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ダンジョンの最奥で手に入れた二刀の剣は、暗黒女帝と大聖女だった  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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7/14

 大変なことになった。

 今朝の旧市街は、どこもかしこもスマウグを手にした人で溢れている。

 みんな、俺が昨日上げた画像を見ているに違いない。


 酒が欲しくなり酒場にやってきた。


麦酒(エール)を一杯」

「はいよ。そっちの嬢ちゃんたちは」

「同じものをいただければ」

「私も同じものでいいのだ!」

「あれ、二人ともお酒は飲めるのか?」

「たしなむ程度ですが」

「我は酒豪なのだ、アンゼも猫被ってるだけで酒飲みなのだ」

「ディア」


 アンゼが静かな怒りを浮かべた。

 ディアは焦りつつ、ゆっくりと目線を逸らす。


「そっか、二人は酒好きか……って、なんでついて来てるんだよ! アパートで待っててって言ったじゃないか!」

「デイモンの剣として常にお傍にいなければなりません。これはわたくしたちの義務であり、宿命なのです」


 ディアがにやつきながら、


「ついてきたらダメなのか? いかがわしい店にでも行くつもりだったのか?」

「行かないよ。まったく……」


 事態は取り返しのつかないところまできている。

 11階層への転移神殿が見つかったこと、11階層の大扉(ニューゲート)が見つかったこと、そして11階層の階層門番(レイドボス)討伐。

 すべて、俺のやったことだ。

 あれが大扉(ニューゲート)だなんて誰が思うんだ。デカい扉なんて他にいくらでもあるもんなんじゃないのか。

 そもそも閉じられた状態の大扉(ニューゲート)を見たのは初めてだ。

 階層門番(レイドボス)だってそうだ。

 50年間一度も発見されてこなかったんだから、わからなくて当然だろう。

 倒せたのはアンゼのおかげだ。


 酒場のスイングドアが開き、レイさんたちの姿が見えた。

 騒がしかった辺りが何故だが少し静かになる。冒険者たちが、レイさんたちをじろじろと見た。

 なんだろうか……。

 俺を見つけたエマさんが、こちらに手を振っている。

 3人が近づいてくる。


「隣、いいか」とレイさん。

「はい」


 昨日の今日だ。

 嫌じゃないが、気まずい。会いたくはなかった。

 3人が、向かいの席に着く。


「知り合いかい?」


 レイさんがアンゼとディアをちらと見て、ぎこちなく聞いた。

 どう説明すればいいだろうか。俺ですら、まだよくわからないのに。

 新しいパーティーメンバーだと思われてはまずい。

 かといって、11階層の階層門番(レイドボス)の部屋の祝福の宝箱(ゴスペル・チェスト)から見つけた剣です……なんて言えない。


「昨日、ちょっと針の塔(オベリスク)に行ったときに」

「……パーティーを組んだのか」

「いや、その、一人でですけど」

「一人でだと!」

「デイモン、あなた何考えてるのよ! 針の塔(オベリスク)に一人で入るなんて!」

「なるほど、流石のデイモンもソロはまだ無理だったか」とジェイムスさん。


 流石の、の意味はわからないが、どうも3人は、二人を通りすがりの救助隊か何かと勘違いしたらしい。

 なんらかの魔物(モンスター)に殺されそうになっていたところを、俺は助けられたというわけだ。


「見ない顔だなあ、上階層の冒険者か?」とジェイムスさん。

「そ、そうなんですよ。二人は上階層から下りてきたらしくて」

「デイモン、今朝の肉が食べたいぞ!」ディアが言った。

「今朝の肉? ああ、河川蜥蜴(リザードマン)か。あれは酒場には置いてないよ。針の塔(オベリスク)に狩りに行かないと」

河川蜥蜴(リザードマン)の肉を所望する!」

「だから置いてないんだって」


〈氷結袋〉が森に吊るしてある。

 なぜだか冒険者があまり近づかない森だから、今戻ればまだあるかもしれない。


「待て、デイモン」とレイさん。 「今、河川蜥蜴(リザードマン)と言ったか? まさか、あれを相手にしたのか?」

「え、嘘でしょ……本当だったの?」とエマさん。

 ジェイムスさんが言った。 「だから言っただろ」


 レイさんが溜息をついた。


「デイモン、実は君に話があるんだ。世間で今何が起きているのかは知っているだろ」

大扉(ニューゲート)が見つかった話ですか」

「11階層の、大扉(ニューゲート)が見つかった件だ。今や10階層などどうでもいい。最大の問題は、名無しの冒険者だ」


 どきっとした。

 まるで自分のことを言われているように感じた。

 自分のことだけど……。


「なぜだか名無しの冒険者が、僕たちの〈集会場(ミーター)〉アカウントをホストしている」


 唐突に言われ、丁度口に含んだ酒で咽る。


「大丈夫か?」

「は、はい、大丈夫です」

「それが理由で、今僕らは治安維持隊に監視化にある」

「え、監視?」

「名無しの冒険者の仲間だと思われてるのよ」とエマさん。

「治安維持隊には攻略課という部署があるんだ。攻略課を通し、貴族たちが英雄会(メシア)に出資金を出しているというのは有名な話だ。針の塔(オベリスク)の攻略には金がかかる。大扉(ニューゲート)を見つけた英雄会(メシア)は、出資金に見合うだけの働きをしたというわけだ」


 ジェイムスさんが言った。


「だが昨日、名無しの冒険者が11階層に到達した。奴らにとって、これほど面白くない話もないだろう。メンツ丸潰れだ。貴族というスポンサーなしに、英雄会(メシア)が大手ギルドであり続けることはできない。英雄会(メシア)は今回、スポンサーからの信用を失った」

「酷い話ですね」

「名無しの冒険者は今後追われることになる」レイさんが言った。

「え、そうなんですか?」


 マジか。嘘だろ……。


「捜査はもう始まっているらしいわ」とエマさん。 「スマウグの逆探知もやったらしいんだけど、なんでも、名無しの冒険者は魔道具にも精通しているらしいの」

「どういうことですか?」


 どういうことだ。俺は魔道具になんか精通してない。

 レイさんが言った。


「治安維持隊の大佐の話では、名無しの冒険者はスマウグを改造したのだとか。スマウグの中に魔力防壁のようなものが築かれており、探知できないそうだ」

「なるほど」

「僕たちは3日後、治安維持隊の遠征に加わる」

「そうなんですか?」

「デイモン、僕たちと最前線へ行かないか?」


 いきなりの誘いに、俺は絶句した。


「君がいれば心強い。君の洞察力やスキルは役に立つ」

「なにを言ってるんですか?」お世辞にもほどがある。

「7年前、僕らは9階層にいた。大扉(ニューゲート)を見つけるため、大手ギルドやプロ冒険者たちと同じように、前線にいたんだ」

「え、3人が9階層に!」


 レイさん、エマさん、ジェイムスさんは頷いた。


「だがそこで見たのは、冒険者の大量の死だった。優秀な者や若者、好奇心の強い者や、勇気のある者から順に死んでいった。あの頃、9階層は墓場と化していた。僕らのように怖気づき、前線を離れた者だけが生き残った」

「お前のことだ、デイモン」とジェイムスさん。

「俺?」


 レイさんが答える。


「君のような、若く才能に溢れた者が大量に死んだ」

「ソロで挑むような奴もいたなあ」

「だから僕は、君を前衛には出さなかったんだ。いずれは、とは思っていたよ。君の実力は理解していたからね。だけど才能だけじゃ、どうにもならないこともあるんだ。経験を積もうと突破できないものもある。大扉(ニューゲート)の探索とは、耐え続けるということなんだよ」

「余力を十分に残した状態で、一定のペースをキープしながら走り続けるの」

「まあ当然、息は詰まるわなあ」

「ペースを乱した者から死に向かう。才能でも経験でもない、前線で信じられたのは運だけだった。僕らは運が良かったんだ」


 レイさんが席を立った。

 エマさんもジェイムスさんも続き、席を立つ。


「デイモン。パーティーに、戻ってきてくれないか」


 改まったように、レイさんはそう言った。

 俺は、1、2秒の間を置き答えた。


「すみません。これ以上迷惑をかけたくないので、俺は戻れません」


 俺が再加入を断った3日後。

 レイさんたちは、治安維持隊の遠征隊の列に混ざり、9階層へと旅立った。

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