北風の吹いた日。
雲が多くて、風が日陰を運んできては、頬に冷たさを残していく。
吐く息が時々白く立ちのぼる。
制服の上に羽織ったカーディガンだけじゃ、少し寒かったかな。
その襟元をそっと掴む。
「この先みたいよ」
隣を歩く寿子がスマホ片手に指を差す。
清水寺に向かう商店の立ち並ぶ緩やかな坂道。
お菓子やアクセサリー。
お土産の呼び込みの声がひっきりなしに聞こえてくる。
人の流れもごちゃごちゃしてて、私は寿子の肘につかまっている。
「綾、お前迷子になりそうだからちゃんとつかまっとけ」
班のリーダの高村くん。
「うん、分かってるよ」
「大丈夫、私がいるからね」
寿子は私の手をギュッと握った。
あったかさにほっとする。
「うん」
「でも、多いね人。東京と変わんないじゃん」
「うん。人ごみ苦手」
「私も」
「なんか混みそうだから今のうちにお土産買っとくか?」
高村くんの声で、帰りの予定のお土産を先に買うことに。
私は両親と、弟、おばあちゃんとおじいちゃんの分のお菓子。
そして自分用にピンクの着物を着た、アニメ調のかわいい女の子のキーホルダーを買った。
「寿子、外で待ってるね」
「分かった」
店の入口の脇で、買ったばかりのキーホルダーをリュックにつけようと。
背負ったリュックを肩から外して抱えようとした時。
帽子を被った男の人が駆けてきて、リュックにぶつかった。
「あっ」
リュックが跳ね落ちて、キーホルダーも飛んで行った。
男の人はそのまま走って行ってしまった。
周りの人は何もなかったかのように動き出す。
リュックを拾い上げて、ウロウロと人の流れの中、キーホルダーを探す。
でも。
行き交う人達の靴の合間にピンク色は――
見当たらない。
かわいかったのにな。
とぼとぼとお土産屋の前に戻る。
すると、さっきの帽子の男の人が声を掛けてきた。
「これ君の?」
摘まんだ指先にキーホルダーが揺れていた。
申し訳なさそうに頬を指で掻きながら、私の顔を覗き込む。
よく見ると、私と変わらないくらいの年齢の男の子だった。
ちょっとかっこいい感じ。
「あ、はい。ありがとうございます」
私が受け取ろうと手を出すと、
「そう、これはお詫び」
キーホルダーと一緒に、ポストカードが載せられた。
「いや、お詫びなんて」
「じゃあ」
男の子は帽子を目深にかぶって、何かを避けるように人混みの向こうへと消えていった。
「綾、お待たせ」
「うん」
「ん? 何持ってるの?」
「ん?」
私の手からポストカードを取り上げる。
キーホルダーをリュックにつけようとしていると。
「え? 綾なにこれ!」
寿子の大声にビクッとしてキーホルダーを落としそうになる。
「もう、いきなり大きな声出さないでよ」
グッと私の腕を引き寄せポストカードを私の顔の前に突き出す。
「近い」
「ああ、よく見て」
笑顔の男の子の写真。
ああ、さっきの子だ。
自分の写真を渡してくるなんて変なの?
ん?
プリントされている名前。
「……あんどう、そう? はやて?」
「ああ、綾、知らないんだ」
「なにが?」
「この、安堂颯って?」
「ああ。さっきぶつかってきた人」
「えー! いたのここに?」
きょろきょろしだす寿子。
「もういないと思うけど」
寿子は分かりやすく肩を落とす。
「『Says』ってアイドルグループ知らない?」
「知らない」
「だよね。この子そのグループの子だよ」
「ふーん」
なるほど。
宣伝のためにお礼と言って渡してきたんだ。
「ああ、まあ知らないからしょうがないけど、これ見て」
写真をひっくり返す寿子。
そこにはサインが書いてある。
「これがどうしたの?」
「だよね。綾、これ直筆サインだよ。ファンならよだれじゅるじゅる」
「ふーん。寿子欲しいならあげる」
「え? いいのって、そう言う訳にもいかないみたいだよ」
「なにが?」
ニヤニヤして持っていた指をずらす。
そこには数字の羅列。
「……電話番号?」
私の呟きに、寿子が壊れたおもちゃのように肩を震わせ始めた。
「すごいよ、やばいよ綾」
寿子はポストカードを両手に口の端を上げ、体を捻りスカートをゆらゆらと揺らしている。
「なんで?」
「だって、颯くんと、お近づきになれるかもかも」
「別に興味ないから、寿子してみたら?」
両手をだらんとうなだれる寿子。
よし。
キーホルダーも付けたし。
肩をトントンとされる。
「なあに? 寿子」
「本当に連絡しないの? チャンスなのに」
「別にチャンスじゃないよ。私には」
「ならなら、メッセージくらい送ってみなよ」
「しつこい。したいなら寿子がしなよ。それ、あげるから」
「颯くんは、綾にくれたんでしょ?」
寿子は私の胸にポストカードを押し付ける。
貰っても意味がないのに……
私は溜息を飲み込んで、それをブレザーのポケットに突っ込んだ。
「おい、みんな行くよ」
高村くんの声。
「はあい、寿子行こ」
「もう、全く綾は」
なんでか不機嫌な寿子はそれでも私の手を取って歩き出した。
吹きすさぶ風に髪を押さえながら。
拙文。お読み下さりありがとうございます。




