第76話・先生につま先を踏まれた
旅先での思い出話。とある先生目当てに行ったのですが、急なお休みで代行の先生でした。名前も顔も忘れてしまった先生……ですが、強烈な印象が残ったので今回はその話。
それはどうしてかというと、一人一人への注意がわりと厳しめでした。大人バレエでこれは大変めずらしい。しかも代行の先生なら正規? の先生にも遠慮というか常連の人にはモノがいいにくいのではないかと思うからです。
で、私への注意も来ました。この人はクチで言うだけではわからないだろうということで、ご自分の身体と私の身体を使っての注意あり。見せしめです。いや、見本というべきか……その先生は、ルルベで立つ私の前まで来られると……私のつま先をぎゅーと踏んだのです。
先生は私のつま先を踏みながら、周囲を見回し「ルルベは、つま先に均等に力を入れてしっかりと立つように」 とおっしゃいました。私は均等に力をいれているつもりでもバランスがとれなかったからでしょう。
私の方を向いて「もっとカカトをあげなさい!」 とおっしゃいました。
……おぅ……
カカトをあげると、ルルベが引きあがるのです。あげたつもりですが、指のバランスが親指よりになったか、先生は私に真向かいにたち、今度は両足のつま先を私のつま先にのせられました。先生と私のお腹がくっつきそうになりました。いや、私の方がお腹が出ていますので余計に面目ない……。
私のルルベが大層目にあまったらしく、レッスン終了後に「あなたはルルベの立ち方が甘いのですっ」 とわざわざいいにこられました。他の人には手の上げ方などもおっしゃってました。
そこは本当に大人レッスンです。楽しく身体を動かせればいいだろう、の生徒さんもいると思うのでわりと危険な(地雷な生徒は先生のレッスンの運び方にクレームをつけるらしい) 行為ですが、私にとっては大変有り難い貴重なアドバイスでした。基本の基本ですが、ありがたい。
旅先のバレエレッスンでしたが、忘れられないシーンです。大人バレエは個々の生徒の欠点を注意してくださる先生はそれほど貴重です。
また会いたいです。それにどんな踊りをされる先生だろうって思います。でもホント顔も名前も忘れた。卵型顔でシニョンで首が長くて、手足も長くてお腹がぺったんこ。探そうにもバレリーナはほぼ全員そうですし、レッスン中は先生のお顔をじろじろ見る時間なんてない。もう永遠にわからないままですね。なのでここに忘備録として書いておこう。
先生からご覧になれば、全く直ってないでしょうけど、できるだけ気をつけてます。
あの時はありがとうございます。




