第1話:世界樹の申し子
HPたったの5。 燃え盛る森に放り出された、一匹の小さな妖精。 チートも最強装備もありません。あるのは「生きたい」という執念だけ。 最弱妖精ルナの、過酷なサバイバルが始まります。
あたたかい。
まるで柔らかな布団に包まれているような、心地よい浮遊感。
私はゆっくりと目を開けた。
「……んぅ……」
眩しい木漏れ日が目に飛び込んでくる。
体を起こすと、そこは見たこともないほど巨大な「緑の絨毯」の上だった。
いや、よく見るとそれは絨毯ではない。葉脈が走っている。これは巨大な葉っぱだ。私が乗れてしまうくらい大きな葉っぱ。
「ここ、どこだろう……」
寝ぼけ眼をこすろうとして、私は自分の手に違和感を覚えた。
小さい。
あまりにも小さい手。まるで赤ちゃんの手のようだけど、指は細長く、透き通るように白い。
驚いて自分の体を見下ろす。
着ているのは花びらを繋ぎ合わせたような薄い衣。そして背中には――。
「えっ……羽?」
背中の感覚に従って力を込めると、パタパタと二枚の透き通る羽が動いた。
蝶の羽のような、ガラス細工のような美しい羽。
その羽ばたきに合わせて、私の体はふわりと宙に浮いた。
「うわわっ!」
バランスを崩して、また葉っぱの上に尻餅をつく。
人間じゃない。本当に、人間じゃなくなってる。
『目覚めたのですね、小さき者よ』
突然、頭の中に直接響くような、深く穏やかな声が聞こえた。
「だ、誰!?」
『私はこの森を守る大樹。あなたたちが「世界樹」と呼ぶものです』
見上げると、遥か上空まで伸びる巨木が、空を覆い尽くすように枝葉を広げていた。
この声は、この木から聞こえているの?
『あなたは私の葉から生まれ落ちた新しい命。今日からあなたは私の娘です』
「娘……?」
『ええ。名は……そうですね。「ルナ」と名付けましょう。月の光のように淡く、優しい輝きを持つ子』
ルナ。それが私の新しい名前。
由奈という名前も嫌いじゃなかったけれど、ルナという響きは不思議と今の私にしっくりときた。
『さあ、ルナ。自身の力を確認しなさい。この世界で生きていくための力を』
世界樹の言葉に促され、私はなんとなく「そうすべきだ」と直感した言葉を口にする。
女神様に教えてもらったわけではないけれど、この世界の常識として魂に刻まれているようだ。
「ステータス、オープン」
ポーン、という軽快な電子音と共に、私の目の前に半透明の青いプレートが現れた。
【名前】 ルナ 【種族】 フェアリー(妖精) 【年齢】 0歳 【レベル】 1
【HP】 5/5 【MP】 20/20 【攻撃】 1 【防御】 1 【敏捷】 15 【魔力】 10
【スキル】
・固有スキル:『チャーム(魅了)Lv.1』
・種族スキル:『飛行Lv.1』『魔力視Lv.1』
・その他:『異世界言語』
【称号】 『転生者』『世界樹の愛し子』
「HP……ご?」
私は自分の目を疑った。
5って。デコピンされたら死ぬんじゃないの、これ。
攻撃力も防御力も最低ランクの「1」。
唯一まともそうなのは、逃げ足に関わる『敏捷』と、魔法に関係しそうな『MP』だけ。
「もしかして私、ものすごく弱い……?」
小指ほどの大きさしかない自分の手を見つめる。
女神様は言っていた。「まともな人生を歩みたい」と願った私に、新しい生をくれたと。
でも、このステータスで、しかも魔物が支配するというこの世界で、本当に「まともな人生」なんて送れるのだろうか。
不安と、それ以上の高揚感。
私は羽を動かし、もう一度ふわりと宙に浮いた。
弱いなら弱いなりに、やるしかない。だって、せっかくもらった二度目の命なのだから。
こうして、元ボッチ女子高生の、最弱妖精としての異世界生活が幕を開けたのだった。
お読みいただきありがとうございます! 最初はカブトムシ一匹倒すのも命懸け……というか、逃げることしかできません。 ここから彼女がどうやって生き残り、強くなっていくのか。 応援よろしくお願いします!




