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第50話・バレリーナAさんに聞きました・後編

 バレエの技術的な点でも質問しました。私個人としては大いに参考になりました。プロの一人としてバレエに対してこういうお考えなのだということを。結構つっこんだ質問をしたため時には言葉に詰まったり言葉を選びながら考えながら話をしてくださった。

 以下はアマチュアバレエファンから見た感想です。バレエ団監督や団員や他の批評家プロの見方とはニュアンスが全く違うと思いますこと、念のため申し添えておきます。


 ◎印がある行はAさんのコメントです。



 Aさんの場合。


◎ フェッテは何度しても目はまわりません。

◎ シェネは左側が目がまわってしまうこともあります。


 この人の回転は何度もみても安定感がある。鏡越しでじっと見ているとゆっくりでも早くても軸が一つなのだ。ピルエットもフェッテも素人がちょっとがんばればできないこともないが、やはりプロはなんというか安定感がある。しかも回転中のバッセの位置もアラセゴンドにした足も高い位置をキープしたまま、かつ軸足も動かないまま、というのは実は至難の業なのだ。プロでもダブル(ドゥーブル)入れて決めて派手に見せられる人もいるが派手と荒っぽさと紙一重だなと思うこともある。彼女の踊りは派手とは対極にあり、一見すごく地味に見えるので損をしているタイプではないか。だけど基礎がほんとにしっかりしているのでフェッテもわざとゆっくりしても全くぐらつかないし、逆に丁寧に踊っているとむしろ好感を持つ。私が彼女の踊りが好きなのはそういう理由。

 しかし何度やっても目がまわらないとは……プロはやはりすごい。シェネの左が苦手、は多分彼女のご愛嬌だ。右も左もシェネの高速さはすごい。足一番崩れたことがないのはこの目で見てる。Aさんに限らずシェネがきっちり一番で高速でできる人は例外なく他の回転技もうまい。基本人間は右ききが多いので右で回るときが左で回るときよりも高速というのはプロでもあるのだと思う。男性プロでも右回りなら何回転でもできるけど、左はここまでしか回れないとかいうのは普通にあるし。(ただし先生の指示、舞台の演目によってシェネは早ければいいものではないこと、強調しておきます)




◎ 縁起やジンクスはあまり持ってない。公演前に特別にこれをします、というのはない。


 舞台人には縁起を担ぐ人、お守りを持っている人が多いらしいので聞いてみたがあまり興味なさそうだった。ジンクスは他人に言うと逃げる崩れるとはいうが、特に隠している様子もないし。多分心情的にいつでも余裕がある人なんだろう。私なんか五分間の出番しかない発表会ですらどうぞ失敗しませんようにと当日朝は神棚に向かって真剣に祈っていたけどね。






◎ 傾斜床は慣れでやっていける


 海外の舞台ではよくある傾斜床。どんなものだろうか、と思うが慣れの問題らしい。ローザンヌに出た時が初めての傾斜床だったらしいが、それもそんなに違和感がなかったらしい。すごいなー。



◎ 柔軟は毎日必ずする


 これは当たり前だね。



◎ 生理があっても普通に踊る

 

 これも当たり前。幸い彼女は疼痛があったとしても重い方ではない、こればかりは体質というものがあるからラッキーな人だと思う。




◎ 公演時、主役の代役は必ずつけてくれる。だけど公演直前に踊るか踊らないか迷ったことはないし、そういう羽目に陥ったことはない。


 Aさんには運があるんだ。健康運も何でも。体調の自己管理はプロとしての自己責任だろう。



◎ 足に違和感があったらレッスンは大事をとって休む


 膝に水が入ったことがあるそうです。足は大事だな。この質問からバレリーナの待遇の話になった。



◎ 海外の方がバレリーナとしての待遇は良い


 チケットノルマなし、ポワント代全額支給というのは大きい。日本はチケットノルマは普通にあるし、ポワント代は半額支給、もしくはポワント基金(有志や篤志家の寄付)から出る、それ以外小さいところは全額自己負担だ。お給料はAさんの場合、週決めだがトータルで見て一人で十分やっていける金額が出る。加えて舞台監督などの横のつながりで国境を越えてのオファーがあったりする。海外で何か国もまたがって活躍するバレリーナが多い理由がわかったような気がした。そういう意味では日本は狭い。




◎ ただし各種保険はついてません。


 これは意外だった。大きなバレエ団だとあるとは思いますが、とは彼女の弁。そういうならAさんのところだってホームページも立派。なのにケガや病気のための保険、雇用保険とかはなし。ボーナスもなしだという……かわいそうに。この点に限ってはブラック企業でした。(それでも各種待遇や地位は日本よりもマシなのだろうね)




◎ 団員同士の陰湿ないじめや確執、陰謀は現時点ではなかった、あったとしても私は感じなかった。


 Aさんの人徳だと思う。近年でもロシアのバレエ団の偉い人がバレリーナの人事でもめて恨みを買い、薬品を顔にかけられ大怪我をされた。近場でもどうしてあの人にあんないい役がつくわけ? という話が単なるアマチュアの私にも聞こえてくることがあったしましてや海外だと遠慮なしにモノをいう人が多いだろうに。

 私はあけすけに常勤でもない単なるシーズン契約者にすぎないしかも遠い国の東洋人、日本人の貴女が主役を踊ることについて本当に何も言われたりはなかったのか、監督の権限がとても強いところなのかと重ねて聞くとAさんはこう言った。




◎ もし仮に言われていたとしても私の耳に入りませんでしたし気づきませんでした。

 

 これは周囲から彼女の実力が認められていることの現れだろう。そして彼女はいつでも謙虚だ。加えてこういう思考の人はどこへ行っても人間関係のトラブルを起こしにくい。実際ご一緒させてもらうレッスンでもAさんはいつも控えめで先生からお呼びがかからない限り、隅っこで踊っているし。パッと見では目立たないけど、上手なのは見たらわかるのでそんなに上手なのにど真ん中で踊ってごらんよといいたくなるからではないか。バレエ団の偉い人にインタヴューもしたくなったけどね。


 インタヴュー中からAさんの言動からうかがえたのは「バレエが好き」 ということ。


◎ 私はバレエしかできません。


 そんなことをおっしゃる。私のようにあちこちの世界に首をつっこんだけどどれも大成せず……よりはいいのではないか。バレリーナに限らず芸術家は学歴は本当に関係ないからね。実力と運がやはりAさんにもあったと思う。




 春になるとAさんはまた海外で踊られる。応援しています。Aさんにはお話を聞かせてくださってたことに感謝いたします。インタヴューでは引退後の過ごし方まで聞かれてかわいそうに……後で気を悪くされなかったかなと心配になったがまたレッスンで会えますこと楽しみにしています。


 それでは ♡









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