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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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笑顔で自分を守れ。

大好きなおばあちゃんは、家族みんなに見守られてあの世に旅立った。

おばあちゃんは、


「わたしは、天国なんていかないよ。あの世に行くんだ」


しわしわの顔いっぱいに皺を作って笑っていた。

なんでって聞いたら。


「私は日本人だから」


だって。


我が家のムードメーカー、娘であるお母さんは、ずっと泣きっぱなし。

お父さんはお母さんのお兄さん、伯父さんとお葬式やお通夜の手配で大忙し。

普段、わんぱくな4歳下、小6の弟の勇気も、さすがに場をわきまえているよう。


家の中は、スイッチを切った電化製品のように静かだった。

親戚や近所の人がおばあちゃんに会いに来てくれても。

会話が華やぐこともなく。

ボソボソと小さな話し声かすすり泣く声が聞こえてくるだけ。

私は慣れないながらも料理を作ったり。

お母さんやお父さんや伯父さんの家族に笑って欲しくて。

元気にしててほしくて。

普通に話しかけて、明るくしようとした。

だって、おばあちゃんがみんなに言ってたもん。


「私が死んだら、泣かないで、笑って送り出してくれって」


私がどうしてって、聞き返したら。


「悲しんでくれるのは嬉しいよ。でも悲しみを残してあの世に行きたくない。笑う門には福が来るんだよ」


さすがに私も棺の中の花に囲まれたおばあちゃんの顔を見たら涙が出そうになった。

でも、そばで泣いている弟を抱きしめていた。

お骨になったおばあちゃんと家に戻って来たとき。

おばあちゃんの言葉を想い出した。


「私は日本人だから外国のことは良く分からない。だけど、じいさんが聞いていたジャズな。それのタイトルだけは覚えてる」

「どんな?」

「Let a smile be your umbrella。」


びっくりするほど、滑らかな発音のおばあちゃんだった。


「どんな意味があるの?」

「笑顔で自分を守れ。正確な翻訳かどうかは知らないよ、爺さんから聞いたからね」

「笑顔で自分を守れか、どういう意味なの?」

「自分にやさしくってことだね」

「笑顔で自分を守ることは、自分にやさしくすることだよ」

おばあちゃんは笑いながら。

「難しく考えない。どんな時もニコニコしててごらん。特につらい時や悲しい時な」

「そうなの?」

「もちろん、悲しんだり嘆いたりするのはいいよ。でもね、それはちゃんと分かち合える人とするものだ。ずっとそこに浸かってはいられないだろ?」

「うん、そうかも」

「だから、笑顔でいるんだよ。かといって、誰かに優しくする必要ない。自分の心を置いてけぼりにしてしまうんだよ。ニコニコしてて自分の心を守ってあげるんだ」

「うーん、難しいな」

「真弓は真面目だから、私やみんなの言いつけを守るだろ?」

「そう?」

「だからさ、それに真弓の笑顔は人を元気にする力がある」

「そうなのかな……」


お骨になったおばあちゃんの前に座りながら、私はまた「次に何をすれば、みんなが元気になるだろう」と考えていた。

明日の朝ごはん、泣き止まないお母さんへの言葉……。


考えれば考えるほど、心の中には冷たい雨が降り続いていく。

その時、おばあちゃんの声が蘇った。


『難しく考えない。……特につらい時や悲しい時な』


私は、考えるのをやめた。

悲しい理由も、頑張らなきゃいけない理由も、全部一度放り出した。

そして、ただ、ギュッと固まっていた頬の筋肉を緩めて、口角をきゅっと上げてみた。


それは、誰かに見せるための笑顔じゃなかった。

「あ……」

形だけでいいからニコニコしてみると、不思議と心の中に、雨を通さない小さな屋根ができたような感覚があった。


「ねえ、おばあちゃん。これ、本当に傘だね」


私が一人でニコニコしながらお骨に話しかけていると、隣で鼻をすすっていた弟の勇気が、怪訝そうな顔で私を見た。

「……姉ちゃん、何笑ってんの」

「おばあちゃんの言いつけ。勇気もやってみな、難しいこと考えないで、ほら」


私が無理やり勇気の口角を指で押し上げると、勇気は、

「やめろよ」

と照れくさそうに笑った。

その瞬間、スイッチが切れたようだった家の中に、小さな、でも確かな「体温」が戻った。


おばあちゃんは「あの世」へ行った。

でも、おばあちゃんが教えてくれたこの「傘」の差し方を知っている限り、私たちはどこにいたって、どんな土砂降りの日だって、自分を見失わずに生きていける。


私はもう一度、しわくちゃだったおばあちゃんの顔を真似して笑ってみた。

拙文、お読み下さりありがとうございます。

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