プロ男性からプロ男性への指導は私には大変珍しいので、貴重な時間を共有させてもらい幸せでした。
プロ生徒の中に職場らしきバレエ団のシャツを着ている人がいたので、帰国後チェックしました。有り難いことにそのバレエ団はダンサーの動画をたくさんUPしていました。名前がフルネームでわかっちゃいました。
私は飽きれつつも「楽しんでおいで」 と言ってくれた家族と職場には、お菓子を買ってお土産にしました。ほんと、バレエだけで生きていられたらどんなにか幸せだろう……。
私は今、不定期ながらある先生のご厚意でバレエ団員のプロクラスに混ぜさせてもらっています。先生は基本プロには自由に踊らせているようでも、ピンポイントで短く簡潔に注意点を指示する。それを自分向けの注意でなくとも、ちゃんと聞いて直していくのがプロなのでしょう。毎日レッスンして当たり前のバレエ環境に恵まれた人々であっても完成をすることは永遠になく、毎日地道に研鑽を積み重ねておられます。それがプロなんだろうなあと思います。私のようなまるきりアマチュアでもプロクラスに混ぜてもらえるのは、プロは己の踊りを真摯に見つめ、下手もまた上手の手本であることを感じておられるからでしょう。
私は前にあるバレエ初心者に対して「ここは上手な人が来るクラスよ」 といって辞めさせた人とケンカした話を書きました。現在のところは私のようにアマが混じっていても嫌味を言ったり、邪魔にする人は一人もいません。とてもありがたく思います。
やはり他人に対して批判、しかもバレエ初心者に対し、バレエを辞めさせるほどのことをいうような人はバレエを愛しているのではなくバレエをやっている己を愛し他人を見下すことに快感を見出す変質者でしかないと思う。
国内外問わずプロとアマが共存できるクラスは双方とも素晴らしい時間をも共有しているものだと痛感した次第です。




