第58話・チビコの兄の挑戦 ☆
与太話と思って読んでください。
私の家にはご存じチビコとそのお兄ちゃんがいます。
妊娠が分かった時からバレエが好きなコになるようにせっせと胎教したつもりですが、残念ながら効果はありませんでした。特に男の子。
でも自己流ですが踊るのが好きです。
うれしい時にやったあ、と文字通り小躍りしています。
ヤル気になったらバレエをするのではないかと思っていましたが某バレエの先生に「ボク、楽しいからバレエをやってみようよ」 とスカウトされても「ヤダ」 と首を振りました。
そんな彼が男の子専用のバレエ雑誌を見ています。それはずいぶんまえに私が購入したものです。バレエ雑誌クララの男子版。出たばかりの頃に店頭で見かけて迷わず買いました。
「ああ、男の子向けのバレエ雑誌が出たんだ。男の子でもバレエが好きな子はいるだろう。バレエ雑誌のクララを読みたい少年は多いだろう。しかしクララは表紙が女の子ばかりできっと買うとき恥ずかしいだろうし、こんなのができてよかった、私も見て見たいー」
というわけで買ったものです。(正直すぐ廃刊になるのではないかと思っていましたが平成二十八年現在も続いていますね)
男の子だけが踊れる振り付け関連の記事が満載です。バレエ教室でも男の子の生徒、もしくは大人バレエの男性版は極小人数ですので雑誌の存在自体が貴重です。バレエ男子に特化した雑誌があるのは日本だけの現象ではないだろうか。
それをチビコの兄が熱心に読んでいる。すかさず私は声をかけます。
「このポーズ、格好いいでしょ? 男の子がバレエをしたら海賊になれるわよ?」
チビコには王女様になれるわよ、ですが男の子の場合は王子様になれるわよ、という言葉より海賊になれるわよ、の方が印象もよかろう、という計算がとっさに働いたのです。
言うだけ言ったものの、どうせバレエはしないだろと思っていたら彼はなんと「お母さんが教えてくれるならバレエをしてもよい」 というではないか!
私は驚いて「ホント?」 と言いました。
多分先日劇団四季のコーラスラインを見せたのがよかったのかも。セリフがずらずら続いているところは寝ていたようですが活気ある音楽があるときはちゃんと見ていましたし。彼はヒラヒラなが超苦手な硬派? ですがまだ小学生だしイケルかも。私はがぜん張り切りました。
「やりましょうやりましょう、私でよければ教えてさしあげますとも!」
チビコはバレエをやっていたが今やめている。しかし時々は思い出したように踊っている。よし、チビコもついでに、というわけで「おうちバレエ」 がスタートしました。私が、我が子相手であっても先生という身分はおこがましいですが、生徒様が母親の私をご指名してくださっています。大人バレエの劣等生ですが「やりたいのにやれないよりは、やりたいからやっている」 方がいいと思っていますのでとりあえず教えてみましょう!
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チビコはさすがです。少しの期間バレエ教室に通っていたので、ポルドブラも覚えています。足一番の位置とか覚えてるかな? と聞いたら足一番二番四番五番、ちゃんとできました。お兄ちゃんはそれを見て真似しています。プリエは? と聞くとチビコは足一番からぴょこっと膝を曲げてドゥミプリエをしました。とたんにお兄ちゃんは「ぎゃはは、へーんなポーズ」 と笑いながらプリエをしました。「なによ、その笑い方は」 と怒りだすチビコ。真面目にやれという私。
お兄ちゃんは照れているわけでもなく、純粋にプリエがヘンだ、と思って笑っている。そういや、まったく初めてのレッスンに来た子がプリエが奇妙なポーズに思えて、ずっと肩を震わせて笑っていたコがいたっけな。と私の脳裏にいきなり数十年前の思い出がフラッシュバックしたりました。いやー我ながら忘れていた記憶がこんなささいなことで鮮やかに蘇るとは……。
しかしこれでチビコの気がそがれ兄妹のケンカが勃発しました。最初のバーレッスンはストレッチを除いてプリエ曲といってとてもゆったりした音楽なのですが、一曲目から頓挫。チビコは泣き出して中止になりました。
そして……もういいやとの言葉でやめになりました。
どうやらチビコの兄は毎日ストレッチして地道にレッスンを積み重ねないと回転や空中で跳んだりできないとわかったようです。当たり前じゃないかそんなのこと。最初からできるわけがない。地道な努力の積み重ねで踊るものではないか。バレエに限らず何でもそうじゃないか。
物心がつくまえからバレエをやらせておくか、自我が芽生えてから自分の意志でバレエを始めるかしないといけないと思いました。
でも男の子の場合は成人してからバレエを初めてプロになった人もいますからね……。
甘やかし親の見本みたいな話でお恥ずかしいですがこれも記録になるかと、書いてみましたです。




