第11話・屋外での発表会にて ☆
ずいぶん昔の話です。
私がたまたま見かけた公的機関が主宰したイベントでの話です。
どこかのバレエ教室が複数で順番に踊りを披露するというものでした。子供向きだったので小さい子たちがステージの隅っこでわらわらと集まっていてそれがとてもかわいくて、私は足をとめました。
そう、そこは屋外のステージ。だから舞台裏が丸わかりでした。
舞台の隅というか、奥まったところで小さな子が着替えていたり、母親や先生らしき人にルージュをひかれていたり、2,3人にわかれて小さく身振り手振りで踊りの確認をしあったりしてとてもかわいかったです。
小さいコってみんなとてもかわいいです。
そして色とりどりのお衣装を誇らしげに着ているコもいれば、緊張してがちがちになっているコもいます。
天気は晴天、ただ風が少々。この風が問題をおこしたんだよねー…。大人はともかく子供はアクシデントに対処のしようがない。
本番、いくつかの踊りの後、かわいい帽子をかぶった少女たちが手を腰にそえて整列しました。人数は12,3人はいたかと思います。年齢は小学生低学年ぐらい。片手をあげてバレエ式のあいさつ、それから中央の子が前にすすみでてさあ踊りましょ、のマイム。
その時です。
中央むかって前列のコの1人の帽子が風で飛ばされてしまいました。「あっ」見ていた私を含め観客が声にならない声をあげたと思います。
帽子を飛ばされたコはあわててひろおうとしましたが後ろに飛ばされました。隣のコもその隣のコも前のコの帽子がないのを気にしつつ、でも音楽は止まらない。みんなは踊り出しました。
当のそのコはどうしてよいかわからず、パニックになりました。その場で舞台裏へ行くわけでもなく、最初に立った位置から逃げることもせずだけど踊りもせず、その場で立ったまま泣き叫びました。
軽快な心弾むような音楽の音が大きく、女の子の泣き声はかき消されています。だけどパニックおこして泣いているのがよくわかります。
先生は?
私はとっさに舞台横や隅をみましたがよくわかりません。Tシャツをきて腕組みをしている若い女性が何人かいました。彼女たちは全く動きませんでした。もしかしたら次に出演する違うバレエやダンス教室の人かもしれません。
泣き叫んでいるコの親らしき女性が舞台そでをうろうろとしていました。その人もどうしていいかわからないのです。泣いているコに向かってなにやら叫んでいますがそのコは帽子が飛んで行った先を指でさして泣くばかり。
まわりのコは泣いているコを気にしながらきれいに隊列を組んで踊っていました。観客の目は当然泣いているコに注目です。
はっきりいって舞台はめちゃくちゃ、大失敗でした。
私は先生はなぜ音楽を止めなかったのだろうと不思議でした。止めてもう一度やりなおせばいいのです。帽子を飛ばされた女の子を抱きしめてなだめて、なんでもない。帽子がないけど衣装はある、だから踊れるって。
コンクールでもなんでもないのだから、ただのおまつりなんだから。それでもう一度踊るのです。
そしたら後で笑い話にでもなるだろうに。
あのままではあのコやまわりのコの心に傷がつきます。
もしかしたら音楽は一度かかりはじめると止められないのかもしれない、主催者の判断でCD預けっぱなしで何も言えなかったのかもしれない。司会者もいなかったし、たんたんと演目がすすむだけだったので誰も何も言えなかったのかもしれない。
子供の出演だったので踊る時間もそんなになく、終了しました。パチパチパチ…観客の拍手が空々しく聞こえます。そのコにとっては恐怖だったでしょう。
そのコは最後のバレエ式あいさつもまわりのコと一緒にせず、またまわりのコが舞台を去ってもまだ泣いていました。(泣いているコが動かなかったので隣のコ以後の後列のコが気にしながら順を飛ばしてひっこんでいったのです。)
そのコは泣いたまま。
やがて誰もいない舞台にさっきまでうろうろしていた親が出て来てそのコをいきなり抱っこして足早に奥にひっこんでいきました。
これって確実にそのコにとってはトラウマです。
またその親も、みにきたお友達も、そして一緒に踊ったコも。このアクシデントは誰が悪いわけでもないけど、この終わりかたはよくない、先生は一体何をしていたんだ? と思いました。
誰がフォローし、誰がなぐさめる?
親御さんが泣いたままのそのコを抱っこして奥に引っ込んだのはいいけど、抱きしめもせずすぐ子供をおろして、その手を乱暴にひっぱって、どこかへ連れて行ったのが眼の端でわかりました。
しばらく間があいて次の踊る演目のアナウンスがきました。アナウンサーがいたんだな。驚いただろうが、司会者がいなくともアナウンサーがいるんだったらこれが司会者がわりになります。このアクシデントにフォローしてやってもいいだろう、とも思いました。
あの後あのコはどうしただろうか、帽子が見つかり、先生のフォローでもう一度あの舞台でなくともいいから、どこかで晴れ舞台を心ゆくまで踊らせてあげてたらいいのになあ、って思います。
そのコの親御さんもそのコを叱らず、もっと抱きしめてあげ心に傷が残らないようにしてあげてたらいいのにと思ってます。
屋外のステージは私も実は子供時代に一度だけ経験しています。もう小学生4年か5年生ぐらいになっていたので覚えています。外で踊るっていうのって明るすぎるんですよ、そして観客がマルミエです。
子供心にいつもとチガウってのがわかりまして、大変に緊張しました。だけど踊った後の観客の視線が暖かく踊ったぞーの満足感が半端なかったのを覚えています。
だからこそ、あのコが気になるのかもしれません。
もうあのコは大人になっているでしょう。あのアクシデントの経験がトラウマにならず、臨機応変に元気で生きていますように、そしてバレエも続けていますようにと世の中の隅っこで私は願っておりますです。