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第2章:孤高のサバイバル編  第5話:死の森での夜明け

第2章、開幕。 キラーアントの追撃を振り切ったルナを待っていたのは、極限の空腹と孤独でした。 「食べるために、殺す」。 森の残酷な掟を突きつけられた少女は、生き残るために初めての「狩り」へと向かいます。 それは、かつての無邪気な自分との決別でもありました。

 どれくらい飛んだだろうか。  

羽を動かす感覚がなくなるほど飛び続け、私は森の奥深くにある、朽ちた古木のうろに滑り込んだ。


「はぁ……はぁ……っ……」


 心臓が早鐘を打っている。  

遠くから聞こえる獣の遠吠えや、風が木々を揺らす音。その全てが、私を狙う捕食者の足音に聞こえてしまう。


 私は抱えていた蜜壺をそっと地面に置いた。  

中身は半分ほどこぼれてしまっていたけれど、残った黄金色の蜜が、月明かりに照らされて鈍く光っている。


「みんな……死んじゃった……」


 安全な場所で一息ついた途端、堰を切ったように感情が溢れ出した。  

ティタお姉ちゃんの最期の表情。燃え落ちる世界樹。  

悔しさと悲しみで涙が止まらない。でも、大声で泣くことさえ許されない。声を聞きつけられれば、今度こそ私は終わりだ。


 ぐぅぅ……。


 涙を流していても、お腹は空く。それが生きているということなのだろうか。  

私は震える手で蜜壺に指を突っ込み、月光花の蜜を舐めた。


「……おいしい」


 甘い。涙の味と混ざって少ししょっぱいけれど、脳に染み渡るような強烈なエネルギーを感じる。  

それもそのはずだ。これは満月の夜にしか採れない、魔力を豊富に含んだ幻の蜜なのだから。


 一口舐めるごとに、枯渇していたMPと体力が回復していくのがわかる。  

私は蜜をエネルギーに変えて、泣き止んだ。  

泣いている暇なんてない。強くなるんだ。あいつらに復讐できるくらい、理不尽なこの世界を見返せるくらい。


 私は膝を抱え、洞の入り口から見える小さな夜空を見上げながら、まんじりともせず朝を待った。


 ◇


 翌朝。  


小鳥のさえずりで意識が覚醒する。いつの間にか少し眠っていたようだ。  

蜜壺を洞の奥の枯葉の下に隠し、私は外の様子を伺うために顔を出した。


 朝の森は静かで、昨夜の恐怖が嘘のようだ。  

喉が渇いた。近くに水場はないだろうか。  

周囲を警戒しながら、低空飛行で草むらを移動する。


 その時だった。


「シャアッ!!」


 頭上から何かが降ってきた。  

私はとっさに身を翻して回避する。  


ドサッ! 


と私のいた場所に落ちてきたのは、子供の拳ほどの大きさがある蜘蛛だった。  

紫色の体に、毒々しい赤い斑点。鋭い牙からはポタポタと液体が垂れている。


 ――『ポイズンスパイダー Lv.2』


 魔力視がなくてもわかる。魔物だ。  

しかも、レベルは私より上。  

蜘蛛は八つの目をギョロリと動かし、私を獲物として認識した。


(逃げなきゃ……!)


 いや、ダメだ。  

蜘蛛は糸を吐く。背中を向けて飛んだら、撃ち落とされて終わりだ。  

戦うしかない。この、最弱のステータスで。


 蜘蛛が跳躍の構えを見せる。  

私は震える息を飲み込み、真正面から蜘蛛を見据えた。


(お願い、効いて……!)


 魔力を練る。昨日のカブトムシとは違う、明確な殺意を持った相手。  

心臓が口から飛び出しそうだ。


「――『チャーム』!!」


 私の瞳がピンク色に発光し、見えない波動が蜘蛛を包み込む。  

蜘蛛が飛びかかってきた。  

間に合わなかったか――!?


 私は反射的に目を閉じた。  

しかし、予想していた牙の痛みは来なかった。  

代わりに感じたのは、頬に触れる固く冷たい感触。


「……え?」


 恐る恐る目を開けると、ポイズンスパイダーは私の頬にその頭を擦り付けていた。  

まるで、懐いた猫のように。  

『魅了』状態だ。成功したのだ。


「はぁ……はぁ……よ、よし……」


 腰が抜けそうになるのを堪える。  

蜘蛛は私に対して完全に敵意を失い、むしろ好意を持っている。  

ここで逃げることもできる。  


でも――。


(殺さなきゃ)


 私の脳裏に、ステータス画面の『レベル1』という文字が浮かぶ。  

魔物を倒せばレベルが上がる。レベルが上がればステータスも上がる。  

逃げているだけじゃ、いつか死ぬ。  

目の前には、無防備に私に懐いている、私よりレベルの高い魔物。


 私は足元に落ちていた、鋭く尖った小枝を拾い上げた。  

今の私の攻撃力は「1」。まともな武器もない。  

でも、相手が抵抗しないなら。


「ごめんね……」


 私は涙目で謝りながら、スリスリと甘えてくる蜘蛛の目玉に向かって、小枝を力いっぱい突き刺した。


「ギッ!?」


 蜘蛛が驚いたようにビクリと震える。  

でも、反撃してこない。魅了がかかっているから、「愛する私」に攻撃されたことを理解できていないのだ。  

緑色の体液が飛び散る。  

気持ち悪い。怖い。罪悪感で吐きそうだ。  

それでも私は、何度も、何度も、小枝を振り下ろした。


「死んで! 死んでよぉッ!」


 十数回突き刺し、蜘蛛が完全に動かなくなるまで、私は手を止めなかった。  

やがて、蜘蛛の体が光の粒子となって崩れ去り、後には小さな魔石だけが残った。


 と同時に、頭の中にファンファーレのような音が響いた。


 《経験値が一定に達しました。ルナのレベルが上がりました》


《レベル1 ⇒ レベル3》


《ステータスが上昇しました》


《特定条件を達成しました。称号『無慈悲な愛』を獲得しました》


 私は血と体液で汚れた小枝を落とし、その場にへたり込んだ。  

これが生きるということ。  

綺麗事だけの世界は、昨日の炎と一緒に燃え尽きたんだ。


「……ステータス」


 私は小さく呟き、汚れた手で空中に表示された画面を操作した。


【ステータス詳細】


 名前: ルナ 種族: フェアリー(妖精) 状態: 疲労(小) 年齢: 0歳 レベル: 3(UP!)


 HP: 15 / 15 (+10) MP: 28 / 28 (+8) 攻撃: 3 (+2) 防御: 3 (+2) 敏捷: 18 (+3) 魔力: 14 (+4) 運: 20


【固有スキル】


 チャーム(魅了)Lv.1


 消費MP: 5


 効果: 魔力抵抗の低い対象を魅了状態にし、一時的に意のままに操る。レベル差があるほど成功率は下がる。


【種族スキル】


 飛行 Lv.2(UP!)


 効果: 飛行速度と旋回性能が向上。


 魔力視 Lv.1


 効果: 視界内の魔力の流れを視認する。


【耐性スキル】


 毒耐性 Lv.1(NEW!)


 取得条件: 毒を持つ魔物の返り血を浴びる、または摂取する。


【称号】


 転生者


 効果: 成長率微補正。異世界言語習得。


 世界樹の愛し子


 効果: 植物系の魔物から敵対されにくい。MP自然回復速度上昇(小)。


 無慈悲な愛(NEW!)


 取得条件: 魅了状態の相手を自らの手で殺害する。


 効果: チャーム成功率にプラス補正(小)。精神干渉系への耐性(小)。

お読みいただきありがとうございます! ついに……やりました。ルナ、初討伐です。 相手は自分より遥かに大きな猛毒蜘蛛。 その殺し方は、決して「綺麗なもの」ではありませんでしたが、生きようとする執念が勝利を掴みました。 獲得した称号は、『無慈悲な愛』。 愛おしそうに敵を抱きしめながら止めを刺す……ルナの少し歪んだ、けれど強烈な個性が芽生え始めましたね。 次回、いよいよレベルアップの恩恵が!?

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