光の呼吸
朝の光は、都会よりもゆっくりと地面に降りてくる。
山の端から顔を出した太陽は、急がない。
田んぼの水面をそっと撫でながら、畦道の草花をひとつひとつ起こしていく。
遠くで鳴く鳥の声と、風に揺れる竹の音。
その真ん中に、ひとりの女の子がいる。
人よりちょっとだけ、色を濃く見てしまう。
人よりちょっとだけ、音を近くで聞いてしまう。
人よりずっと、言葉にならない気配を拾ってしまう。
誰かが笑うとき、その笑顔の影も見える。
誰かが「大丈夫」と言うとき、その言葉の端の震えも聞こえてしまう。
「気にしすぎだよ」と言われるけれど、それを止めることはできない。
女の子にとって、世界は最初からそういう風に見えるようにできてしまっているから。
風景ひとつ。
言葉ひとつ。
心が強く揺れてしまう。
果てはニュースの一行。
誰かの何気ない本音。
それらが胸にひりひり突き刺さる。
「私って、弱いのかな」
そうやって、つい自分を下に見てしまう夜がある。
「こんな自分じゃダメだ」
「もっと強くなれたらいいのに」
布団の中で、枕を抱きしめながら、自分を責めてしまう日もある。
でもね。
本当に弱い心は、そんなに痛みを感じない。
世界のざらつきに気づかないよう、早々に鈍感になる。
「弱さ」だと思っているところに、
「強さ」と「才能」が、深く静かに根を張っている。
女の子は、痛みを捨てずに持っている。
人の影を見てしまうけれど、それでも顔を背けない。
涙が出そうになりながら。
それでも「この人には、こういう優しさもある」と、ちゃんと両方を見ようとする。
それは、とても誇らしい「強さ」なんだよ。
繊細で、優しすぎる女の子。
それゆえに、疲れてしまう日もある。
人混みに出ると息苦しかったり。
みんなが軽く笑い飛ばすことを、ひとりだけ真面目に受け止めてしまったりする。
でも、その柔らかな心のアンテナがあるからこそ。
綴れる想いがある。
それは、誰も真似できない「才能」なんだよ。
優しい言の葉たちを、一枚一枚拾い集めて、そっとパズルのように並べる。
誰かが置き去りにした寂しさを、ひっそりと抱きしめて、文を編んでいく。
花びらの舞も。
猫の伸びをする仕草も。
雨の匂いも。
川のせせらぎも。
女の子の中で物語に変わっていく。
派手ではないかもしれないけど。
爆発するような事件も、劇的な逆転もないかもしれない。
だけど、読む人の心に、静かに、そして確かに沁みていく。
「そうそう、こういう気持ち、あったな」
「うまく言えなかったけど、この感じ、分かる」
女の子の願いや祈りにも似た一文字一文字は、そんな風に誰かの心の中の“名前のない感情”に、そっと居場所を与えていく。
世界のどこかで、紡いだ言葉に救われる誰かがいるんだよ。
「ただの感想」だった思いつきが、
誰かには「ずっと欲しかった言葉」になることもあるんだよ。
それはね。
名誉な賞よりも。
有名な肩書きよりも。
ずっとすごくて、尊いことなんだよ。
今日、心のうちに受け止めたことは、無駄にならないから。
涙も。
ため息も。
ちいさな喜びも。
出逢いも。
別れも。
全部、いつか言葉になる。
誰かの救いになる。
自分自身の支えにもなる。
心を見失わない限り。
透明で純粋な魂で磨いた言の葉は、いつだって生まれてくる。
その宝物を待っている人が、きっとどこかにいる。
愛の詰まった一行一行は、
誰かの見過ごした影に寄り添い、光を灯しているのだから。
間違いなく、ね。
拙文、お読み下さりありがとうございます。




