第15話:憎悪の再燃
森の風に乗って届いたのは、かつて故郷を焼き尽くしたあの「汚物」の臭い。 忘れるはずもありません。 悲鳴、炎、そして大好きな姉の最期。 喉の奥で押し殺していた憎悪が、今、冷徹な殺意へと昇華されます。 「見つけたわ、緑の悪魔たち」 今度は、ルナが追い詰める番です。
私の新しい手足となったシャドウ・ウルフたち――彼らを『黒牙』と名付けた――と共に、私は森の探索を続けていた。
私の背を乗せて走るリーダー狼の足取りは軽く、風を切る感覚が心地よい。
だが、その快適なドライブは、鼻を突く「ある臭い」によって中断された。
「……止まって」
私の命令で、黒牙たちは即座に足を止め、低く唸り声を上げ始めた。
腐った肉と、排泄物が入り混じったような、吐き気を催す悪臭。
この臭いを、私は知っている。一生忘れることのない、あのトラウマの臭いだ。
「まさか……こんな近くに?」
私は狼の背から飛び立ち、臭いの元へと慎重に近づいた。
木々の隙間から、崖下の窪地が見える。
そこには、粗末な木の柵で囲まれた、薄汚い集落があった。
「ギャハハッ!」 「ギギィ!」
耳障りな笑い声。緑色の醜悪な肌。
ゴブリンだ。
里を襲ったあの大軍勢ではない。規模も小さい、せいぜい30匹ほどのはぐれ集落だ。
それでも、その姿を見た瞬間、私の視界は真っ赤に染まった。
ドクンッ!!
心臓が早鐘を打ち、全身の血液が沸騰するような怒りが駆け巡る。
脳裏にフラッシュバックする光景。
燃え盛る世界樹。引きちぎられたティタお姉ちゃんの羽。絶望の中で死んでいった仲間たちの悲鳴。
「あいつら……あいつらぁっ!!」
理性が吹き飛びそうになる。
今すぐ突っ込んで、風魔法で切り刻んでやりたい。全員八つ裂きにして、その汚い血で森を染めてやりたい。
私の殺気に反応して、周囲の空気がビリビリと震える。
足元の黒牙たちが、恐怖で尻尾を巻いて震え上がっているのがわかった。
「……ハァ、ハァ……」
私は荒い息を吐き、自分の胸を強く掴んだ。
落ち着け。冷静になれ、ルナ。
ただ殺すだけじゃ生ぬるい。あいつらには、死よりも深い恐怖を与えなければ気が済まない。それに、怒りに任せて突っ込めば、思わぬ反撃を受けるかもしれない。
私は深呼吸を繰り返し、沸き立つ怒りを、冷たく鋭い殺意へと変質させていった。
(数は30。中にはホブゴブリンも数体いるわね。リーダーらしき魔法使い(シャーマン)も一匹……)
正面からやり合うには少し数が多い。
でも、今の私には強力な『手駒』と、人間以上の『知恵』がある。
「ねえ、黒牙たち」
私は木の上に戻り、震える狼たちのリーダーの鼻先を撫でた。
私の瞳は、かつてないほど冷酷に澄み渡っていた。
「今夜はパーティーよ。あそこの緑の豚どもを、一匹残らず根絶やしにするわ」
私はゴブリンの巣穴を見下ろしながら、頭の中で残酷なシナリオを組み立て始めた。
出口を塞ぎ、混乱させ、同士討ちをさせ、最後に絶望の中で狩り尽くす。
里のみんなが味わった苦しみを、何倍にもして返してあげる。
「まずは……あの見張りからね」
私の唇が三日月のような形に歪む。 復讐の夜が、始まろうとしていた。
【現在のルナのステータス】
種族: ハイ・フェアリー
Lv: 3
状態: 激怒、殺意の波動 ターゲット: ゴブリンの小集落(殲滅対象)
お読みいただき、ありがとうございました。 ゴブリンの斥候を見つけた時の、ルナのあの表情……美しさの中に混じる狂気が凄まじかったですね。 かつては震えることしかできなかった彼女が、今では自慢の翼で悠々と頭上を取り、死の宣告を下す。 第3章に入ってからのルナは、まさに「情け容赦なし」です。 いよいよ次回、ゴブリンの集落への総攻撃が始まります。 彼女が用意した「最高の絶望」とは? お楽しみに!




