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河川蜥蜴が曲剣を突き立て、二足歩行で迫っている。
俺は素早く腰の直剣を抜いた。
「ここだ!」
思わず声が出てしまうのは、いつものことだ。
河川蜥蜴の向かって右側に、右足を踏み込みながら、直剣を横に構え、抑揚をつけるようにして振り抜いた。
河川蜥蜴は、おそらく俺を突き刺そうとした。その瞬間に、動きが僅かに止まった。力んだのだ。どういう訳か、こいつらはいつも力む。
体の構造に弱点でもあるのか、どうなのか……。
相手の動きを見切った瞬間の高揚感は、気持ちがいい。
だからいつも声が出てしまう。
といっても、河川蜥蜴を相手にしたのは一カ月ぶりくらいだ。
レイさんたちと《針の塔》に入るときは、俺は前衛に出ないから、剣は抜いても使わない。
辺りは木々と茂みに囲まれていた。
「〈鑑定〉!」
河川蜥蜴の死体と曲剣に、スキルを使った。
目の前に、透過した長方形の表示画面――ウィンドウが現れる。枠内には、内容が記載されている。
――――――――――――――
・魔物
〈河川蜥蜴〉
蜥蜴種。河川や河口など、平坦な川の傍に村や野営地を形成し、住み着く魔物。集団と個人と、行動スタイルは人間同様に多種多様。
皮がワニのように丈夫であり、袋や鞄、防具などに加工して使うことができる。
・所持品
〈腰布〉
汚れた麻の布。
〈山賊首領の曲剣〉
素材は簡素だが、よく研ぎ澄まされている。生前、山賊の首領だった女の持ち物。
――――――――――――――
スキル〈鑑定〉は、対象の内容を知ることができる。価値があるかどうかは内容を見て自分で判断する。
ウィンドウは俺にしか見えない。
曲剣を鞘ごといただき、死体から腰布を剥がす。
河川蜥蜴の右腕を鱗ごと切り落とし、血を軽く振り落として腰の麻袋に入れた。
首を斬り落とし、紐で軽く縛る。自分の腰に括り付け、吊るす。
「戦利品はこんなもんか。あとは……」
冒険者のマナーだ。
狩った魔物は、そのまま放置しない。
〈氷結袋〉という、冒険者御用達の魔道具がある。サイズが大小あり、市場や雑貨屋、道具屋なんかで激安で売られている。
狩ったモンスターを袋のサイズに合わせ、部位ごとに切り分けて袋に入れた。素材は一瞬で冷凍される。これで鮮度は保たれる。
袋に詰めたら、紐か何かで縛り、一つにまとて木に吊るしておく。傍に木がない場合は、岩陰か、岩の上にでも置いておけばいい。
《針の塔》では、毎日どこかで冒険者が死ぬ。
死因は様々だ。魔物に殺されたり、派閥争いやなんかで冒険者に殺されたり、崖から落ちて死んだり……。
今にもどこかで、誰かが死んでいる。
これは、せめて飢餓で亡くなることがないようにと始まった風習だ。
俺は、木の太い枝に袋を括りつけた。
「《索敵》!」
河川蜥蜴がいるということは、近くに川があるということだ。
一匹で行動する個体もいるが、大抵は集団で動いている。
近くにまだ河川蜥蜴がいる可能性がある。
「あっちか」
いた。
古城を背に北の方角、ということにしておこう。
ここを真っすぐ進み、おそらく森を抜けた先だ。河川蜥蜴が複数体いる。
だが今日はもう十分だ。
それに、一騎打ちならまだしも、一度に複数を相手にするのは面倒くさい。
東に向かって森を抜けると、峡谷の目の前に出た。見上げるのも疲れそうな高い壁に挟まれ、だだっ広い道が続いていた。
帰るつもりだったが、面白そうだと思い少し歩いてみた。
まるで絶壁に挟まれている気分だ。
道の脇に小さな川を見つけた。思わず〈索敵〉を発動する。河川蜥蜴はいないようだが、しばらくスキルを発動させておいた方がいいだろう。
「なんだこれ」
壁に空洞ができていた。
中はどうやら洞窟になっているらしい。
入り口の前に、壁の色と同じ大量の岩が広く低く積み上がっている。おそらく最近崩れたのだろう。それで洞窟が顔を出したんだ。
鞄から、布切れとアルコールを取り出した。〈山賊首領の曲剣〉の剣先に、切れないように布を巻き付け、アルコールをかける。マッチを擦って火をつけた。
積み上がっている岩を跨ぎ、洞窟の中に入った。
鍾乳洞ではないだろうか。
火が頼りないから全体は見えない。壁に火を近づけると、雲のような皺が見えた。若干湿っているようだ。頭に何か冷たい感覚があった。水だ。
天井に剣先を伸ばすと、氷柱のような岩の先端から水が滴っている。
近くに川があったことを思い出し、いい加減な知識が過った。
もしかすると、ここ最近、この天井の高さまで水が満たしていたのではないだろうか。
情報共有は大切だ。
スマウグを取り出し、アプリ〈集会場〉を起動する。撮影機能で鍾乳洞の天井や壁を、火を照らしながら撮った。
「こんなもんでいいか」
上手く撮れた方だろう。
画像を添付し、〈鍾乳洞みっけ!〉のコメントと共に記事を上げた。
気が付くと、検索機能から《陽気な少年たち》のアカウントページを探していた。
見つけると、俺は〈ホストボタン〉を押した。
ユーザーページの〈ホスト:0〉だったものが〈ホスト:1〉に変わった。
クライアントの数は、冒険者にとって知名度や人気を表していて、それ自体が力に繋がることもある。
これで、少しは役に立てたかもしれない……。
ポケットにしまおうとして、スマウグを地面に落とした。慌てて地面に火を照らす。
運よくすぐに見つけられたが、落とした衝撃で側面が半開きになっていた。間に細かい石が入ったのか、軽く振るとカサカサと音がする。
やってしまった……。スマウグは高級品なのに。
画面は映った。仕方なく、そのままポケットにしまう。
道幅が狭くなってきたところで、開けた場所に出た。
「神殿か……」
自然に生成された場所ではないように思う。
正方形の広い部屋だ。天井の隅のあちこちに隙間があり、そこから外の光が漏れている。火を使わなくても、少しだが部屋全体を見渡せた。
部屋の中央に4つの柱があり、それが四角い舞台を作っていた。今ふみしめている地面よりも、大人一人分ほど高い。
短い階段を上がった。
最初の一歩を舞台の上に下ろした瞬間、舞台全体が青く光った。
「しまっ!」
しまった。
そう思ったときには、視界は白い光一色になっていた。
▽
尻餅をついていた。
「どこだ、ここ……」
目の前に四角い舞台があった。短い階段と4つの柱も見える。
だがここは、さっきの部屋じゃない。すぐにわかった。
天井の隙間から漏れていた光はない。
部屋全体は薄暗く、四方の壁にかけらた燭台が照らしていた。さっきの部屋と比較するとかなり薄暗いが、見えないほどではない。
舞台の周りは、浅く水が溜まっている。俺の尻が濡れてしまったのは、そのせいだ。水面で蝋燭の火が揺らめいている。少し肌寒い。
とりあえずスマウグを取り出す。
部屋の中を軽く撮影し〈集会場〉を開いた。
〈なんか転移した(笑)〉のコメントと共に添付し、記事を上げた。
「考えても仕方ない」
入り口から部屋を出ると、その先は鍾乳洞ではなかった。
燭台に照らされた白壁の廊下を抜けると、景色が一変する。
広大な青空と大地が広がっていた。
後ろには神殿だ。また一枚写真を撮る。〈やっぱ神殿だった。けど転移したから別の神殿か?〉のコメントと共にアップする。
神殿の裏には、赤色の山脈が広がっていた。
頂上にいくほど山は赤みを帯びており、麓に近づくほど灰色で、石や岩が向きだしだ。
赤色山脈を撮った。〈赤色山脈と命名する!〉のコメントと共にアップする。
「ちょっと少し進んでみるか」
赤色山脈を左手に、しばらくし進んだところで足が止まった。
「でっけえ……」
山脈にめり込む、巨大な扉を見つけた。




