聞きたくない
今、薫とふたりっきりになるのは、非常に気まずい。
だからと言って祐那がいても、喧嘩気味だったから気まずいのは変わらない。
「ごめん。」
「えっ?何が??」
何に対して謝られているのか分からなかった。
「いや・・・昨日1人で生徒会の仕事やらせちゃった事。まさか橘、帰るとは思わなくて。」
「・・・。」
今喋ったら、確実に我慢している涙が流れて止まらなくなる。
薫には、涙声の弱い自分を見せたくなかった。
「別に・・・。」
今の私が言える精一杯の言葉。
これ以上はもう・・・。
「・・・具合大丈夫か?」
「うん。」
2人っきりだと息が詰まりそうで。
だから話を逸らそう思い、出した話が
「橘先生の奥さん、子供生まれたかな!?!?」
だった。
薫は、突然の話の内容に目をきょとんとさせていたが、すぐに会話についてきた。
「あぁ。生まれたらしいよ。朝の会で言ってた。それより」
「可愛いだろうね。」
「おまえに話が」
「男の子かな?」
「あるんだけれど」
「橘先生綺麗系に入るから、女の子でもかわいいよね。」
「綾」
「きっと親バカに「綾!!」
目の前にいる薫は少し怒り気味。
聞かなきゃ駄目?
聞いて辛い思いするなら聞きたくないよ。
自然と俯く。
「俺さぁ、昔から気になってた奴がいるのよ。」
「ふーん。」
「さっき聞いてたのかも知れないけれど、弱いくせして強気なやつ。」
「・・・それで?」
「今日言おうと思うんだ。」
私にはもう我慢の限界だった。
「勝手に言えばいいじゃない!!それとも何、私が許可しないと駄目なわけ??それだったら言えばいいじゃない。」
「・・・分かった。」
私の言葉に一言返すだけで、この場を離れようとする薫。
えっ・・・。
ちょっと待って。
私の声にならない願いも空しく出て行ってしまった。
後ろを振り返りもせず。
薫が出て行った後の保健室は、先生もいないせいか静かだった。
「・・・待って。行かないで。」
綾菜のか細い声。
誰かに聞こえる訳でもなく、周りの音にかき消される。
「・・・か、おる。・・・かおる、かおる、かおる。」
自分でも、なんで呼んでるのか分からない。
ただどっか遠くに行っちゃう様で。
そんなのは嫌で一生懸命呼ぶ。
届かないのは分かっている。
振り向いてもらえないかもしれない。
でも、私の気持ち言ってからでも遅くないよね?
「薫!!」




