私の嘘つきお姉ちゃん
ねえ。
世の中にはピュアな嘘とギルティな嘘があるって思わない?
みんなが楽しくなって笑える嘘はピュアだけれど、一人でも嫌な思いをさせる嘘はギルティだって。
私のお姉ちゃんは病的な嘘つきなのよ。
私が生まれた時から心臓に重たい障害を負っていたから、お父さんもお母さんも入院している私に付きっきりだった。
独り占めするつもりは無かったけれど、お姉ちゃんは本当に寂しい思いをしたらしいの。
それはお姉ちゃんに悪かったと思っている。
けれど、だからってあんな嘘を吐くなんて……。
……きっかけは些細なことだったみたい。
母さんがお姉ちゃんと一緒にスーパーに買い物に行った時だったんだって。
お姉ちゃんはお母さんがちょっと目を離した隙にお菓子のコーナーに行ってしまった。
そこでお姉ちゃんは悪い人に誘拐されそうになったんだって。
お姉ちゃんは大声を上げた。
慌ててお母さんやスーパーの店員さんが駆けつけてきて、悪い人は逮捕されたけれど、お姉ちゃんはそれに味を占めたようだ。
最初の被害者は親戚のお兄さんだった。
私は知っている。
売れない漫画家で、こっそりといけない漫画を描いているような人だったけれど、実際にお姉ちゃんを襲うような人じゃなかった。
手術が成功した後、私が退院して家で過ごしていたら、私の大好きだった漫画のキャラクターやイラストをいっぱい描いてくれたんだ。
でもお兄さんはお姉ちゃんから『あの人がいたずらしてきたの!』って言われて警察に捕まって、無実だったからすぐに戻ってこられたけれど、外に出かけなくなって、その年の夏に孤独死しているのが見つかったの。
最初はお父さんもお母さんもお姉ちゃんを信じていたんだ。
私だけがお姉ちゃんは嘘つきだって言っていたのに、全然信じては貰えなかった。
きっと、随分と寂しい思いをさせたお姉ちゃんへの罪悪感もあったんだろうと思う。
だけど、それが良くなかったのよ。
次は学校だった。
「アタシ、先生からセクハラされたの!」
その次は塾だった。
「先生が嫌らしい目で見てきたの!」
その次の次は私が通院している病院に勝手に付いてきた時だった。
「あのおじさんがアタシの胸を触った!」
お父さんもお母さんも、ようやく気付いたみたいだった。
お姉ちゃんがギルティな嘘つきになってしまったことに。
児童精神科って言うのかな?
そこにお父さんとお母さんはお姉ちゃんを無理矢理に連れて行ったんだ。
そうしたら、お姉ちゃんがどんな嘘を吐いたか。
私は一生涯忘れられない。
「先生助けて! アタシ虐待されているの!」
出かける直前にわざとぶつけた腕のあざを見せて、嘘を吐いたのよ。
違うよって私は何度も訴えた。
大人の人に全員、お父さんとお母さんは虐待なんかしていないこと、お姉ちゃんは嘘つきだってこと、泣きながら訴えた。
……でも、ああいう場合って被害者の意見ばかり通されるんだね。
お父さんとお母さんは仕事をクビになって、お酒ばかり飲むようになって、飲みながら泣きじゃくるようになって……そうなると人間って呆気ないし、脆いんだよね。
二人揃って死んでいたところを、私が見つけたよ。
お姉ちゃんは児童福祉施設に引き取られても変わらなかった。
ううん、もっと酷くなった。
次の標的は私だったのよ。
「またあの子が嘘を吐いたの!」
その嘘で、私ばかりが叱られたよ。
あっという間に、私と、私の発言は何も信じられなくなった。
それどころか、児童福祉施設で私は虐められた。
虫と雑巾って食べたことある?
絶望と地獄の味がするんだよ。
で、お姉ちゃんは十八才になって児童福祉施設から出ていった。
未成年だったけれど、私も一緒に出ていったよ。
『一緒にお姉ちゃんと暮らしたい』って言ったら、初めて信じて貰えた。
――ねえ、ユウスケさん。
これがどうして私が嘘を吐いてまで、お姉ちゃんの夫である貴男を奪ったのかの答えだよ。
これで私、やっと嘘つきお姉ちゃんと同じになれるんだ。
え、『妊娠しているのに!!!』って?
不倫男とお姉ちゃんの子供なんて生まれるだけ不幸だよ。
それにさ、お姉ちゃんは嘘で何人も殺したのに、一度の不倫程度でギャアギャア騒がないの。
そんなことより。
ねえ、お姉ちゃん。
私初めて知ったの。
嘘を吐くって本当に楽しいね!
小説を書くのも楽しいですよ。




