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第84話・ビリー・エリオットの感想

 先日、私は日本初演のミュージカル、ビリー・エリオットを見てきました。今回はその感想です。ネタバレが困る人は読まないでください。またあくまでも私見なのでご了承ください。敬称略もさせていただいています。


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 このミュージカルは映画の脚本が元になっています。ビリー・エリオット、主人公の名前がそのまま題名になっています。。ちなみに映画版の邦題が「リトルダンサー」 でした。封切られたのはずいぶん前の話で私は本作を映画館で見ました。原題と日本で放映される時用の邦題の語感の差はあります。題名から想起される映画のテーマがかけ離れてくる印象はどうしても否めませんね……。

 ストーリーはあるダンサーの子ども時代を描いたものです。バレエを習うきっかけを追うものなのですが、どちらかというと家族愛が中心テーマになっているように感じました。つまりお父さんやお兄さんと、バレエに夢中になる主人公ビリーの話ですね。お父さんは「男の子がバレエを習うなんて、ボクシングにしなさい」 と反対するわけです。ですが踊りたいというビリーの熱意にほだされ、応援します。映画には好きなバレエシーンはふんだんには出てこないが楽しかったです。それがミュージカルになるとあれば、映画以上にバレエシーンが出てくるでしょう。バレエメインのミュージカル自体今までなかったので楽しみでした。確かにミュージカル向きの話ではあります。

 同じ年のゲイの男の子、マイケルの存在も映画では大きかったので彼がミュージカルでどう扱われるかということにも興味がありました。しかしロンドンでもニューヨークでも大人気でチケットが取れないという状態。だから見たことはなかったです。それがとうとう我が日本に!

 わーい、ウェルカムウェルカムーーッという感じでした。チケットは良席ではなかったのですが、入手できただけでもよかったと思いました。


 舞台キャストは全員が日本人です。主人公のビリーを演じるのは私が見たのは加藤航世でした。私はダンサーさんの個人名は殿堂入り以外は意図的に書かないことにしています。が、今回は別です。理由はビリー役が五人いることです。つまりダブルキャスト、トリプルキャストどころかシンクキャストであること。かつ、それぞれのビリーによっては微妙にダンスの内容が変えられているらしいから。

 つまりそれぞれのビリーを演じていて、それぞれのビリーを見た観客にとって印象が違っている可能性があるからです。

 チラシやHPを見ると各ビリーに得意分野があります。私は知らなかったのですが加藤航世は五人のビリー役の中では一番バレエが得意だそうで、バレコン受賞者でもあるそうです。チケットが取れれば、私はどのビリーでもよかったのですが、バレエが一番得意なビリーに当たってよかったとも思いました。もちろん大変楽しみにしていました。


 どうしても映画の印象が出てしまうので先に映画の感想を。映画はバレエ映画というよりも父子映画にバレエ的味付けをしたというイメージを持っています。イングランド北部の不景気なそしてやや治安の悪い地域で育った少年のバレエストーリー。

 周囲は皆炭鉱労働者、愛煙家多し。主人公のビリーもいずれそうなるのだろうなというシーン多し。彼はボクシングをしていますがあるとき時間を間違えたか何かで女の子ばかりいるバレエレッスンに紛れ込んでしまいます。

 バレエの先生はウィルキンソンという女性です。先生は煙草をくわえながら「ほれ」 と言わんばかりにビリーの足元にバレエシューズを投げ捨てます。白のバレエシューズですね。先生はビリーには一切「バレエをやれ」 と強要しません。最初のレッスンでは、ビリーは女の子に交じってうろうろしているだけでした。レッスン終了後、先生が受講したからには、ここに金を入れろと無言でビンを振りかざすシーンがあります。このシーンは、ミュージカルでもありました。

 煙草をくわえたまま、不景気で不便な田舎でバレエを教える先生。髪もぼさぼさで身なりも構わない。投げやりな印象を与える女。バレエは好きでも嫌いでもない、小遣い稼ぎでやってますという感じ。教え方も熱心ではなく、勝手に踊っとけ、とほったらかしな印象。それでも少女たちは楽しそうに踊る。踊る楽しさだけは教えることはできる先生。

 ビリーはとまどいながら他の少女の踊りを見ながらマネをしていきます。事実バレエはマネをしながら覚えていくものなので、通っていくうちにビリーは上達します。その上達が尋常ではない。先生はビリーには優しい言葉は一切かけないのですが、見守っている。先生のレッスンも正規のといってはヘンですがワガノワ式などにのっとってないです。ひざを曲げたままのアラベスク、グランバットマン、生徒たちにはバレリーナを目指すというよりは、その場で踊らせてやるというやり方。

 私は個人的にはこのタイプの先生は苦手……。ウィルキンソンは煙草をふかしながら、ふてくされたように生徒を見つめる。もし私がそこに紛れ込んでしまってウィルキンソンに「あの~振付がわかりませんが」 とおずおずと言おうものなら、「ふんっテキトーでいいのよ、そんなもん」 と横を向いて煙を吐いていそうだ。まったく相手にしてもらえなさそうだ。声すらかけてもらえなさそうだ。

 映画でもミュージカルでも女の子の生徒同士が仲が良いので先生に構ってもらえなくとも勝手に踊っている。当のビリーはたまたま男の子だから、また他のバレエ教室を知らないのでふてくされたような教えをする先生でも成長したのだろう……。

 正式なバレエを正確に踊らせるよりも、楽しく踊れればそれで万事よし。あーワタシ、ウィルキンソン、ヘビースモーカーなのよ、プッカ~……ですよ。 ← 煙を円筒状に吐いていると「ト書き」 を入れそうですね。

 ビリーはそんなやる気なさそうなウィルキンソンに当たりました。それでも才能が芽生えてきて先生の態度も変わってくる。

 ミュージカルでは舞台構成が秀逸で、大人の事情をからませながら、ビリーのバレエが上達する様をモブシーンで見せていく。モブシーンの中央から舞台後方でぬけ、ビリーがアチチュードポーズを、ぐらぐらの状態からバシッと軸を決める。同時にウィルキンソンははっとしたように少しだけ後ずさりする。先生の態度が変わった瞬間です。この辺りはさすがミュージカル、わかりやすくっていいと思いました。

 そこからロイヤルバレエ団のプロダンサーを目指し、その夢をかなえる過程を映画でもミュージカルでも淡々と追っていきます。

 ビリーがバレエをやっているとわかった父と兄の驚愕も一つの山場です。彼らはビリーがボクシングをやっていると思っていたのです。バレエには一切縁がなく小さな少女がやるダンスの一種だと思い込んでいたのです。よりによって硬派のはずの我が息子がバレエに夢中になるとは、なんたることか! みっともない!

 そんなビリーの父親のバレエに対する軽蔑の感情を込めた表情、映画では大写しになる。このあたりは映画の方がいいかなー。

 ストーリー自体が映画とミュージカル、それぞれの良さを味わえる作品です。


 話は続く。熱意は人の感情を動かす。しかしビリーに本格的にバレエをやらせるためにはお金がかかります。父親や兄は炭鉱で労働者の権利を高めるストを続けていましたが、ストをやめて炭鉱に入る。賃金を得て、ビリーにバレエをさせるために。今まで仲良くスト活動をしてきた同僚から「裏切り者」 という罵声も甘んじて受けます。息子にバレエを続けさせるために。

 ラスト近いロイヤルバレエでの試験での踊りですが、映画では正式のバレエではないのに選抜する側を魅惑させます。この子は何か光るものをもっている、と。このあたりは監督の腕の見せ所です。映画のラストは大人になったビリーが舞台に出る直前のシーンをちらっと見せてジャンプさせておしまいです。ビリーエリオットの原作モデルは実在する二人の男性ダンサーの思い出を融合させたと聞いています。ラストに出てくる大人のビリーは当時ロイヤルにいたアダム・クーパーですね。あのラストがあってこそ、ビリーはバレエダンサーになりたいという思いがかなったことが観客にも伝わります。つまりハッピーエンドです。

 ちなみにこの映画の監督は本作が第一作だったそうで、ダンサーものにして成功を目指すという王道を行き、低予算で作った作品ながら億をいく共興収入を稼ぎ、いくつかの賞も受賞しています。


 私は読書でもなんでも映像から頭に入れていく性質です。本作では錆びれゆく炭鉱の町というのが、すごく効いていて茶色ぽいバレエ映画だな、こんなのがあるんだと強い印象を残しました。それがミュージカルでより力強く表現されるのです。しかも映画の上演時間よりもやや長い。チケット代が映画代よりも数倍高価であっても、生身の役者さんたちが目の前で踊ってくれます。よって私はこのミュージカルはすごいお得だと思いました。

 ミュージカルは映画とは違います。登場人物全員が歌って踊らないといけないので、歌詞も一から考えないといけないでしょう。バレエに反対するお父さんやお兄さん、おばあちゃんも先生も歌い、踊ります。映画にはビリーにおばあちゃんがいたっけ? という印象ですがミュージカルでは重要な役回りをしていました。もちろん、やる気のないバレエの先生、ウィルキンソンも。ビリーの友だちのマイケルも。

 映画ではマイケルはビリーに女よりも男が好きと告白してから誰にもいうな、なんていいますが、ミュージカルでは女装としたマイケルとビリーが歌って踊ります。幕が変わりマイケルの母親の洋服ダンスから洋服だけが大型化して踊ったりする。このあたりは映画にはないミュージカルならではの楽しさです。明るい色彩の洋服が飛び交って楽しいシーンでした。

 随所にどこにでもあるイスと煙草の煙を効果的に使って踊るシーンがあります。一幕の最初の方にイスを移動させながら、煙草の煙を吐きながら踊る労働者の静かなスローダンスがあって、前の方では主人公の家族たちが会話している。こんな踊り方もあるんだなと思いました。このシーン、最後の一人が姿を消すときは煙草の煙をふうっと吐くのです。私は煙草の煙が大嫌いですがミュージカルなら許せる。なんて素敵な姿の消し方だろうと思いました。

 また体型的にこの人は踊らないのだろうねという役者さんが縄跳びをしながらタップダンスをウィルキンソンと踊るシーンも楽しかった。意外性がある良いミュージカルですよ。日本でもロングラン行くと思います。

 圧巻はやはり主人公の踊りですね。一幕でバレエを禁じられ踊りたい、という気持ちを込めた怒りのダンスがあります。俗に「アングリーダンス」 と言われているようですが、タップダンスの手法を取り入れ、かつそこいらにあるものを放り投げていくことでビリーの心情をよく表している。やがてモブのダンサーたちがバックに控えビリーは道具を使ってその上に乗ったり転げまわったり。コレ、相当な体力が必要です。

 ビリー役すごいなーと何度も思いました。ビリーは例えばお父さんにバレエを見せるときにも舞台をソロで何周もしたあげくに、舞台前面向かって右端によって両手を上にあげて歌うのです。声が途切れないし息もあがってない。持久力すごいなあと驚いて見ていました。この舞台はバレコンでほんの一、二分ほど踊るのと訳が違う。観客の視線を一点に浴びてずっと飛び回って発声し魅了するのです。大変ですが主役のやりがいは半端なくあるでしょう。ビリーのオーデイションでは身長制限と声変わりしていないことが第一の条件らしいです。だからこそ、今。この今。「今」 、でしか見ることができないビリーが見れた! と感動しました。

 圧巻は子どものビリーと大人になったビリーの男同士のパ・ド・ドゥです。これもミュージカルならではのパ・ド・ドゥ。なんと曲名がチャイコフスキーの白鳥の湖です。ここでもイスが出てきます。しかもイスをまわしながらグランプリエ、アラベスクとバレエをする。これは大変素晴らしい。ここにいられて見ることができて本当によかったと思いました。

 その上、ビリーは空中をも舞います。背中の一点だけに安全ベルトはついていますが、それからあとは身体を水平にして踊る。これも相当体力を使うはずです。プロの男性ダンサーだって、こんなに続けてハードに踊ることはありえない。ビリー役が凄すぎる。過酷としかいいようのない振付の連続ですがよくやりきった。


 最後の踊りで私が見た加藤ビリーはフェッテを完璧に仕上げました。決めのポーズではコンマゼロ以下の秒で余裕をもって正確にかつ速く回転し、それから足四番にさっと落ち着く。ビシッ!

 おっ……やってくれた決めましたよーーーーっ。すごいっ! このビリーはもう世界中のどこのバレエ団でも踊れるわーーーーっ。

 私は心から尊敬するわーーーーっですよ!

 プレッシャーも相当にあるだろうに、よくもまあこんなハードなミュージカルを踊りあげたなあと思います。

 バレエに興味がない人もラストの美術と光の使い方がすごいのでおすすめです。終幕に父や兄を含む炭鉱動労者たちが旅立つビリーを見送るのですが、平面の舞台のはずなのに、地下の炭鉱に下りていくように見えるのです。頭には灯を載せています。それが歌って踊るビリーを効果的に照らして魅せる。コレ、頭部にのっけた灯がビリーに当たるように何度もチェックされているはずです。ミュージカルって凄いなあと改めて感動しました。

 五人もビリーがいるなら五人とも見たい、と思っていたらもうあっという間に終幕です。感動を有難うとお礼を申し上げます。本当に観に行ってよかったです。このミュージカルはバレエ好きでない人でも感動できるでしょうし、愛煙家なら煙の使い方を見に行くだけでもおもしろいでしょうし、炭鉱労働者ならばこの職業は、ミュージカルでは超レアでなおのことおすすめします。







 







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