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第42話・眠りの森の美女に出てくるカラボス=マレフィセントについて

映画「マレフィセント」のネタバレ注意です。

 先日私は映画館でマレフィセントを見に行ってきました。原題はペロー童話の眠りの森の美女です。バレエではカラボスにあたる役がこの映画ではマレフィセントになっています。(もちろんどちらの名前も間違いではありません) 映画を見た人はわかっていただけると思いますが、本来主人公なはずのオーロラ姫の存在は二の次、話のついでという扱い。デジレ王子はそれ以下の扱いでした。王子が魔法で永遠の眠りについたオーロラ姫を目覚めさせるための愛のキスをしても、目覚めさせることができず役立たず扱いで部屋の外にぽいっと捨てられる始末。かわいそうでした。オーロラ姫に真実の愛のキスをするのはマレフィセントです。この映画は題名からしてやはりマレフィセントメインでした。


 原作に出てくる登場人物を主人公にせず、脇役や悪役視点からストーリーを語る手法はすでにおなじみのものです。脚本、演じる役者さん、美術背景などで全く違うストーリーになりそれはそれでおもしろい。今回は主演が世界一美しい女優と言われるアンジェリーナさん。彼女のための映画といっても差支えないほどのアップがこれでもかというほど出てきます。見た目もよいし、ストーリーもここまでかっちりマレフィセント上等にしているなら観客も文句はないでしょう。

 マレフィセントはごく普通のカラスを人やドラゴンに変身させしかも人間的な常識的な知能は持ち合わせさせて意見もはっきり言わせるという超人的な魔法も使えます。こういう魔法、私も使いたいですね。しかしその割には自分がかけたはずの魔法が解けず苦労したり、オーロラ姫を養育する役目をもった三人の魔女たちに幼稚ないたずらをしかけたり、魔法の魔力の使い方がアンバランスだなという性格も持っています。この矛盾した行動や志向もまた彼女の魅力になるのでしょう。

 魔法の世界の様子が映画で再現され美術もよくとても楽しい二時間弱でした。わざわざ観に行ってよかったと思います。


 さてバレエ作品としての眠りの森の美女の話をします。バレエ作品ではマレフィセントはカラボスという名前になります。もちろん彼女は主人公ではありません。主人公は純粋無垢なオーロラ姫であとは全員引き立て役です。舞台はオーロラ姫の命名式から始まります。国王夫妻に招待された妖精たちは通常六名、パドシスですね。名前はリラの精、やさしさの精、のんきの精、おうようの精、元気の精、勇気の精。これにプラスして美しさの精を入れるところもあります。これらは日本語名であって、英語圏では違う名前です。パン屑の精とかね……変わった名前ですね。リラの精だけは一応知性をつかさどっていますものの、知性の精などという呼び名ではなく、花の妖精、妖精たちのボスという役どころ。ですのでバレエではオーロラ姫は主役で、リラの精は準主役といった役どころです。振り付けの見どころが多いのはダントツにオーロラ姫で、出番が多いのがリラの精といった感じかな。

 命名式に呼ばれたパドシスの妖精たちはそれぞれの名前に見合った性格をオーロラ姫にプレゼントします。つまりやさしさの精は「やさしさ」 を。という具合です。妖精たちのボスにあたるリラの精が指揮? をして六人の妖精がそれぞれの性格にあわせた振り付けで短いソロを踊ってオーロラ姫にプレゼントするシーンです。この命名式は一幕の楽しい見せ場でもあります。やさしき、のんき、おうよう、元気、勇気。オーロラ姫はこれらの性格を与えられました。まだ妖精のボス格のリラの精が残っています。 そこへ招待されずに怒り狂った邪悪な精、カラボス登場! なごやかな舞台は暗転します。カラボスの登場シーンはストーリーの緩急付けという意味合いでもとても重要です。カラボスは蜘蛛やネズミを操る悪い魔法使いで、オーロラ姫の命名式に呼ばれなかったという理由で嫌がらせに登場します。なので登場直後に命名式の招待状を送る係だった式典長カタルビュットの髪の毛をむしって丸坊主にしたりします。そして無垢な王女に向き直り年頃になったら糸まきの針でケガして死ぬという魔法をかけます。

 嘆き悲しむ国王夫妻と貴族たち。だがリラの精は「安心してください、まだ私の魔法が残っています。オーロラ姫は糸まきの針に刺されてしまいますが死ぬのではなくただ眠ってしまうだけなのです。そして真実の愛を捧げる王子様がキスをすると目覚めます」 と宣言する。

 リラの精はカラボスの魔法を完全には解けず薄めることはできるらしい。カラボスのいう針に刺されて死ぬ呪いよりも、眠り続けるが愛のキスでめざめさせるという魔法の方が魔法としては難しく上等そうにみえますがどうも違うようです。

 その上、どうやら妖精たちは一人につき一つの魔法しか使えないらしいです。カラボスもそうです。本当に怒っているなら一気に殺すか、オーロラ姫の性格が極悪なオンナになるよう卑怯の精、盗癖の精、嘆きの精、いじめの精とか悪い仲間をぞろぞろ引き連れて「さあ順番に魔法をかけといで」 って命令すると思います。私が眠り森の美女のパロバレエを振り付けるとしたらそうします。だけどクラシックバレエは古典かつお上品なのでそこまではしないのです。だって大昔は国王自身が踊っていたバレエですから。本当にお上品で貴族的なのです。


 しかし寝ているところに真実の愛のキスで目覚める……この類の魔法は心理学上では「女性の一番美しい時期に永遠に眠るということ」 &「眠りからキスを合図に目覚めること」 はどういう意味あいをもたらすかと考えさせられる名作童話の真骨頂です。童話や昔話から登場人物の心理をやさしく解く本はたくさんあるのでそこから入っていけば役の解釈や心理学の入門になると思います。

 もう一つ特徴的なものでは母親の存在の薄さがあげられます。映画版でも母親はオーロラをただ産んだだけです。オーロラとの母娘の交流は皆無で母親にとっては敵であるマレフィセントが全部おいしいところを持っていきます。またオーロラも三人の妖精やマレフィセントの見守りはあっても「母親への憧憬」 を教えられていませんので母恋しの感情を持っていません。これは大昔身分ある人は子供を産んでも子育てはしない、という習慣の流れからきているのだと思います。総じてヨーロッパに伝えられている昔話は日本独自のものと比べては親子間の情が薄いような感覚を持っています。映画版ではもっとひどく母親は踏んだり蹴ったりのメにあいます。死にそうなのに王様の見舞いもありません。とてもかわいそうです。


 バレエの振り付け自体はもう名作というかこの踊りがなくては眠りの森の美女にならないという振り付けがちりばめられていてこれぞ古典バレエという感じですね。白鳥の湖やくるみ割り人形と並んで三大バレエ、御三家と言われるのも当然だと思います。











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