表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/74

北風の吹いた日。

雲が多くて、風が日陰を運んできては、頬に冷たさを残していく。

吐く息が時々白く立ちのぼる。

制服の上に羽織ったカーディガンだけじゃ、少し寒かったかな。

その襟元をそっと掴む。

「この先みたいよ」

隣を歩く寿子がスマホ片手に指を差す。

清水寺に向かう商店の立ち並ぶ緩やかな坂道。

お菓子やアクセサリー。

お土産の呼び込みの声がひっきりなしに聞こえてくる。

人の流れもごちゃごちゃしてて、私は寿子の肘につかまっている。

「綾、お前迷子になりそうだからちゃんとつかまっとけ」

班のリーダの高村くん。

「うん、分かってるよ」

「大丈夫、私がいるからね」

寿子は私の手をギュッと握った。

あったかさにほっとする。

「うん」

「でも、多いね人。東京と変わんないじゃん」

「うん。人ごみ苦手」

「私も」

「なんか混みそうだから今のうちにお土産買っとくか?」

高村くんの声で、帰りの予定のお土産を先に買うことに。

私は両親と、弟、おばあちゃんとおじいちゃんの分のお菓子。

そして自分用にピンクの着物を着た、アニメ調のかわいい女の子のキーホルダーを買った。

「寿子、外で待ってるね」

「分かった」


店の入口の脇で、買ったばかりのキーホルダーをリュックにつけようと。

背負ったリュックを肩から外して抱えようとした時。

帽子を被った男の人が駆けてきて、リュックにぶつかった。

「あっ」

リュックが跳ね落ちて、キーホルダーも飛んで行った。

男の人はそのまま走って行ってしまった。

周りの人は何もなかったかのように動き出す。

リュックを拾い上げて、ウロウロと人の流れの中、キーホルダーを探す。

でも。

行き交う人達の靴の合間にピンク色は――

見当たらない。

かわいかったのにな。

とぼとぼとお土産屋の前に戻る。

すると、さっきの帽子の男の人が声を掛けてきた。

「これ君の?」

摘まんだ指先にキーホルダーが揺れていた。

申し訳なさそうに頬を指で掻きながら、私の顔を覗き込む。

よく見ると、私と変わらないくらいの年齢の男の子だった。

ちょっとかっこいい感じ。

「あ、はい。ありがとうございます」

私が受け取ろうと手を出すと、

「そう、これはお詫び」

キーホルダーと一緒に、ポストカードが載せられた。

「いや、お詫びなんて」

「じゃあ」

男の子は帽子を目深にかぶって、何かを避けるように人混みの向こうへと消えていった。


「綾、お待たせ」

「うん」

「ん? 何持ってるの?」

「ん?」

私の手からポストカードを取り上げる。

キーホルダーをリュックにつけようとしていると。

「え? 綾なにこれ!」

寿子の大声にビクッとしてキーホルダーを落としそうになる。

「もう、いきなり大きな声出さないでよ」

グッと私の腕を引き寄せポストカードを私の顔の前に突き出す。

「近い」

「ああ、よく見て」

笑顔の男の子の写真。

ああ、さっきの子だ。

自分の写真を渡してくるなんて変なの?

ん?

プリントされている名前。

「……あんどう、そう? はやて?」

「ああ、綾、知らないんだ」

「なにが?」

「この、安堂颯あんどう そうって?」

「ああ。さっきぶつかってきた人」

「えー! いたのここに?」

きょろきょろしだす寿子。

「もういないと思うけど」

寿子は分かりやすく肩を落とす。

「『Says』ってアイドルグループ知らない?」

「知らない」

「だよね。この子そのグループの子だよ」

「ふーん」

なるほど。

宣伝のためにお礼と言って渡してきたんだ。

「ああ、まあ知らないからしょうがないけど、これ見て」

写真をひっくり返す寿子。

そこにはサインが書いてある。

「これがどうしたの?」

「だよね。綾、これ直筆サインだよ。ファンならよだれじゅるじゅる」

「ふーん。寿子欲しいならあげる」

「え? いいのって、そう言う訳にもいかないみたいだよ」

「なにが?」

ニヤニヤして持っていた指をずらす。

そこには数字の羅列。

「……電話番号?」

私の呟きに、寿子が壊れたおもちゃのように肩を震わせ始めた。

「すごいよ、やばいよ綾」

寿子はポストカードを両手に口の端を上げ、体を捻りスカートをゆらゆらと揺らしている。

「なんで?」

「だって、颯くんと、お近づきになれるかもかも」

「別に興味ないから、寿子してみたら?」

両手をだらんとうなだれる寿子。

よし。

キーホルダーも付けたし。

肩をトントンとされる。

「なあに? 寿子」

「本当に連絡しないの? チャンスなのに」

「別にチャンスじゃないよ。私には」

「ならなら、メッセージくらい送ってみなよ」

「しつこい。したいなら寿子がしなよ。それ、あげるから」

「颯くんは、綾にくれたんでしょ?」

寿子は私の胸にポストカードを押し付ける。

貰っても意味がないのに……

私は溜息を飲み込んで、それをブレザーのポケットに突っ込んだ。

「おい、みんな行くよ」

高村くんの声。

「はあい、寿子行こ」

「もう、全く綾は」

なんでか不機嫌な寿子はそれでも私の手を取って歩き出した。

吹きすさぶ風に髪を押さえながら。

拙文。お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ