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夜よ明けないで

作者: かずや
掲載日:2026/07/17

 夜よ明けないで、そのままでいい。

 夜明けの時まで暗い世界のままで居てよ。


 いつもと同じ景色、月明かりと街灯、自販機の明かりが間接照明。

 風はぬるい、だけど心地良い。

 道が遥か先まで見通せる、道の真ん中に立とうが構わない。前にも後ろにも人等居ない、まるで世界に一人のような、全てに見放されたような。


 男は別れを経験した、陽の差す明るい時間で、何ごともないように、上手く周りに合わせて波立たないように怯えて生きて。

 元気そうに見えてもう、頭も首も目も肩も膝も悲鳴を上げながら、日中の好きに出来ない陽の光に拘束されながら……

 明るい内だから仕事があり働き、大好きな彼女に行動を合わせ、社会的同調圧力の檻に入れられる。


 日が沈み日が変われば檻から出れる。

 日中より暑くないぬるく心地良い風。

 鬱陶しい程に居た人々が消え去る夜。

 公園の真ん中に座っても、誰も見ない、誰も居ない。


 職を失い、女を失い、陽の当たる時間が怖くなり、夜よ明けないでと願うようになった。

 夜の闇ならば寄り添ってくれる。

 静かに何を聞いても答えてくれずに、ただ夜は側にいてくれる。

 まだ男に燻る迷える心を包んでくれる。

 癒しではない、ただ夜が居る。

 だから夜よ明けないで、そのままでいい。


 男は我慢しながら夢と希望を持っていた。

 小さな会社に勤めて不満は無かったし、彼女も出来た。

 陽が差す内は我慢さえすれば、数多くの人に合わせさせすれば眩しいけど生きてられる。

 多くの人々が「楽しい」を表に出す事で空気作られている、それに耐えて夜を待てば良かった。

 歯を食いしばり、眩しい人達に合わせ生活の為に耐えさえすれば。


 夜が来る。

 眠る事を忘れて今日あったことを、夜風で流していく。

 流して構わない、だって夜だから。

 誰も居ない、男は理解していた。

 夢や将来はこの夜に居る間は叶わないと。

 それでもやめられない、もう夜に魅了されている。


 夜に恋していた。

 太陽みたいな彼女よりも落ち着く、騙し騙し共に居たが限界が来る。

 まず初めに彼女から離れた、すれ違うのは当然だった。

 太陽の光は強烈な影を作る、影から太陽は見れても太陽からは影が見えない、照らしてしまうから。

 

 男は夜に、女は昼に帰って行くだけだ。

 こうして自然と元の場所に戻った、なんら後悔も無い。むしろ引っ掛かりが取れたような解放感すらあった。

 夜は包む、身軽になった男を迎えてくれるようにそっけなくいつも通りに。


「あなた病気だよ」


 女にそう言われたのが最後だった、そんなもの痛いほど理解している。

 だが眩しい世界で耐えながら生きていけなかった、我慢を重ねて重ねて一生を耐えながら生きるのか?

 その考えに至った時、男は夜に籠った。

 夜の街は何もしてくれない、その時間を遮断するかのように家も店も閉まる。

 一部夜でも動くコンビニは日差しではなく、明かり。

 明かりに集まる虫のように使う。

 昼ほど人は居なくとも誰かは居る、その誰か数人レベルが有り難かった。

 日中のように騒がしくも無い、まるでテリトリーがあるかのように互いに距離を取るし、夜は取りやすい。


 程なく職場も離れた。

 我慢は何も理不尽にしか発生するわけじゃ無い、会社として()()()()()()()()()()の空気感が我慢になった。

 会社は何も悪くない、目指す方向を前向きに従業員を守る為、自社が成長する為、仕事を通じて社会に貢献する為、思想口上的には正しく健やかで眩しい。

 ケチをつける側が捻くれているだけだ、慈善事業ではない営利活動の中で眩しい空気は素晴らしい事だと理解はする。

 男はダメだった、陰に慣れすぎた。

 光が強ければ陰は濃くなる、光が直接当たれば陰じゃなくなる。


 夜が好きだった。

 陽が嫌いじゃ無い、夜が好きなんだ。

 嫌悪感も無いし多くの存在にとって必要な陽の光。

 それでも夜が好きだった。

 何も言わない暗い夜の闇にしか癒せなかった。


 友は居ない、孤高と言うには卑屈で小物。

 友となろうとする者は皆、光に属していた。

 表面上は付き合えても影になる。

 格好も付かずに隠れる事で精一杯だ、眩しい皆に染まれば生きやすく、楽しく、助け合って上手く行く世界になるだろう。

 少し陽を浴びれば、光が当たる場所に踏み込めば。

 そんな事は分かってる。

 男は理解だけはして、逃げるだけで生きてきた。

 歳を重ねて理解者もおらず、一時期頑張った。

 でもダメだった。

 それに文句も無かった、全部自分のせいなのだから。

 いつからか眠らない夜が長くなった。

 電話も鳴らない、一人で居られる、人に振り回されない、静かな緩い風吹く夜に身を起き出した。


 夜に恋してた。

 必ず来てくれる、必ず会える夜に。

 ただ暗闇で毎日出会うだけ。

 それだけで全部包んでくれる。

 逢引きは静かな時間を共有するだけ、他に何も要らない。

 夜は全てに平等、暗闇も時間も静寂も。

 独り占め出来ないのに、独り占めしている気にさせる手管な存在だった。


 時間がくれば陽が昇る。

 夜の終わり、交代の時間。

 逃げるように寝床に入って目を閉じる、そうすれば時間と陽と劣等感をスキップ出来る気がしたから。


 夜と人生は釣り合わない。

 生きることは出来ても決して味方をしてはくれない。

 力も与えない恩恵は皆無。

 それでも夜に焦がれる。

 親が亡くなった。

 不思議なもので、知ってからあっという間に手続きが終わって墓に眠る。

 親は太陽そのものだ、常に明るく優しく暖かく。

 影にならないように照らそうとしてくれた。

 結果的に陰となるが、影になる事を教えてくれた存在だ。

 照らされれば影は出来てしまう、太陽が悪いんじゃない。飛び込めない引っ込み思案な自分が悪かっただけだ。

 そんな太陽のような存在も落ちれば暗闇の中、夜とは違うが羨ましい。

 更に独りになった男は更に夜に浸かっていく。


 夜を愛していた。

 もう夜無しでは生きていけないだろう。

 失うものは全て失えた、あとは夜に身を捧げるだけ。

 この身を捧げる事の無意味さが、夜らしくて愛おしかった。

 夜の帳が下りる頃から朝日が存在強くしてくるまで。

 限られた時間、夜に身を晒す。

 夜は何も言ってはくれない、ただ身を包むだけ。


 夜に恋して夜を愛する。

 男は全てを夜に捧げる事にした。


 夜よ明けないで、このままで。

 夜よ明けないで、そのままでいい。

 夜明けの時まで暗い世界のままで居てよ。

 次の夜明けにはもう、この世界に居ないから。


 ——夜よ明けないで 完

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