第46話・大人バレエへの根深い蔑視
バレエの先生全員がそういう人だとは思っていません。念のため。
第44話のバレエの先生のタイプその1、の先生と議論したので今回はその話。
前シリーズでも書きましたがもう何年も前、私とほかの生徒さんとでヴァリエーションを習いたいとお願いに伺った時がありました。その先生の回答は私は子供にしかヴァリエーションを教えない、大人には教えない、基礎が大事ですからという言い方をされてそれがずっと心に引っかかっていました。
先日その先生と2人だけになる機会があり、積年の疑問をぶつけてみました。しかし結果から言うと平行線でこれは新たな発見でした。それでこのエッセイに忘備録を兼ねてここに記そうと思います。
先生の考え方がおかしいとかバレエの先生なのに大人バレエの偏見がひどいとか、先生を責める話ではありません。逆に私の方こそ生徒の立場のくせに身の程知らずに先生にそういう要望をしたということで責められる立場でしょう。私はその先生からもっと応用のきいたレッスンをしてほしい、長じてヴァリエーションを習いたかったのですが話をしてみてすっぱりあきらめがつきました。
しかしながら大人バレエの分際でヴァリエーションを踊りたい、センターで一部分でいいので取り入れてほしいと願うことはそんなに不遜でおこがましくて厚かましいのでしょうか……いえいえいえいえ、さっきの言葉は私がそう受け止めたのです。実際には言われてはいませんが、ヴァリエーションを大人が踊るなんてそんなーという感覚をお持ちの方なのかな、事実その先生は大人クラスには上手なひとでも発表会では誰一人ソロで踊らせたりはしないし……。
でも世間ではバレリーナの道でもしょっちゅう大人バレエにもページを割いているしクロワゼだって大人バレエ向きのバレエ雑誌ですし、オープンクラスだってヴァリエーションクラスができているではないか、なぜ基礎しかしてくださらないのだろう?
以下が当の先生の回答です。
① 習いたい気持ち、上手になりたい気持ちはよく理解できる。だけど基礎ができてないとヴァリエーションをいくらしても無理。基礎の積み重ねでヴァリエーションが成り立つと思っている。だから私を信じてついてきてほしい。
② 私を信じてついてきてほしい、というのはそのままバーレッスンメインのレッスンについてきて、ということです。基礎なのでフルメニューではないけど、大事なことだと思っています。あなたは基礎が甘いままここまで来てしまった。このままではもったいない。だから基礎をもっともっとレッスンしてほしい。
③ あなたは子供ではないし、これからも年をとる。私は子供の時からずっと踊ってきたが私だって年をとってきてスタミナが切れやすくなっているのを実感できる。ヴァリエーションは体力が必要。だんだん体力が落ちていくし、バレエレッスンに集中してやっていったほうがよいのではないか。
要はこの先生は大人バレエはどうやってもヴァリエーションを教えたくないんです。普通のレッスンだけではいいんじゃないの? それで満足してほしいわ……ですね。
この先生のいう普通のレッスンは2時間のレッスンの中、バーは4曲から5曲、センターは2曲でおしまいです。その貴重なセンターだってアサンブレ、アサンブレ、グリサードアサンブレ、ハイポーズという感じでほんとーに基礎の基礎。そして生徒が踊る1曲の前後の先生の説明が長く、しかもバレエに関係ない世間話付き。これも大事だと思って受講していましたけど、はっきりいっておもしろくない。汗も全くかかない。ワルツもたまにしかしない。もう少しでいいので長いのをしてほしい。先生のレッスン中の世間話も楽しいのですが、はっきりいってジャマ。世間話はなしでレッスンにもっと身を入れて教えてほしい。私は先生の世間話を聞きにきているわけではないのです。バレエに関係ない世間話を嫌がっている人も私も含めていて私たちは先生よりも年上なので「さあレッスンに戻りましょう」 とか言って生徒のくせに先導もしたりするのですが、直りません。ここに先生が無意識に出している大人バレエへの蔑視が感じられます。このクラスの生徒たちにはこのぐらいでいいわ、という……。
しかしながら話をしてここまで言われるとは思いませんでした。私は顔には出さなかったのですが残念でした。先生の未成年の生徒さんには(特に先生の娘さんには) ヴァリエーションクラスでぴしばしやってます。小学校高学年から高校生まで限定で。
ぐらぐらでこの子にこれを躍らせるの? と明らかに実力不足な子でも年若いから体力もあるし伸びるだろうし大丈夫だろうとでも思うのでしょう。また発表会で失敗してもこの若い子が踊るからこそ多少の失敗が許されるのでしょう。
だが大人バレエでヴァリエーションを普段のレッスンでも教えるのに根気がいるし見た目が悪いからちょっとねえ、というお考えではないでしょうか。私は何も舞台でソロで出してよ、と言ったわけではありません。少しずつ、もしくはアレンジしたものでいいのでセンターレッスンの時間をもっと長くしてほしい。できるならばヴァリエーションを教えてくださいと言ったことがそんなに不遜なことなのでしょうか。
大人バレエのレッスンはするけど、センターの時間はもうほとんどないし実はそれが不満足でやめていった人もいるのを知っている。だけどその先生はそういうことには頓着しないようだ。どうしてそんなことを言い出すのだろうと思っているようだ。
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さて皆さん、私は聖人君子ではありません。
私は日がたつにつれて先生がおっしゃられたことに段々腹が立ってきました。
段々年をとっていくからこそ、悔いのないように踊りたいのに今更何を私を信じてついてきてと言えるのか、基礎ができてない人には教えられないってそれでは年少の生徒に対してはまた別の話ではないか。それと年のせいにもしたし、とにかくこの人はどうあっても大人バレエに長いセンターやヴァリエーションは教える気がないのです。忙しい中時間をやりくりしてレッスンに参加しているのに、いつでもバレエに関係なしの世間話ばかり。私達は先生には逆らえませんので仕方なしに先生のお子さんの受験話や近所の人の葬式話などにつきあいました。でもこれはやはり「大人バレエへの偏見」 をもっておられたということではないか。
確かに私を含めて大人バレエではいつまでたっても上手にはならない。容貌の老化、中年熟年の崩れた体型、ずばり見てくれも悪い。楽しく踊ればいいわよね、のスタンスでやっていて実際に楽しく「基礎」 だけバー付きで躍らせてはもらっているが、センターレッスンがほとんどないことでバーだけではつまんないってやめた人もいるのに、何故大人バレエの人の気持ちがわからないのだろう。
バーにつかまるだけではなく、のびのびと踊ったりピルエットダブルやフェッテだって挑戦してみたい。それがなぜ基礎の基礎からしないと、とか今更言うのだろう。この先生はあくまでも大人バレエには込み入ったセンターやヴァリエーションを教えたくないんだ……。
先生は口に出してはいないけど、大人バレエへに対して見下し、を感じます。大人バレエだからこのぐらいの教えでいいんじゃない? そんなこといいから私の世間話を聞いてよ、みたいな……。
私は長年レッスンだけのつきあいをしてていましたけど、そこまでの考えをお持ちの方だとは思いませんでした。通いやすい時間帯ということで教えを受けていましたが、この際すっぱりやめようと思っています。
先生の考え方をおかしいとかいうつもりは全くありません。私は人様の本音を引き出すのは職務でもしています。事実正直に思うことを教えていただいたと思っています。
ということで……ババアリーナという固有名詞の他にバレエジプシーという言葉が私につきました。果たして私の師匠になってくださる御方は何処に……ということです。まあこれも縁のことですし、やはりオープンクラスが一番私には性にあっているということでしょうか。
もちろん私はその先生とは喧嘩別れしてはいませんし、にこやかな笑顔でその場を辞しました。私やほかの生徒たちの思いはその先生は一生理解できないだろうと思っているのでこれ以上の議論は必要ない、そういうことです。
バレエ一筋でこの道を走ってこられたのはご立派なことです。だが大人バレエの生徒たちがもっと踊りたい、身体を動かしたいという気持ちが理解できないというのはやはりおかしいと思う。
大人バレエの生徒たちが次々と去っていくのも仕方がありません。
私もその先生の教えは基礎重視でそれなりに役立ちましたしそれには恩義を感じてはいますが、先生の大人バレエに対する蔑視がこんなに根深いとは思いませんでした。とても残念です。