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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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終わりの始まり


ガタン、ガタン。

私の鼓動と重なる電車のリズム。

今日で、彼と一緒に乗るのも最後。

高校の三年間、登下校した時間。

それも、あと数駅で終わってしまう。

彼は私のこと、どう思っているんだろ?

ただの幼馴染なのかな。

女の子として、見てくれたことなんてなかったのかな。

手すりに肘を付いて、反対側の景色を眺めている横顔。

しっかりとした眉毛に、物憂げなまつ毛、スッとした鼻梁に、たくさん笑わせてくれた唇。

そこに車窓の建物が光と影を交互に運ぶ。

彼は、いつものように耳にイヤホンを付けて音楽を聴いている。

私は、視線を膝の上に置いた手に移した。

スカートをギュッと握りしめている。

どうしよう。


車内にアナウンスが入り、スピードが緩んで、ガチャガチャと電車が音を立てて車内が揺れる。

私のこころはぐちゃぐちゃのまま……

ふいに私の肩が彼に触れた。

彼はゆっくりとこっちを向いて頬を緩める。

優しい顔に私も笑顔になる。

すると彼は片方のイヤホンを外して、私の耳につけた。

冷たい指先だった。

触れられたことに、トクンと心臓が跳ねる。

首を傾げると、彼は少しだけ真っ直ぐ私を見て車窓に目を向けた。

彼の視線の先には目に馴染んだ景色が淡い青空の下に広がっていた。


あれ?

無音のイヤホン。

聞こえてきたのは音楽じゃなくて――

彼の声だった。

「……えっと、これ、テストじゃなくて、ちゃんと伝えたいこと。ん、んん……」

里桜りお、ずっと言おうと思って、その準備してて、でも面と向かって言うのが照れくさくて、でも今日が一緒にいれる学校生活最後で、焦って録音し直してる。ふー……」

彼の言葉と息遣い。

スカートを握る手にさらに力が入って汗ばんでくる。

目に見えている景色さえ頭には入ってこない。

全ての意識が耳に向けられて、続く声を待っている。

今聞こえるのは、私の張り裂けそうな心臓の音だけ。

「…………里桜。……好きです。付き合って、欲しい……」

無音が続く。

ずっとずっと、待ってた言葉。

照れやな彼らしいけど。

スカートを握っていた手が震えている。

そっと重ねてなだめてみる。


ガタン、ガタン。

いつの間にか、電車は走り出していた。

「里桜、そのどうかな?」

録音じゃない彼の声に、私は涙を堪えながら「うん」頷いた。

その拍子に――

雫が一つ、私の手の甲にポツリと落ちた。

それを拭うように彼の手が重なる。

小さい頃は、一緒につないでいた手。

いつの頃からか、近くて遠くなった手。

また戻って来てくれた手は大きくて温かかった。

私は彼の肩に頭を乗せた。

イヤホンから、もう一度、彼の声が優しく流れる。

「……昔からずっと、好きでした」 

「私もだよ……」

拙文読んで下さりありがとうございます。

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