2つの声
生徒会室に戻り、仕事に取り掛かろうとした。
(薫は休み。もちろん和も休み。千賀ちゃんと啓君は塾で、羽音ちゃんは習い事・・・祐は来なさそう。・・・私1人!?)
そう思った瞬間嫌気が差したが、気にすることは止めて始めた。
「終わったー。」
終わったと言っても、まだ生徒会総会の冊子だけ。
「今・・・何時?」
時計を見てみると、6時30分に差し掛かっていた。
「やばっ!!もうそろそろ学校でなきゃ。でも、どうしよう。まだ2つ仕事が残っている・・・もうこうなったら仕方ない。家でやろう。」
そう決まるとすぐに、後片付けをし、戸締りを確認してから学校を出た。
最近は、6時でもまだ明るいので、少し変な感じだ。
綾菜の家は、学校から自転車で15分ぐらいなので、電車通の人に比べると近いと思う。
自転車に乗り、家に帰る。
そしていつもの様に
「ただいまー。」
と言う。
そして
「「お帰りー。」」
といつもの声が・・・二重!?
急いで家に上がり、もう1つの声の持ち主を見る。
「遅かったわね。生徒会?」
最初に声をかけたのは、お母さん。
「うん。って言うか、なんで祐が家にいるの!?」
もう1つの声の主、祐那を見た。
「だって俺ん家だもん。」
「そんなことを言っているんじゃなくて、どうしてもう帰ってきてて、くつろいでるのかを言ってるの。生徒会あったでしょ!!」
怒り口調の綾菜に対して、祐那はしれっと
「用事があった。」
と言った。
「何のよ。まさか薫と一緒なんか言わないでしょうねぇ。」
「それは言えない。でも、そのまさかだよ。」
「信じらんない!!私が、忙しい時に2人で遊んでたんだ!!」
普段なら少し怒る程度で気が済んだが、もう怒りが抑えられないほど、綾菜はストレスが溜まっていた。
それが分かっていてか、祐那はそれ以上何も言わなかった。
「綾、祐、ご飯にするわよ。」
この気まずい雰囲気を壊したのはお母さんだった。
「うん。」
祐那は返事をしたが、綾菜は返事をしなかった。
それから綾菜は、食事中も一言もしゃべらず、早めにお風呂に入り、自分の部屋で生徒会の残っていた仕事を片付けていた。
今はちょうど、古武先生に頼まれた決算報告書の確認と収支の計算をしている。
でも、収支が合わない。
そんな時に声をかけられた。
「綾、ちょっといい?」
「何?」
顔を上げずに答える。
「今日の事なんだけれどさ・・・それって生徒会の仕事??」
「そう。」
そう一言言うだけで、顔は上げなかった。