第14話・先生の怒り ☆
「一体、あなた、バレエをやってから何年たったの? そんなんじゃあ、いつまでたっても上手になれないよ? あなたはおうちが遠いから、毎回おばあちゃんに駅まで送り迎えもしてもらってバレエしてるんじゃないの? そうやって応援してもらってるじゃないの? 家族のみんなが◎◎ちゃんのバレエが上手になるのを楽しみにしているのに、本当にそんなんでいいの? 後からきた人たちにどんどん追い抜かれてしまうよ、くやしくないの?」
上記、ある少女に先生が怒ったセリフがコレです。
バーレッスンの時に普段から「私これ、きらーい」「するのやだー」 と家庭内でおおらかにわがままに育てられたコなのか、わりと文句が多いのだよね。それで今日、とうとう先生が激怒したわけ。
うちのチビコは先生が怖いので◎◎ちゃんのようにタメくちはきけない。だから、大きく目をみはって先生の顔を見ていた。
確かにバーレッスンは地道な努力が必要です。次のセンターにうつるまでの足慣らしというか、基礎ばかりだ。私もバーレッスンより早くセンターレッスンにうつりたいクチだったから、◎◎ちゃんのいうこともちょっとわかる。
だけどバーでの動きをおろそかにする、というかバカにすると確実に己に跳ね返ってくるのがバレエなんだよね。
基礎はバカにはできない。
先生がしつこいほど毎度足の運びをいうので、「何回もおなじことばっかりやらせてー」 と思ったこともある。だけどバーレッスンには無駄な動きなんかないのだ。
最低限やらなきゃいけない動きをパターンかえてやっているのだ。それに気づいたのはやはりワケがわかってくる高学年だったね。賢いコはそのあたり理解して、柔軟もおうちで毎晩やる。お部屋の片隅で足慣らしをする。部屋の空いているところや、駐車場どこでもその週やったセンターレッスンのおさらいをする。そこまでしないとバレエって上達しないのだ。
先生は真面目な人なのでバレエをおろそかにするといけないと思って、あえて厳しい言い方をしている。その子のバレエってこんなもん、という見くびりが感じられたので激怒されたのだ。
とうとう、その子は泣き出した。先生はなぐさめもせず、教師用のバーにもたれてその子を見ている。バーにもたれた姿勢でもバレエの先生だとサマになるんだよねー、背筋まっすぐ、片足は軸足まっすぐでもう片足をクペにしている。何気ないポーズでもバレエ!
先生は泣きだした子をフォローせずにレッスンに戻った。
「じゃっ、次いきます。先生のお手本よく見てね、今からフォンデするからね」
泣いている場合じゃない。泣きながらバレエはできない。教室から放り出されなかっただけマシじゃんか。怒られながらもレッスンに参加させてもらえるのだから。
その子は目を赤くしながら先生の仕草を見つめた。ほかの生徒たちも真剣にお手本を見ている。
どんな稽古事も楽してはできない。ましてや、まだはじめて数年では道を極めたことにはならないのだ。家庭で甘やかされまくった子供でも、お稽古事で性根たたかれ根性をきたえられるのだ。
バレエに限らずピアノでも水泳でも。なんでもそうだろう。
怒られるのも栄養になる。
がんばれ、子供たち!