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第37話・チビコの進退・前編 ☆

 話が多少前後しています。


 さてチビコは一生懸命バレエレッスンに通いました。そしてとうとう発表会に出ない? と聞かれるまでになりました。上手になったからではありません。人数合わせですね、はっきりいって。

 だけどチビコは先生にそう言われて舞い上がって喜びました。演目は二つです。先生創作の小作品とクラシックではないけどストーリ性のある二幕ものです。

 彼女はお腹ぽっこりの幼児体型の時代が長かったのですが小学生になって幼女から少女になりました。しかも私の子供時代と比べて手足長いしこれはいいぞーと思いました。(親の欲目をお許しください)

 

 発表会に備えて、ですがまずは通常のレッスンから始まります。振り付けはそのあとです。私は振り付けの様子を見るのを楽しみにしていたのですが、かわいい三歳児たちは全員振り付けがまったく覚えられず、あきると親の方に行ったり遊びだしたりかんしゃくを起こして床に寝そべったりします。とってもかわいいです。しかしこうなるとレッスン自体もお遊戯的な脱線が多くすすんでいないなと思いました。また先生には悪いですが振り付け以前の問題で「これでは上手になれない」 と思っていました。

 レッスンもどきのレッスンにも全く集中できないかわいい孫のために今までバレエを踊る機会がなかった付き添い専門のはずのおばあちゃんが孫の隣にたってバレエを踊ります。こうやって踊るのよ~とおばあちゃんの奮闘にもかかわらずレッスンや振り付けを覚える意志が全く見えない小さい子供たちがぼけーとして突っ立っています。先生の声もだんだんと枯れてきます。

 先生もあせってきて、「小さい生徒さんが親やおばあちゃんがいると集中できないから」 ということでとうとう親の立ち入り禁止令が出ました。そういうわけで三歳児の生徒と振り付けを合わせるときは見学不可になりました。残念でしたが仕方ありません。(もう一つの小中学生と一緒に踊る時は三歳児はいなかったので見学OKでゆっくり見させてもらいました。今回の発表会でポワント初めてという子もいてその成長ぶりを見学できたという意味では私にとっても楽しい時間でもありました。)

 だがそれもなし崩し的になり2ヶ月後には最後のほうは皆でコーダを踊らないといけないし、見学可になりました。そのころには先生の努力が実って、3歳児達もなんとか踊れるようにはなっていました。

 同じ3歳児でも生まれ月による差はあり、早生まれの子はちょっと小さくて覚えるのもやっとという状態です。先生も観客も3歳児には完璧はもとめませんので多少間違ってもご愛敬。とてもかわいい踊りです。覚えがはやくてすばしっこい? 子がいてこの子がどうも他の幼い子たちをひっぱっていっている状態です。こんな小さくてもやっぱりリーダーみたいな感じになる子っているんだなあって思いました。3歳児にしては大柄? な女の子はいつも仁王立ちになっています。大物になりそうですがバレエの場合いくらかわいくとも仁王立ちはまずいでしょう。しかもその子はどういうポーズでも無表情、あんまりにっこりしてくれないので、「もっと笑って~笑うともっとかわいく見えるの~◎◎ちゃんは笑うともっとじょうずに見えるの~」って先生のお願いぶりが後ろの母親たちの涙を(少しだけ)誘います。

 大丈夫だろうか、と不安になっても発表会についてはどういう大丈夫だろうか、という不安でも「何とかなる」 のが発表会です。ほんと経験者は語れます。3歳児クラスが混じっても大丈夫な良い発表会でした。最終的にこの子たちは振り付けは覚えられませんでした。でもそれでもいいのです。初舞台生のはずのチビコですら、2,3か所3歳児たちを誘導して先にすすむシーンもありましたし、難しいところは小学生たちのお姉さんたちがところどころにあっち、などバレエ的なしぐさで手をひいてやさしく誘導してくれます。というわけで結論から先にいうとこの舞台は何とかなりました。


 さてお次は小中学生のみの小作品、先生の態度が3歳児が混じっている時ともう全然雰囲気が違います。ダメだしオンリーで時間がすすんでいきます。先週教えたはずのソロ部分が全部忘れてしまった生徒に容赦なく叱り飛ばします。またチビコをはじめ全員の生徒たちに、ひざが曲がっている、視線がそろってない、手足もばらばら。毎回先生のダメだしにもめげずに頑張り続ける生徒たち。

 チビコにとっても毎回新しいふりと同じダメだしの連続で大変な経験だったと思います。振り付けむつかしい~とチビコは毎度私に訴えます。最初は発表会に出れるのーと浮かれていたチビコはあろうことか段々レッスンや振り付けを嫌がるようになりました。

 レッスンバッグを抱えたまま玄関で「お母さん、私バレエ嫌いになったの、行くのイヤ~」 と泣くように……。うそ、あれほど発表会に出れることを喜んでいたのに、どうしてこんなことになったのだろうか。私はうろたえます。

「どうして、どうして嫌なの? 泣くほどバレエが嫌になったの?」

「だってバレエってむつかしいもん。できないもん。覚えられないもん、できないもん」

 バッグを抱えたままチビコは泣きます。

「先生怒ってばかりだもん、私ばっかり怒られるもんあーん」

「ちょっとあれは先生は怒ってないよ。注意してるだけよ。チビコが舞台できれいに見えるように注意してくれているのよ。きっと上手になるから注意してもらえてるんだよ。いいことじゃないの」

「そんなことない。あれは絶対怒ってる」

 何とか車に乗せて道中にも説得します。教室の前まで連れていくとバレエの同じ年のお友達が先にきてチビコの方に駆けよってきます。友達は好きらしくチビコもうれしそうに「わーい、◎◎ちゃん」 と話しかけるなり手をつないでレッスン室へGOします。このバレエ教室はお友達も学校がばらばらです。校区の違うお友達を作るのもチビコにとっていいかもと思っていたので素直にこれはよかったと思いました。バレエ経験年数もばらばらですがチビコが一番短いです。バレエ経験数カ月で初舞台を踏むのです。がんばってほしいと思いました。

 家ではバレエが嫌いだから行きたくないとごねてはいてもいざ教室に入って着替えるとお友達と一緒に楽しそうにしている。踊るのが嫌な素ぶりは一切見せない。


 だがレッスン前にはレッスンを嫌がる……同じことの繰り返しだった。レッスンを嫌がる子供はチビコと同じ発表会が初めての子供がいますがその子は3歳児です。親から引き離されて泣きわめいていてひきつけを起こすかとおもうぐらいの癇癪をおこしていました。だけど2,3回も慣れると振り付けを覚える意志は全くないながらに最低限泣かないようになりました。3歳児ならこれで通ります。3歳児ならば……。

 しかしチビコはそうはいきません。彼女は3歳児達からみたらもう立派なお姉さんなのです。

 私が思うのに、お友達の中で自分が一番ヘタだということがチビコにとって初めての挫折経験ではなかったか。チビコは三歳児や四歳児の体験レッスンで泣きわめいて参加不能でバレエをやりはじめるのは遅れてしまいました。(よかったら昔のエッセイをもう一度読み返してみてください。)そのため少々遅れてバレエをやり始めましたが、同じ年のコと差がつくのはもう当たり前ですでにいくつもの舞台経験のあるお友達に対してコンプレックスを持ったのかも。でもそれはチビコのせいではないか。チビコの踊る演目と一緒でも振り付けは全く違う。先生の注意も違う。当たり前ではないか。

 とりあえずバレエはいきなり上手になれるものではないので、一歩一歩階段を上っていくしかない。チビコは私のそういう理屈を理解できる年であると思うのだが。とにかくバレエレッスン前には泣いて「バレエをしたくない」 でこれには弱ってしまった。

 これは本当に想定外だった。


     ……続きます。






 

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