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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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想定外

放課後、私が昇降口で靴を履き替えて帰ろうとしていた時。

「……牧野さん!」

男子の声が呼び止めた。

同じクラスの藤原くん。

地味で大人しくて、今までまともに話したこともない。

「なに?」


「あ、いや、ちょっといいかな?」

少し緊張しているのか。

表情は硬くて、顔も薄っすら赤い。

あれ?

これってもしかして?

告白きた?

そう思ってしまうあたりがちょっと自意識過剰だって自覚はある。

でも、そこそこモテるって自分でも分かってるから、

どうしてもそういう予想をしてしまう。


ただ、急だから。

準備をしていなくて。

冷静にでも、ちゃんとやさしく断れるように。

笑顔は作る。


当の藤原くんは、そわそわと、ポケットがある場所をさすって。

何かを探している。

ラブレター?

かな?


首を捻りながら、カバンの中をごそごそし始めて――

スマホを取り出した。

そして軽やかに操作し始めた。


ん?


「牧野さん、結城さんと同じ中学だったよね?」

「え? ああ、うん」

結城真美は私の親友。

「連絡先教えてもらえないかな、体育委員のことで伝えたいことがあるんだけど、結城さん今日学校休みだったでしょ?」

「ああ」


私……勝手に告白だと思ってたけど……

代わりに恥ずかしさが押し寄せてきて。


「あ、教えるのまずかったら、これだけ伝えてくれるかな。来週の委員会は月曜に変更になったって。連絡先は今度会った時にでも聞くから」


ふーん。

真面目さんだね。


「分かった、じゃあそう伝えとく」

「よかった……! ほんと助かった、週末挟んじゃうし、牧野さんがいてくれて」

藤原くんは、心底ほっとしたみたいな顔して笑う。


へえー。

そんな顔するんだ……


その笑顔が、

思った以上に柔らかくて、まっすぐで、ひたむきで

なんだろう……

胸にじん、ときた。


地味だとか、影が薄いとか、

勝手に決めつけていた自分が、

急にみっともなく思えた。


「……意外。藤原くんって困ることないタイプだと思ってた」


気づけば、そんな言葉が口から出ていた。


「あるよ? 俺だって生きてるし」

彼は当たり前みたいに言って笑う。


その一言がなんだか可笑しくて、

なのに胸がちょっとだけきゅっとした。


……なんで?


告白なんてされなかった。

予想は全部勘違いだった。


それでも、

さっきまでより少しだけ、

彼のことが気になる。


「また困ったら声かけて。……手伝うし」

私はそう言った。


藤原くんは一瞬きょとんとして、

すぐにゆっくり笑った。


「じゃあ……その時はよろしく」


その笑顔が、

今日のどんな景色よりもずっと残った。

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