第82話・バレエレッスン中に経験したドロボーの話
ドロボーは漢字で泥棒と書きます。語源は面白いことに諸説あります。その中で一番納得しやすいのが、他人の家の中を物色するときに、泥を塗って顔を覚えられないようにしていたという説です。昔は防犯カメラも指紋の認識もなかったですからねえ。棒は家の人に発見された時に逃げ出すスキを作るためでしょう。棒をもってその辺のモノをこわしたり、つかまえようとする人を殴るためですよ。それで泥棒。
今回はバレエエッセイですが、どこでもドロボーはいるという話です。バレエが好きなドロボーも存在します。バレエが好きなのにドロボーもできるのです。
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「これが欲しいのですか? ではさしあげます」 とも言われてないのに、持ち主がバレエレッスンに夢中になっているスキをついて、お金やモノを盗ったりできるのです。持ち主が嫌な気持ちになろうが、困ろうがしったことかってことですね。
結構大きなオープンクラスでも「貴重品はスタジオまでお持ちください」 「盗難は関知いたしません」 と注意書きが貼っていたりします。
……そう、どこでもドロボーはいます。どこもかしこも。
チャコットなどの大手のレッスン場ではちゃんと鍵付きのロッカーを貸してくれますが、それは珍しい方です。大半はそうはいかず、自己責任です。
私もドロボーされましたよ。海外のオープンクラスでの話。今でも腹がたちますよ。幸いお金ではなかったのですが、おろしたての、あるブランドの非売品タオルでした。たかがタオル、されどタオル。そのブランドのマークが好きな人は見逃さないだろうと思います。しかもしつこいようですが「非売品」 ですし!
勘違いでは? や、最初から持ってきてなかったのでは? などはナシですよ。
バーレッスンまでは確実にあった。私の流した汗がついています。他人の汗つきだと汚いはずですが、洗えばいいだろうと持って帰ったのだと思います。バーもセンターもおわり、レッスン自体が無事終了。ほっとしてタオルを使って汗を拭こうと思ったら、ない。
タオルは貴重品を入れた小さなバッグの上に広げていたので目立っていたのでしょう。そこもオープンクラスで、そこは利用者はバーの下に荷物を置いてはだめなところでした。レッスン場の奥の隅に一か所にかためておくやり方でした。
鏡はレッスン場の前面にあります。つまり鏡があるのでドロボーには心理的圧迫があり盗りにくいだろうという面もあってその場所になったのだと思います。
でも、バレエ好きの皆さんがご存知のように、踊っていれば貴重品どころか日頃の心配事や帰りの予定、夕食の献立など全部吹き飛びますよね? ドロボーもちゃんと、そのことを知っているのです。
バーからセンターに移るときに何人か帰っていった。ドロボーは、そのうちの一人ではないかと見ている。途中で帰った人はいずれも年配の男女。四五人ぐらい。みんな明らかに異邦人の私にもフレンドリーで「バイ」 と軽く手を振ったり、笑顔を作って帰っていったのでまさかと軽いショックを受けました。でも決定ではないからね。センターレッスンを最後まで一緒に踊った人も怪しいです。となればもうどうしようもないです。
海外なので会話面で不安があるので、平日の午前のベーシッククラス(基礎クラスのこと)を選びました。まったりとした雰囲気。私は先生にも「OK,それで、いいわよ!」 と言われて浮かれていました。
しかしあんななごやかな雰囲気でもその中の一人にドロボーがいた……。
ここは日本じゃないのだと気をひきしめました。あとで落とし物でしたと言ってくれる人がいたかも、と翌日も翌々日も受付で聞いたのですがそれもない。とっても残念です。
多分タオルぐらいならいいだろうと盗ったのでしょうが、他人のものであるにもかかわらず、自分のものにしてしまう人はいます。ドロボーして平気なのです。人の心を傷つけても平気な人がいますが、それと同じような範疇に入ると思います。
ちょっと話がそれますが、病的な人はクレプトマニアといいます。欲しくても欲しくなくてもひょいと盗る。友達や見知らぬ人のもの、お店でも。
実際に本人に聞いてみると本当に全く罪悪感がなかったです。にこにこ笑顔で「ついさわってそのままになっちゃうのねえ」 って言いきられたときは、それが病的だあと思いました。窃盗を繰り返す人は多いようですがこういう罪悪感が皆無の人を相手にする警察や刑務所の人も大変です。薬じゃ治せないからね。
私のタオル……病的な人ではなくそのブランドのがどうしても欲しくて発作的にとったならば、多少の罪の意識があるはずです。と思いますがどうでしょう。自分の部屋に飾っているのかなあ……戦利品として。
人の価値観や正義漢も多種多様です。倫理観がすべて皆と一緒ならば盗みや横領はこの世にはないはずです。つきつめれば戦争だって起こりません……そうはいかないものですよね。
要は海外だろうが日本だろうがドロボーには自衛しかないです。モノを盗られたらお金なら警察に被害届を出し、タオルなどのお品物ならば厄払いをしたと思って割り切るしかないですね。
バレエレッスンに通うみなさんは、バレエが好きで通っていると思いたいです。しかし。全世界津々浦々にドロボーはいます。
「ドロボーだってバレエが好き!」
もしくは
「バレエ好きだってドロボーがいる!」 のです。
私、一人旅が多いので持ち物はお金以外は服も下着もボロですててもよいものにしていますが、大好きなバレエ用品ぐらいは、良いものをと思ってもだめですね。
タオルを盗られて残念だったけど、それを上回る良いバレエレッスンの思い出を作ったので、もういいやと思ってます。でも皆さんも嫌な思いをしないようくれぐれも気をつけてください。
発表会前にチュチュを切られたり、バレーシューズを隠された人の話も知ってます。これはちょっと違う話になるのでまたの機会にね……これも犯罪ですけどね。とかく、いろんな話がこの世にあるわよね……。もし私と同じような被害者の人がいらしたら、それでもバレエ、がんばろうね。




