第7話・ふりつけについて・前編
私にはいろいろな顔があります。
チビコの母親としての顔。
○○さんちのお嫁さんとしての顔。
パートのおばさんとしての顔。
そしてバレエレッスン生徒としての顔。
まあ人それぞれでいろんなシーンを演じ分け? というほどでもないが、人はいろいろな顔をもっています。その中で自分がいきいきとして過ごせるのは趣味に生きる顔でしょう。
今回はその話です。
ずうっとむかし大むかしの話で私がまだ中学生だった頃、ダンスの授業があって2人1組で3分間だけオリジナルのダンスをすることになりました。課題曲があって好きな曲で踊れません。その上、好きなコ、気の合うコどうしの組み合わせではなく、名簿順つまりあいうえお順でした。
私とペアになったコ…ふだんあんまり話さないコでしたが、私がバレエをしていたのは何となく知っていたらしく、ふりつけはまかせるからバレエぽく、でも私でも踊れて簡単でかっこいいヤツ考えてよ! と頼まれました。先生の意図は2人仲良く話しあってふりつけを完成していってほしかったのでしょうが、私たちのチームは違いました。
私はふりつけは初めてですが彼女はバレエがはじめてで踊ってみたい、だからバレエ風のふりつけにしてって頼まれました。
さあ私は大張りきりです。彼女にも足1番を覚えてもらってそっからタンジュ、軽くジャンプを入れたりりしました。彼女も喜んでついていってくれ、バレエ風のボールドブラもなんなく覚えてくれ、私たちペアは楽しく踊りました。
発表の時もみんな名簿順に踊ったのですが私たちの組にはたくさんの拍手をもらいました。はっきりいってダントツ1位だったのです。
それから次の課題が与えられました。
今度は先生は6人1組になって5分間で1曲踊りなさいと言い渡されました。今度もまた課題曲でかつ名簿順でした。先にペアになったコと一緒にもなりました。
そのコが「今回も◎◎さんに(私のこと)振り付けしてもらおーよ」と言いました。ほかのコもOKしてくれました。だけど今回は勝手が違いました。その場の雰囲気でOKはしたものの、私がその場をしきる、というのが気に入らないコがいたのです。
当然私は気を使いました。
私だけが振り付けしたらイヤなんだ、と思って他のコにもどういう踊りがいいかなーと聞いてアレンジしました。バレエに関心ないコや、ダンス自体踊るのが好きじゃないコは私任せでしたがバレエに関心ないし、ダンスも嫌いだけど、私のことがもっと嫌いで仕切られたくない、と例のコがそっぽを向きました。
仲間割れです。
私は人間関係の難しさを、身にしみて理解しました。使ってない理科教室とかをグループごと順番にとって昼休みや放課後に練習するのですが、そのコは練習に顔は出しても黒板のある壇上にあがってしらっとした顔をして踊る私たちを見るだけです。
「…△さん踊らないの 」
「みんなが意見をだしあって1曲作ろうって先生はいったのに、◎◎さんってズルイ、こんなのヘンだわ 」
みんなはだまりました。確かに正論ですがみんなはふりつけなんか面倒で私が嬉々としてやるのでこれ幸いというメンバーだったのです。私たちは言いました。
「だったら△さんもふりつけたら? やってみせてよ、」
当の△さん、私は今でも彼女の顔つきを覚えていますが、ほんと憎たらしい顔つきをして私をにらみつけます。
「ふんっ、私はね、バレエをしてるからってえばっている人の踊りなんか踊りたくないのっ 」
「私えばってなんかないよ? 」
「◎◎さんはそんな人じゃないよ、知ってるくせに 」
みんなは△さんが代表になりたかったのだとわかっていました。わりと目立ちたがり屋だったからです。普段私は教室にいるかいないかわからないくらい存在感のない生徒なのに、ダンスとなるとクラスのみんなはバレエをやっているというのでなんというか英雄扱いでした。(たまたまそのクラスでやってたの私1人だったのです)それが気に入らなかったのです。
結果。
ダンスは1人欠けた状態で、私たちは「できませんでした」 と先生に言わないといけませんでした。
「いいからちゃんと課題をしなさい、」 と言われました。
△さんは私のふりつけで踊るのはヘンだと先生に意見したらしく1人1人で振り付けしてそれをつなぎなさい、とまでたしなめられました。
私もふくめ、みんなやる気をなくして奇妙にヌケたへろへろの踊りをみせたような気がします。もちろん練習なしでぶっつけ本番でした。今思い出して書いてますけど、みんな休み時間を削ってまで練習してたのに私たちは△さんのせいで(みんなそう思っている) やる気をなくし、発表会当日にやっと集まって適当にしようとかで適当に踊りました。
みんなばらばらでした。特に最初私と2人でくんで踊った子はすごく残念がっていました。私も残念でした。
△さんのせいにするのは簡単ですが、みんなのチームワークもなかったし、私自身のリーダーシップもなかった。もとからばらけたチームだったといわれたらそうかもしれません。
だけど△さんは嫌われました。当然です。だけど先生は△さんを責めたり私を責めたりはしませんでした。△さんはこの件のせいではないですが、人のアラや批評ばかりして人が目立つのが大嫌いというこの性格はやはり人に憎まれます。なんとなくクラスから浮いていて、高校の時は他校の生徒と悪さをして停学になりました。
(私はクラスではダンスの時間では英雄? でしたがバレエ教室ではへたくそ扱いで先生に全然かわいがられませんでした。この差はものすごいものです。クラスのみんなはバレエが踊れるのってすごいねーといつでもいいましたがバレエの先生の冷たい仕打ちが身にしみていたので劣等感があってクラスメートにいばったりすることは決してありませんでした。読者さんには念のためこの点申し添えておきます)
続きます。