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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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桃色の通学路

山からの風が川の水面揺らしている。

河川敷の通学路。

散り始めた沿道の桜の花びらが、アスファルトの上に敷かれている。

今日は中学校最後の始業式だった。

「おっ、お前らお似合いだから付き合えばいいのに」

自転車通学校のクラスメイトが冷やかしながら追い抜いていく。

「もう、なんだろうね、林のやつ」

隣の古厩喬史ふるまや たかふみは、どこ吹く風といった感じ。

小学校からの幼馴染。

家が斜向かいだからか。

当たり前のようにいつもこうして一緒にいる。

いない方が不自然って思うことすらある。

「なあ、真弓はさ、高校どうするの?」

「ん? どうって、どう?」

「俺さ、松高いくか、私立に行くか悩んでるんだよね」

「私立?」

「うん。北洋」

北洋高校は大学のある付属高校。

松高、松城高校は公立で、この辺りのほとんどの子が進学する。

小学校からサッカーをやってる喬史。

北洋は県下でも一二を争うサッカーの名門校。

松高も昔は強豪校だったらしい。

今でも県大会上位の常連のはず。


「どうして? 私に聞くの?」

「え? いや、真弓がどこ行くんだろうって」

「私は、松高かな。制服かわいいし」

「そんなのが理由かよ」

「いいじゃん。高校生活は一回しかないんだから」

プイッとそっぽを向いた。

今は言えないけど理由はあるんだよ。

「じゃあ、俺も松高にしようかな」

「え? 喬史、サッカーで全校大会出るのが夢だって話してたじゃん」

「ああ。松高も弱い訳じゃないし、それに……」

大きくため息をつく喬史。

長いまつ毛が空を見上げる。

霞が漂う水色の空。

鳥の群れがVの字になって、山の方へ飛んでいく。


「真弓さ、あきらのこと、どう思ってるの?」

「え? なにいきなり」

佐橋晃さはし あきらくんは私と同じ音楽部。

ピアノが上手で、よく教えてもらっている。

それだけの関係。

「だから、どうなの?」

「どうって、佐橋くんは友達だよ。ピアノ教えてもらったりしてる」

「ふーん」

手のひらで頬を撫でている。

なにか落ち着かない時にする喬史の仕草。

「だから、なに?」

「なにってさ、いや仲良さそうだから」

「別に私が誰と仲よくしようがいいじゃん。喬史だって乃愛とか麻美とか仲いいじゃん」

「なんだよ、あいつらはマネージャーだし」

「いいよ私は気にしないもん、喬史が誰と一緒にいたって」

「そうなのか?」

「え? だって、私にそんなことする権利ないでしょ」

「どうして?」

「どうしてって、喬史は喬史だし、私のものじゃないもん」

驚いたように目を見開いた喬史は少し俯いた。


「俺さ、真弓が俺のものじゃなくても、他の男と仲良くしてるの好きじゃない」

何かがチクリと心を刺した――

気がした。

「なにそれ」

「お前はどうなんだよ?」

「どうって……」

「俺が乃愛や麻美と仲良くしてても平気なの?」

「だから、それはさっき言ったでしょ」

「そっか」

そんなこと急に言われたって分からないよ。

喬史が大切な人は私にも大切だと思うし。

仲良くしてたって、私にはマネージャーは出来ないし。

それにこうやって、いつも一緒にいてくれるじゃん。

私にどうして欲しいの?

喬史は少し口の端を上げた。

「俺、北洋行くわ」

「そっか。頑張れ、私応援する!」

「ああ……」

サーッと流れた風が花びらを巻き上げ、私のスカートを弄ぶ。

手でそれを押さえて、流れた髪を直す。

「真弓……」

風の中に声がさらわれて。

「え?」

上手く聞き取れなかった。

喬史はそっぽを向く。

「ん? 真弓も頑張れよって」

「ああ、うん。ありがとう」

私のほっぺに花びらがくっついた。

それを喬史の指が優しく摘まむ。

それを、ふっと息を吹きかけて、宙に飛ばした。

ほっぺにあったかい感触を残して。

拙文、読んで下さりありがとうございます。

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