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雪忘花  作者: 深海かや
第二章 家族のかたち
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第九話

 時計の針が十八時を指すより少し前に、湊は部屋から出ていった。十八時からは夕食の時間だ。十分前くらいから皆が一斉に部屋から出てきて、皆が食堂へと向かう。それより前に私達の部屋から出ないと、誰かに見られてしまうからとのことだった。


 扉を少しだけ開き、誰もいないことを確認してから部屋を出ていこうとする際に、湊が言った。


「あっそうそう、忘れる所だった。新奈がさっき、いつ私が雪が降る日に記憶を無くす事を言ったのって聞いてきただろ? あれは、子供の時な」

「ごめん湊、そう言われても全然思い出せないの。私は、雪が降る日に記憶を無くなさいのはずっと自分だけだって思って生き続けてきたくらいだから」


 出ていこうとする湊を引き止めた。それだけは、どうしても今すぐに知りたかった。


「あの妊婦さんを助けてあげた時のことも覚えてないってことか?」

「それ、前にも言ってたよね?」


 私と沙羅で初めて百合亜さんの家を訪ねようと話していた時だった。


──今度じゃあ俺も連れてってよ。沙羅と新奈と三人で、妊婦さんを助けにいこうぜ。いつかみたいにさ


 あの時に、言っていたことだろうか。でも、それが一体いつの日か思い出せない。


「妊婦さんって誰のこと? っていうか何歳の時の事とか覚えてる?」

「うん、覚えてるよ」

「え、何歳の時?」

「七歳の冬の時。新名はその日施設の外に出てた俺達の列から突然泣きながら走っていて、そのあと俺と沙羅が大きな木の下で座り込んで泣いてるお前をみつけてさ、そのあと三人で施設へと戻ろうとしてた時に溝にはまってた妊婦さんを助けただろ?」


 言い終えて、そろそろやばそうだな。もう行くわ。じゃあな。と湊は小走りで廊下へと駆けていった。湊はもうそこにはいないのに、私は寸前まで湊が立っていた場所をぼんやりとみつめていた。七歳の冬。それは、私が初めて自分だけが雪が降る日に記憶を無くさないという事を認識した時期だった。雪に関する記憶は細部に至るまで鮮明に覚えているつもりだったが、全てではなかったようだった。もう十年も前のことだし、あの頃の私は悲しさと寂しさでおかしくなりそうだった。小さな身体の中で、抱え切れられないそれらを、少しでも体外へと吐き出そうとするように毎日泣いていたことは覚えてる。施設の外だった。舞い落ちる雪が降る中、私は雪原を泣きながら走っている。頬に触れる風がつめたくて、痛くて、何よりも胸が痛かった。持ち上げた右手を胸にあてる。十年経った今もその傷は残っている。痛みがある。そう思いながら瞼をゆっくりと下ろした時だった。何かが弾けたように、当時の記憶が頭の中で広がった。

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