第52話・小さい子供が踊るヴァリエーション ☆
今回はヴァリエーションレッスンを見学したときの話です。
演目内容はオーロラ姫です。オーロラ姫といえばお姫様の中のお姫様。ストーリーからいえば何もしてなくてもそこにいるだけで可愛がられるし美しいと憧れられるし尊敬されるし踊りはもちろん上手だし、高スペックの四人の王子様から求婚されるし、魔法にかけられて永遠の眠りについてしまっても、結婚相手として最高級のデジレ王子様がきてくれてキスしてもらえるし。ぱちっと目を開けさえしたら、婚活努力ゼロで結婚式でいろいろ個性的な方々が踊って祝ってくれます!
いいなあ、オーロラ姫、踊っているだけで皆に好かれて、寝ているだけでデジレ王子様が一目ぼれしてくれて魔法を溶かしてくれる。リラの精もどうしてそこまでオーロラ姫に良くしてあげるのでしょうか。オーロラ姫のご両親、王様王妃様に余程な恩義があるのでしょうか。
とかくオーロラ姫は努力皆無で何もしてないのに全部うまく行く。誠に幸せな人生で肉親のみならず人知を超えた存在から守られてばかりというのは、ある意味女性としては最強な生き方です。今の文章は羨ましさ半分、嫌味半分です。年取ると考えがこうなっちゃう、いけませんね。
見たのは一幕ソロです。そんなに難しくはないですが、ゆったりとした気分で美しいポーズを楽しめる踊りです。育ちの良い王女らしさが出る本当にかわいらしい振り付けの連続です。見学している分にはドンキのような派手なジャンプや小道具はないので、その分踊り手としての優劣の差が浮かび上がりますね。品の良さがこの踊りのキモになるので踊り手さんにとっては恐い踊りです。ちゃんと基礎ができてないと観るには耐えられない小汚い踊りになります。
その中で一人満面笑顔で本当にうれしそうに踊っている子供がいました。多分今日はオーロラ姫が踊れると思って朝からはりきってきたのでしょう。レオタードもかわいいし、レオタードの色にあわせてかわいい髪飾りもつけていました。おそらくこの子を送り出した親も「今日はオーロラ姫を踊れるよ、かわいいお姫様になれるのよ」 と言ったに違いありません。
それだけうれしそうに踊ってくれる子供が生徒にいたら先生だってうれしいでしょう。先生もやさしい言葉遣いで指導されます。オーロラ姫の場合はぎすぎすした雰囲気で怒りまくると生徒も委縮していい作品にしあがらないのでこの先生の態度で正解だと思いました。
「そうそう、その笑顔ね。それと足を投げ出すように放り出さないでゆっくりとあげて……おろすときはちゃんと五番に入れて四番通してそれからポーズしてね」
オーロラ姫の踊りを覚えている途中のまだ未完成オーロラ姫の団体(つまり生徒のことね) が先生のお手本を真剣な顔でみつめて真似をします。
もう振り付けを覚えているやや年長の女の子が先導役? として前で踊っていました。かなり上手な子なのですが、観客としては技術的に一番劣るその子供の方に視線がいってしまいます。それだけ子供の笑顔が輝いているのです。ポードブラも踊りこんでいないので乱暴に見えますがそれを補ってもなお、視線がその子に向く。うれしそうに踊っている子以外の子供は何をそんなに張り切って踊る? ともしかしたら思っていたかもしれません。いないとは思いますがもしいたらそういう感情を持ったとたん、永遠に主役を踊る資格はないでしょう。それは端役も持たないよこしまな感情なのですから。踊るときは踊るだけなのです。たとえレッスンといえどもオーロラ姫になったらオーロラ姫になって踊るだけなのです。
後ろで見学している親や大人バレエ生徒の視線を敏感に察知した先生が以下のことをおっしゃいました。
「小さい子供は表現がストレートです。高校生以上になるともう表現が小さくなる傾向にあります。みなさんとても綺麗ですよ。どうぞ最後まで楽しんで踊ってくださいね、あなたたちはお姫様なのですよ」
なかなか含蓄のあるお言葉ですよ、これ。
踊っているときはみんながお姫様!
いいですね、ヴァリエーション!




