第68話・フェッテ、フェッテ、アイ・ラブ・フェッテ!
いきなりですが、娘チビコは学校の図書館で本をよく借りてきます。少し前に、チビコが怖いもの見たさで借りてきたホラー本の表紙の見返しに、大きな四コマ漫画がありました。なんとバレエ四コマ。すぐに返したので、その本の出版社名と作者名が不明ですみませんがお許しください。子供向きで大人が読むと全く怖くない、幽霊ピアノ弾き少女や減量道場で幽霊になった生徒の話がありました。簡単に書きますと、
1、今年もバレエ発表会の主役をあの子に取られた、くやしい! とにらむ女の子
(つまりそのコも主役級の踊りが踊れるというわけね)
2、女の子が主役の子をけがをさせて、主役を勝ち取る、やったー!
(つまりそこのバレエ教室では主役のコが降板したら代役はその悪いコしかないわけ)
3、得意になって主役になって踊るが、クライマックスらしきところで。
(ずるい手を使って舞台で得意満面な顔で踊れる神経がわからん)
4、ぐるぐるまわってばかりで、止まらなくなる、た、助けて~。
(つまり永遠にフェッテ踊るバツを受けたわけね)
そう。これは勧善懲悪四コマ漫画で、人をケガさせてまで主役を盗ったが、なにかのバチがあたって、永遠にフェッテを回り続けるというオチです。怖いどころか笑ってしまいました。私はこういう話も大好きです。作者さんの怖がらせてやるぞ! という意図とは反しているのですが、バレエ好きの私としてはいろいろと楽しく考えました。
四コマしかないので、もちろんバレエの先生は出てきません。しかし私の想像では、永遠にフェッテを踊り続ける悪いコに賛辞を送ったのではないかと……だっていつまでも回れるって、バチどころかバレエ史に確実に残る偉業ではないでしょうか。でも恐怖の表情で場内の観客も驚いたでしょうけれどね。
少なくとも元バレエ少女だった私がこの四コマを見たら思い切りフェッテをまわれるなんて素敵じゃないかと思いました。
フェッテは上手にまわれますと絶対に目がまわりませんし、身体も見ているほどには疲れません……しかも晴れの舞台の真ん中のクライマックス。スタンディングオベーション確実でしょうし、それ、とってもいいんじゃないですかっ!
ケガさせられて降板になった女の子はちくしょおっと余計に傷つくでしょうけれども……まあ、悪いコも実力に反して永遠にフェッテを踊って称賛を受けてもうれしくはなく逆に怖い思いをして反省をしたでしょうし、結果的にはめでたしなのではないかと。
恒例の前置きはこのぐらいにしておきますね。
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さてバレエレッスンでも先生によってはラストにフェッテをさせることもあります。そういうときでも私は身の程知らずながら参加することに意義はあると踊ります。しかしフェッテは本当に難しい。まわることはまわるのですが、へろへろです。一曲通して踊れないです。他のアマチュアでも回れる人は多いのですが、観賞バレエとしては、はっきりいって鑑賞になりえぬフェッテです。つまりバランスが取れていないということ。
まわってますね、すごいですね、とはいえますが。いや、回ることに意義があるので、それはそれでいいのです。自己鍛錬としてのバレエならば何でもありなので、本当によいことだと思います。自分でやってより美しく見えるフェッテを目指せばよいのですから。
しかしながら、自分がやって初めてプロの凄さがわかるのもフェッテ。
プロクラスを見ていて誰が主役級の踊りが踊れるかということも部屋の隅っこで見学させてもらってその優劣も一目瞭然でわかってしまうのがフェッテです。
先生は全面の鏡の前でフェッテを踊る人々を面前で見ますので鮮明にわかるでしょう。それぐらいフェッテはバレエダンサーとしての優劣がわかる。ある意味怖いものだともいえましょう。
本当に上手な人は後ろから見学していてもわかります。手と足と顔、すべてがワンセットになってリズミカルにまわっていきます。人の身体がコマ回しのコマのように一点だけを床に接着させてあとは身体を浮かせたように回るのです。足は必ず九十度以上、正面から見て必ず手はアラセゴンド、顔も正面。顔は目がまわらぬよう、身体にコンマ以下の数秒で遅れて回します。床との接着面はポワントのみ、男性ならば足の裏の前三分の一ほどの面積のみで踊る。主役を張るプロはその小さな面積、一点から全く動かさずに回る。時にダブルトリプルも入れて。これ、本当に難しいのです。膝のばねを効かすポイントが少しでもずれると汚いフェッテになります。やり方によっては乱暴に見え品位を損なうこともあるし、逆にフェッテをして燦然と主役ダンサーの価値ここにあり、とバレエ団の面目を保ちもします。
フェッテはプロの公演の場合は、皆が踊るわけではなく幕ものだと主役級のみだけが踊ります。最後のクライマックスシーンでぐるぐるまわるやつはカッコイイよね~と、フェッテが見たいがためにチケットを取る人もいるので、絶対に失敗するわけにはいきません。
とにかくフェッテという技術は、素晴らしい!
私は一体こんな荒業を世界最初に降りつけた人は誰だろうとおもうぐらいです。
私は観客としてもそうですが、踊る側のバレエケモノ道、万年初心者ルートに迷い込んでしまっています。……少しでも上手になれるように細々と柔軟をして、バレエレッスンでは隅っこでよろよろと酔っ払いですかと心配されるようなフェッテをしていますですよ。好き者こそ上手なれ、とことわざにもあるのに私に限っては全く上達しませんが、それでもフェッテを愛しています。




