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第2話:妖精たちの楽園

炎に包まれた故郷。 大好きな姉、ティタとの永遠の別れ。 HPたった5の最弱妖精ルナは、生き残るために飛び続けます。 絶望の森で、彼女が見つけた小さな安らぎとは……?

 私が「ルナ」として生まれ変わってから、数日が経過した。  

この数日でわかったことがある。  

一つは、妖精の体は思ったよりも便利だということ。  

背中の羽は意のままに動き、最初はふらついていた飛行も、今では空中を滑るように飛び回れるようになった。重力から解放される感覚は、前世の人間の体では味わえなかった快感だ。


 もう一つは、ここが「天国」のような場所だということだ。


「ルナちゃーん! こっちこっち、美味しい朝露が採れたよー!」


「あ、ティタお姉ちゃん! 今いくー!」


 私は羽を羽ばたかせ、声の主の元へと急降下した。  

大きな葉っぱの上で手を振っていたのは、先輩妖精のティタだ。緑色の髪をポニーテールにした、活発な女の子の妖精。  この隠れ里には、私を含めて百匹ほどの妖精が暮らしている。  

みんな優しくて、生まれたばかりの私を妹のように可愛がってくれるのだ。


「はい、これ。世界樹様の若葉から滴った一番搾りだよ」


「わぁ……いただきます!」


 ティタお姉ちゃんが差し出してくれたのは、葉っぱの器に溜まったキラキラ光る水滴。  

両手で抱えて口をつけると、濃厚な甘みと清涼感が口いっぱいに広がった。  

美味しい。前世で飲んだどんな高級ジュースよりも美味しい。


「んーっ! 生き返るぅ……」


「あはは、ルナちゃんは美味しそうに食べるねぇ。見てて気持ちいいわ」


 ティタお姉ちゃんが私の頭を撫でてくれる。  

ボッチで、昼休みはトイレでパンを食べていた前世の私が見たら、泣いて羨ましがるような光景だ。  

ここにはイジメも陰口もない。あるのは、花と緑と、美味しい蜜。そして優しい仲間たち。


「ねえ、ティタお姉ちゃん。里の外ってどうなってるの?」


 飲み干した器を置きながら、私はふと気になっていたことを聞いた。  

世界樹の枝葉に覆われたこの里は安全だけど、外には「魔物」がいると聞いている。


「外? うーん、危ないよー。私たちなんて、ゴブリンに見つかったら一口でパックンだもん」


「一、一口……」


「そう。だからゼッタイに里の結界から出ちゃダメだよ。ここなら世界樹様の加護があるから、魔物は入ってこれないし、見つかることもないからね」


 ティタお姉ちゃんは怖がらせるように指を立てた。  

やはり、私のHP5という数値は、この世界では「エサ」として認識されるレベルらしい。  

絶対に結界からは出ない。私は固く心に誓った。


 ◇


 午後、私は一人で森の低層エリアへ向かった。  

目的は、私の固有スキル『チャーム(魅了)』の検証だ。  

説明文には「魔力抵抗が低いものに効果がある」とあったけれど、実際にどれくらい効くのか試しておきたかったのだ。


 ターゲットを探して飛び回っていると、手頃な相手を見つけた。  

木の幹にしがみついている、私の体ほどもある大きなカブトムシだ。  

「ヘラクレス・ビートル」という名前らしい(ステータスの『異世界言語』が翻訳してくれた)。  

普段は温厚だが、縄張りに入ると角で弾き飛ばしてくる虫だ。


「……よし、やってみよう」


 私はカブトムシの正面に回り込み、じっとその複眼を見つめた。  

体の中にある魔力を練り上げ、瞳に集中させるイメージ。


(私を好きになあれ……私を好きになあれ……!)


「――『チャーム』!」


 小さくスキル名を呟くと、私の瞳が一瞬、ピンク色に怪しく光った。  

すると、威嚇するように角を持ち上げていたカブトムシの動きがピタリと止まる。  

カブトムシは触角をゆらゆらと揺らし、ゆっくりと頭を下げて私の足元に擦り寄ってきたではないか。


『キュウ……』


 なんだか甘えたような鳴き声(?)まで聞こえる気がする。  

成功だ。敵意が完全に消え、好意的なオーラを感じる。


「すごい……本当に効いた」


 私は恐る恐るカブトムシの背中に乗ってみた。  

カブトムシは嫌がるどころか、嬉々として歩き出し、私を乗せて木を登り始めた。  

どうやら「魅了」状態になると、こちらの意図をある程度汲み取ってくれるらしい。


「ありがとう、カブトさん! 楽ちんだぁ」


 これなら、いざという時に魔物を操って逃げたり、戦わせたりすることもできるかもしれない。  

ただ、使った後にどっと疲れが出た。MP消費は結構激しいみたいだ。  

今の私の最大MPは20。体感では、一回のチャームで5くらい消費している気がする。つまり、連発できるのはせいぜい三、四回が限度ということだ。


「乱用は禁物だね。でも、切り札にはなりそう」


 カブトムシの背に揺られながら、私はこの平和な生活がずっと続けばいいな、と心から思った。  

怖い魔物がいる外の世界なんて関係ない。  

この優しい楽園で、みんなと笑って暮らせれば、それでいいんだ。


 ――その時の私は、まだ知らなかった。  

この楽園が、あまりにも脆い砂上の楼閣であることを。  

そして、その崩壊の足音が、すぐそこまで迫っていることを。


【現在のルナのステータス】 Lv: 1 HP: 5/5 MP: 15/20(チャーム使用により減少) スキル: 『チャームLv.1』『飛行Lv.1』『魔力視Lv.1』

お読みいただきありがとうございます。 なんとか逃げ延びたルナですが、心も体もボロボロです。 大切に抱えていた『月光花の蜜』。これがなければ、きっと最初の夜を越せなかったでしょう。 泣き虫だった彼女が、涙を拭いて「復讐」を誓う。 ここからが本当のサバイバルの始まりです。 次回も応援よろしくお願いします!

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