第一話 片手半と杖 前編
注意! 作者の脳と文章力は悲惨です、それでも許せる方は…よろしくお願いします…
第一話前編 旅立ちの昼
西の強国と呼ばれる国、「オークバレル王国」そこは賢き王と有能な大臣たちの下、着々と文明を発展させていった島国だ。
かつて西方の国の多くを巻き込んで各地を焦土にした魔術師の王たちの戦争「魔導大戦」の中心地となり、そこから島内で長きにわたる戦争を経て、現在では世界の軍事力、魔術、宗教の中心となるほどに進歩したこの国で、一人の一兵卒が旅に出ることになった。これはその記録である。
照りつける夏の日差しが和らぎ、やっと過ごしやすくなった王都の一角に大きな煉瓦造りの建物がある。王国に仕える兵士たちが寝泊まりする宿舎だ。その一室で凄まじい量の荷物を床に広げ、首をひねる男がいた。
ジャン・パトリック・ダニエル、愛称をJDという王都商業地区警備隊の隊長であり、現場の兵士を束ねる兵卒長の階級を持つ男だ。生真面目で実直な性格といざ剣を抜けば厳しい訓練を重ねた騎士たちにも負けない剣技の腕前を持つ彼は市民にも部下にも好かれる男だった。
「弱ったな、これでは荷物が収まらないんじゃないか?」
顎の無精髭を撫でつつぼやく。実際床に広がる荷物は旅に出るにしても少々多すぎるほどの量になっている。
「しかし、ここから何を減らせばいいのやら」
片手に持った本の表紙には「旅の手引き」と書かれている。どうやらそこに書かれている旅に必要な物を参考に様々なものを用意したようだ。
「待てよ?これはこっちで代用できるよな…それにこれも…」
荷物の無駄を発見したのがうれしいのか、楽しげに荷物を選別して小さな鞄に詰めていく。鞄は物理法則を無視するように荷物を次々に収納していく。
「流石魔術師院の発明品、こんな小さい鞄にあの量が収まった」
JDが感心している小さな鞄は多くの魔術師が集う機関「魔術師院」で発明された「魔法の鞄」と呼ばれる鞄だ。見た目は革の小さな鞄だが、表面に施された刻印とボタンとして取り付けられた銀細工が内部空間を広げる魔術と重量軽減魔術の力を込められているため、大きな鞄を背負わずともたくさんの荷物を手軽に持てるようになった画期的発明品だ。
難点は込められた魔術の難易度と複雑さ故に非常に高価であること。よほど裕福か、そうでなければ所属組織から支給されない限り一般人が持てるものではない。
「よし、やっと準備ができた」
そう言いながらJDは腰の懐中時計に目をやる。針は正午前を指している。
「いよいよ旅立ちか…」
慌ただしく丁寧に置いてあった鎧を着込み、腰に剣を吊るす。兵卒長の階級を表す少し上質な鎧と、入隊したころから愛用するバスタードソードと共にJDは宿舎を飛び出していくのであった。
―数週間前―
その日もいつも通り警邏を終え、時計塔の鐘が正午を告げるとJDは兵士の詰所へと向かっていた。交代の時間だ。
詰所に戻ると、部下の一人が声をかけてきた。
「隊長、将軍閣下直々のお呼び出しです、13の鐘が鳴る頃に将軍閣下のお部屋に来るように、とのことです」
「閣下が?わかった」
JDはそう返事をすると鎧から兵士用の礼装に着替える。さっき鳴ったのが正午を示す12の鐘なので、次の鐘まではそれほど時間がない。
「またお見合いの話ですかねぇ?」
部下が笑いながら問いかけると、「いいから見回りしてこい」と一喝して詰所を飛び出していった。
―オークバレル王国軍本部・将軍の私室前―
「ジャン・パトリック・ダニエル兵卒長、ただいま参りました。」
三度のノックとともにそう告げると、室内から「入りたまえ」と低い声が返ってくる。
ドアの向こうには広々とした空間とそれを埋め尽くす書類と本の山、そして最奥にはマホガニーのデスクにかける立派な口髭をたくわえた眼光鋭い男がいる。国軍の長である将軍だ。
「まぁかけたまえよ」
将軍はそう言って椅子を勧める。JDはそれに従い、椅子にかける。
「さて、貴官に来てもらったのは他でもない、新たな任務についてだ」
将軍がJDに書簡を渡す。書簡には「救済の旅」と書かれている。さらに最重要機密を表す王室の紋章入り金の封蝋つきだ。書簡を握るJDに緊張が走る。
「それを読めばわかるが、この度陛下の発案をもとに騎士を中心とした優秀な人材に旅をさせることにした」
「旅、ですか?」
「うむ、ゴールデン・スワロー社は知っているな?」
将軍の問いにJDは首肯する。
ゴールデン・スワローというのは各村や街に存在する相談所のようなもので、困ったことがあれば誰でも「依頼」として登録でき、その依頼は誰でも受諾できるシステムを持っている。お使いレベルのものから軍が動くレベルの問題まで多くの依頼が寄せられ、簡単な依頼を完遂して小遣い稼ぎをする者から高難易度の依頼を完遂し、己の強さを誇る者まで様々な者が利用する。
「貴官たち救済の旅参加者は各地を巡りながらゴールデン・スワロー社に寄せられる危険依頼をこなしてもらいたい」
「それは…陛下のご命令ですか?」
「あぁ、昨今各地の動物が魔力の影響か何かで狂暴化していることをお聞きになった陛下は心を痛められ、この案を思いつかれたそうだ。」
「ですが、それなら各地の駐屯地から派兵した方が早いのではないでしょうか?」
JDの問いはもっともだ。わざわざ王都の兵員を回すよりも最寄りの駐屯地から派兵し、問題を解決した方が早い。
「それでは10年前のように対応が遅れることになりかねん、我々は二度とあのような失態を演じるわけにはいかんのだ」
将軍の表情が曇る。10年前、オークバレル北方にてリザードマンの集団による襲撃事件があった。しかし、北方駐屯地の兵士たちが向かった頃にはすでに村が一つ壊滅し、多くの死者を出した。対応が遅かったのだ。
「今年は丁度10年の節目、問題に即座に対応できるように、さらに言えば問題が起きる前にその芽を摘み取ることが必要であると考えられた結果、この計画ができたのだ」
「なるほど、それで、何人ほどの部隊で行動を?」
「選抜された者を中心に最初は2人で動いてもらう」
「2人、ですか?」
たった2人でオークバレル全土を旅しなければいけないのだ。それも期限不明、危険度大という状況で。当然不安になる。
しかし、将軍は首肯して続ける。
「聖王教会から人的支援が、魔術師院から物的支援が得られたのでな、各選抜者に1人聖王教の神職なり神殿騎士がつくことになった」
聖王教というのはオークバレルを中心に西方地区で信仰される宗教の一つだ。魔導大戦の際、戦争ではなく傷ついた人々を癒し、守ったとされる「慈しみの白王」を信仰する宗教で、現在では多くの信者を持つ一大宗教でもある。
神殿騎士と呼ばれる独自の軍事力や神聖術と呼ばれる回復や補助に特化した術を持つこともあり、大きな力を持っている。
「たった2人では無理がありませんか?」
「安心しろ、仲間になりそうな者がいれば随時自由に加えて構わんし、こちらから新たに増員することも予定されている」
2人旅という現状がまったく変わらない一言はJDをさらに不安にさせる。
「貴官の他は皆騎士、よって彼らは補助メインで神職や神殿騎士が付くことになる…だが貴官にはこちらで選んだ魔術と神聖術を同時に使う者を付けることになっている」
水と油のような関係である魔術師と聖王教が協力していること以上に驚きの内容だった。基本的に魔術師は宗教を嫌い、聖王教は魔術を嫌っているため、両方を習得しているものは非常に希少な存在なのだ。
「魔術師院の者でも教会の者でもないんですか」
魔術師院は信仰を持つ者は入会させない、聖王教は魔術を知る者は入信させない、という規則上必然的にどこにも所属しない在野の者になる。
「貴官、先日王墓に侵入しようとした者を捕えたな?」
将軍が言っているのは、JDが非番の日に王墓に侵入しようとしている不審者を発見し、捕えた一件のことだ。黒いローブの不審な人物だった。
「その不審者、話を聞いてみれば元神職で現在は魔術師と非常に面白い経歴だったのでな、貴官の共に推薦しておいた」
「あの不審者を牢から出すなどと…なぜです?」
この人は何を考えているんだ、とJDの顔に書いてあるように見える。王墓に侵入すると、かなりの重罪になる。未遂とはいえそんな犯罪者を推薦するなど、頭がおかしくなったかと思われても仕方ない。
「侵入の動機が純粋な探究心故の行為であったこと、それと諸国を巡ってきた経験、魔術と神聖術両方を扱うという技術を考えると、投獄するには惜しいと判断したまでだ」
使えるモノは何でも使え、ということだろうか。しかしJDにはまだ疑問が多く残っている。
「それについてはわかりました、ですが何故騎士の中に私を混ぜたんでしょうか?私はただの一兵卒ですよ?」
一般的に平時における危険な任務や重要度の高い仕事というのは騎士が回されることが多い。兵卒は出兵時以外は警備任務が常なのだ。にもかかわらず、今回JDが推薦されている。
「私の個人的な推薦だ」
「えっ…理由は」
「貴官、少し働きすぎであろう、有給も一切使わず何年になる?」
本人は覚えていないが、JDは入隊以来10年ほど一度も有給を使わず働き続けている。酷い時は週に一度とらなければいけない休暇すら無視していることもある。
「たまりにたまった有給の消化がてら旅行してこい、というのが推薦の理由だ」
有給消化の割に激務とはこれいかに、というツッコミは無しだ。おそらく将軍なりに働かないと死ぬ病気のJDの気分転換を考えた結論なのだろう、たぶん。
「しかし…」
食い下がるJDにトドメの一言が入る。
「命令だ、行って来い」
これでは逆らえるはずもなく、その日からJDは旅の準備を始めたのだった。
―そして現在―
「未だに納得いかんが、任務だ…仕方ない」
旅立ちの理由が理由故に納得がいかない、とこぼすものの、彼の足取りは軽く、王都の中心である時計塔広場を目指すJDであった。
あれから数週間の間、愛用の剣や鎧を入念に手入れし、方々へ挨拶を済ませ、警備隊の後任に引き継ぎを行い、さらに旅の共となる不審者とも顔合わせをした。
「意外といい奴だったな、自分を捕まえた奴に対してあの態度はどうかと思うが」
牢獄に迎えに行くと、まるで友人に接するような態度で話しかけてきた挙句、牢獄生活も楽しんでいる様子だったのだ。変人としか表現できない。
「それは…我輩のことかね」
いつのまにか背後に立っていた小柄な人物が声をかけてくる。
「あぁ、あんたのことさ」
振り返ると、真っ黒なローブのフードを目深に被った猫背に長い杖を持った人物が立っている。旅の共であり、JDが捕まえた不審者で、魔術と神聖術を同時に扱える奇人、アーネスト・ラフロイグだ。
「よいではないか、いかなる状況でも楽しむのが我輩の信条である」
意外と歳も近く、色々な事を知っているのだが、変人なのが問題だ。
「牢獄を楽しんでいる奴は初めて見たよ」
「それはもう4回目である、そろそろ別のネタを仕入れることを進言しよう」
他愛もないバカ話をしつつしばし歩いたのち、2人は時計台広場に到着した。
「時に貴殿、旅支度は万全なのかね?」
「やっとこさ終わったよ、あんたはどうなんだ?」
広場に多くある露店で昼食のパンを買いつつ、話す。
「我輩はもともと貴殿に投獄されるまで旅をしていたのだ、いつでも旅立てる」
各地を放浪しながら魔術を研究していたアーネストにとっては旅が日常なのだ。
「まぁ、例の鞄を受領したおかげで持ち物に余裕ができたんでな、荷物は少々増やしたが」
「何を増やしたのかは聞かないが…」
色々な意味で危険なものでないことを祈りたい、と考えるJDをよそにアーネストが尋ねる。
「して、どこに向かうのだ?」
質問の答えはもう出ている。旅の行先は軍からの指令で決まっているのだ。10人ができるだけ同じ場所にいないようにするための配慮だ。
「目的は北東、ハイランド領を通過しつつスペイ領だ」
「承知した、それでは早速向かうとしよう…」
「あぁ、長い旅になりそうだ」
2人は王都の城門を抜け、石畳の街道を歩き始めた。
…金武です…申し訳ございません、続編書かずにこんなの書いてて本当に申し訳ございません…
煮詰まった脳と足りない時間と文章力の結果、こんなことになりました…